断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

42 潜入②

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 壊した木の扉から、屋敷の中に入る。
 部屋は薄暗く、ゴミが散らかりクモの巣だらけ。
 使われていない倉庫のようだ。
 
 一歩ごとに埃が立つ。
 思わず口を腕で覆った。レオナルドやエリオットも顔をしかめている。

 そんな中、ルークだけはクモの巣を平然と払いつつ、奥へ進んでいく。
 そして、出口の扉を調べ始めた。

「……鍵はかかってるけど、これなら開けられるかな」

「開けられる?」

 私が聞き返すと、ルークは「うん」と小さく答えた。

「よく、父上に倉庫へ閉じ込められてたから。外へ出たくて試行錯誤してたら、できるようになっちゃった」

「あ……」

 資質の強い術師は、師がいなくても魔法を覚えるという。
 聖女が精霊に呼ばれるように、知識に呼ばれるのだそうだ。

 ルークもそうだったから、公爵は息子を軟禁したのだろう。
 暗黒術師は世間から忌避の目で見られる。
 貴族にとっては世間体が悪いのだ。

「ごめんな、ルーク。こんなことさせて」

 レオナルドが申し訳なさそうに言った。
 倉庫の中に、悲壮な空気が漂う。

 早くなごやかな空気が吸いたい。
 私は、ルークの痩せた背中をポンと叩いた。

「ルークがいてくれてよかった。ありがとう」

「アナベルさん……」

 ルークは頬を染めて、瞳をうるませた。
 本人には言えないけど、ものすごく可愛い。女の子みたいだ。

「じゃあ、やってみるね」

 ルークはさっきより明るい声で言うと、シャツの袖から針金を取り出した。
 内側にポケットでもあるんだろうか。隠し方がプロだ。
 そうするしかなかったんだろうけど。

 ルークはドアに張り付き、しばらくして息をついた。

「開いたよ」

「やった……!ルーク、助かったよ」

 レオナルドもホッとして、私たちを見回した。

「ここからは、さらに見つかりやすくなると思う。気を引き締めて行こう」

「そうだね。先頭は、頼りになる人に立ってほしいな」

 私がそう言った途端、イザーク以外が詰め寄ってきた。

「アナベル様。屋敷の中では、騎士の俺が先頭に立ちます」

「僕が行こうか?国王だから見つかってもごまかせるかも」

「僕も頑張ってみる……怖いけど、暗黒魔法があるから」

「ちょ、ちょっと、待ってよ」

 何なの、もう!

「適役はそこにいるの」

 私は、みんなの後ろにいるイザークを指差した。

「イザークが大聖堂で戦った時、敵が現れる前から『来る』って言ってた。気配を察知する力は、この中ではずば抜けてると思う。だから、お願いできるかな?」

「もちろんです。評価していただき、光栄です」

 イザークが恭しく頭を下げる。

「ありがとう、頼りにしてるよ。その後ろをルークがついてくれる?逃げ場がない時は睡眠魔法スリープをお願い」

「うん……わかった」

 ルークが肩を落とした。
 レオナルドたちも、なぜか落ち込んでいる。

 よくわからないが急がなくては。
 
 廊下へ出た私たちは、空き部屋に隠れたり、物陰で息を潜めたり。
 一度、新人らしきメイドが走ってきたので鉢合わせてしまったけど、ルークの魔法で事なきを得る。

「ごめんなさい、二時間くらいで解けるから……」

 眠り込んだメイドを、ルークたちが廊下の脇に移動させる。

 その時、壁を伝って何かが聞こえた。
 使用人の会話でも、作業の音でもない。

 涙混じりの悲鳴だ。

「まさか……リリィ?」

 私たちは顔を見合わせ、もう一度耳を澄ませた。
 悲鳴は足元から聞こえてくる。
 
 私は焦る気持ちを抑えて、みんなを見た。

「きっとリリィだ。ここは一階だから、地下にいるんだよ」

「ですが、アナベル様……本当にリリィ様なのですか?なぜ、あんな悲鳴を?」

 ギデオンが戸惑いながら私を見る。
 そろそろ、簡単にでも話すべきかもしれない。

「実は……」

 私は大聖堂で、リリィが怪我を負っていたこと、それがマチルダのしわざかもしれないことを話した。
 レオナルドたちは息をのみ、イザークでさえ目を見開いてる。

「言えなくてごめん。タイミングがわからなくて」

「だからアナベル様は、リリィ様の救出を急いでおられたのですね」

 どことなく気まずそうなイザークに、私は頷いた。
 そして間を空けず、手招きをする。
 みんなの動揺が深まる前に。

「そういうわけだから、早く行こう。地下への階段を探さなくちゃ」

 私たちはまた歩き始めた。
 しかし、一向に下り階段は見つからない。

 その上、後方が騒がしくなってきた。
 眠らせたメイドが見つかったらしい。

「アナベル、どうする?」

 レオナルドが、焦ったように私を呼んだ。

「……しょうがない。ちょっと遠回りになるけど、二階に行こう。リリィの部屋があるの」

「二階?でも、リリィは地下なんじゃ……」

「そうだけど、二階には屋敷に詳しくて、リリィを絶対に裏切らない人たちがいるはずだから」
 
 それは誰だ、と質問が飛んでくる前に、私はさっさと歩き出した。

 コソコソと階段を上がると、イザークが私に囁いた。

「見張りの数が格段に減りました」

「そうなの?私たちが見回りしてるって聞いて、マチルダが兵士を外に出したのかな」

 それなら少しは安心だ。
 足を速めて……と思ったのに、イザークが突然立ち止まった。

「アナベル様、人が来ます」

「誰?兵士っぽい?」

「いえ。足音は軽いですが、よく響いています。戦闘訓練は受けていないのでしょう。しかしメイドではなく、どちらかといえば侍従や貴族のような……子どももいますね。全部で三人です」

 その中に目当ての人物がいるかもしれない。
 みんなが警戒する中、私だけが期待に胸を膨らませる。
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