断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

24 帰還

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「ありがとう。僕たちは君を処刑しようとしたのに。その上、ひどいことまで……」

「い、いいって、そんなこと。というか、そうされても仕方ないよ」

 茶会の最中に目を血走らせて、歯ぎしりする令嬢──怖すぎる。
 そんな相手が近くに来たら、私なら殴りながら蹴ってしまう。

「そうですね。以前のアナベル様は、罪を犯す前から犯罪者の顔をなさってました」

 エリオットにきっぱりと言われてしまった。

「だからごめんってば……もうそんなことしないから」

 肩を縮こめる私に、彼は「ええ」と続ける。

「今はまるで別人です。国民ばかりか、リリィ様まで救おうとしてくださった。……アナベル・ヘイルフォード様。数々の非礼、申し訳ございませんでした」

 エリオットが膝をつくと、ギデオンも同じ礼を取る。

「リリィは、俺たちにとって大切な仲間──いえ、家族のような存在です。あなたの案なら、これからも共に旅を続けられます。感謝いたします」

「僕も……失礼な態度を取って、ごめんなさい」

 ルークは涙を浮かべて、深々と頭を下げた。
 ちなみにレオナルドもまだ顔を上げていない。

 男性四人のつむじが見えている状態だ。

「えっと、あの、その」
 
 あたふたしていると、リリィが私に近づいてきた。

「私からも、ありがとう。それで……二人で聖女なら、アナベルも私たちと旅をしてくれるのよね?よろしくって、言ってもいい?」

 心細げなリリィを前に、ぴんと来た。
 彼女も、四人と同じことをしようとしている。
 
 このままでは、つむじに囲まれてしまう。

「も、もちろん。というか、そもそも怒ってないし、したいことをしただけで……ねえ、もう帰ろう!」

 居たたまれなさから、思わず逃げてしまった。
 イザークの腕を引っ張って、すっかり歩きやすくなった更地をズンズン進む。

 すると、イザークが落ち着いた声で話しかけてきた。

「アナベル様、もう離れてくださっても問題ありません。現時点では、あなたを斬る必要はありませんので」

「一人で先に行くと気まずいから、ついてきて!」

 競歩の選手みたいに急いでいると、後方で誰かが、

「イザークが羨ましい」

 と、呟いた。
 なんだか気恥ずかしくて、振り返ることはできなかった。

 だから、この時は気付けなかった。
 リリィの瞳が、不安そうに揺れていたことに。

  ◇

 森から帰った翌日、私は別の部屋に収容された。
 “収容”というには、かなり豪奢な部屋だが。
 
 レースのカーテン。
 ふかふかの絨毯。
 金細工とかけ合わせた家具は、どれも丁寧に磨かれている。

 服装も変わった。
 旅装束も高級品だったけど、今日は薄紫のロングドレスが用意された。
 レースがふんだんに使われて、なめらかな肌触りが気持ちいい。

 王都からでも、森が消し飛ぶのは見えただろう。
 宮廷貴族が、「雑な対応をしたら自分も消される」と怯えたのだろうか。

 それなら、アナベルが聖女かもしれないと、貴族も疑っているということだ。

 だからと言って、手放しでは喜べないけど。
 朝食後、天蓋つきのベッドに腰掛けてから、考え事が何時間も止まらない。

 今は、レオナルドが議会で発表している頃だ。
 「アナベルとリリィは二人で聖女だ」と。

(マチルダも、ほかの議員も、信じてくれるかなあ)
 
 ゲームプレイ時は、レオナルドを「優しいお兄ちゃん的存在」だと思っていた。
 しかし、自分やリリィの命を預けるとなると……正直、心もとない。

(ううん、大丈夫。お飾りでも国王だし。レオナルドも言う時は言うから)

 それに、脅し文句も教えておいた。

『嘘だ!って騒ぐ奴がいたら、笑顔でこう言っといて──アナベルを殺してもいいが、次はお前も魔物と戦え。聖女リリィのそばだから安全だぞ──って』

 マチルダは、「いいからアナベルを殺せ」と言うかもしれないけど。
 エルディリス家当主や聖女は、よほどの大罪を犯さない限り、王命を無視できるから。

 しかし、ほかの貴族は違う。
 何があろうと、二人で聖女説に納得するしかない。

 魔物と戦いたい人間なんて、一人もいないのだから。
 
(大丈夫、大丈夫)

 自分に言い聞かせていると、今度は別の不安が頭をもたげてくる。

(そういえば、そろそろ時間だよね。あの人、部屋に呼んでみたけど……来てくれるのかな?)

 うーん、と唸った時、廊下を歩く足音が聞こえてきた。

(来た⁉︎)

 私はすばやく立ち上がり、髪とドレスを軽く整えた。

 ドアがノックされる。
 少し緊張しながら、「どうぞ」と返した。

「失礼します」

 ドアが開いて、イザークが入ってきた。
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