24 / 105
1章 断罪回避
24 帰還
しおりを挟む
「ありがとう。僕たちは君を処刑しようとしたのに。その上、ひどいことまで……」
「い、いいって、そんなこと。というか、そうされても仕方ないよ」
茶会の最中に目を血走らせて、歯ぎしりする令嬢──怖すぎる。
そんな相手が近くに来たら、私なら殴りながら蹴ってしまう。
「そうですね。以前のアナベル様は、罪を犯す前から犯罪者の顔をなさってました」
エリオットにきっぱりと言われてしまった。
「だからごめんってば……もうそんなことしないから」
肩を縮こめる私に、彼は「ええ」と続ける。
「今はまるで別人です。国民ばかりか、リリィ様まで救おうとしてくださった。……アナベル・ヘイルフォード様。数々の非礼、申し訳ございませんでした」
エリオットが膝をつくと、ギデオンも同じ礼を取る。
「リリィは、俺たちにとって大切な仲間──いえ、家族のような存在です。あなたの案なら、これからも共に旅を続けられます。感謝いたします」
「僕も……失礼な態度を取って、ごめんなさい」
ルークは涙を浮かべて、深々と頭を下げた。
ちなみにレオナルドもまだ顔を上げていない。
男性四人のつむじが見えている状態だ。
「えっと、あの、その」
あたふたしていると、リリィが私に近づいてきた。
「私からも、ありがとう。それで……二人で聖女なら、アナベルも私たちと旅をしてくれるのよね?よろしくって、言ってもいい?」
心細げなリリィを前に、ぴんと来た。
彼女も、四人と同じことをしようとしている。
このままでは、つむじに囲まれてしまう。
「も、もちろん。というか、そもそも怒ってないし、したいことをしただけで……ねえ、もう帰ろう!」
居たたまれなさから、思わず逃げてしまった。
イザークの腕を引っ張って、すっかり歩きやすくなった更地をズンズン進む。
すると、イザークが落ち着いた声で話しかけてきた。
「アナベル様、もう離れてくださっても問題ありません。現時点では、あなたを斬る必要はありませんので」
「一人で先に行くと気まずいから、ついてきて!」
競歩の選手みたいに急いでいると、後方で誰かが、
「イザークが羨ましい」
と、呟いた。
なんだか気恥ずかしくて、振り返ることはできなかった。
だから、この時は気付けなかった。
リリィの瞳が、不安そうに揺れていたことに。
◇
森から帰った翌日、私は別の部屋に収容された。
“収容”というには、かなり豪奢な部屋だが。
レースのカーテン。
ふかふかの絨毯。
金細工とかけ合わせた家具は、どれも丁寧に磨かれている。
服装も変わった。
旅装束も高級品だったけど、今日は薄紫のロングドレスが用意された。
レースがふんだんに使われて、なめらかな肌触りが気持ちいい。
王都からでも、森が消し飛ぶのは見えただろう。
宮廷貴族が、「雑な対応をしたら自分も消される」と怯えたのだろうか。
それなら、アナベルが聖女かもしれないと、貴族も疑っているということだ。
だからと言って、手放しでは喜べないけど。
朝食後、天蓋つきのベッドに腰掛けてから、考え事が何時間も止まらない。
今は、レオナルドが議会で発表している頃だ。
「アナベルとリリィは二人で聖女だ」と。
(マチルダも、ほかの議員も、信じてくれるかなあ)
ゲームプレイ時は、レオナルドを「優しいお兄ちゃん的存在」だと思っていた。
しかし、自分やリリィの命を預けるとなると……正直、心もとない。
(ううん、大丈夫。お飾りでも国王だし。レオナルドも言う時は言うから)
それに、脅し文句も教えておいた。
『嘘だ!って騒ぐ奴がいたら、笑顔でこう言っといて──アナベルを殺してもいいが、次はお前も魔物と戦え。聖女リリィのそばだから安全だぞ──って』
マチルダは、「いいからアナベルを殺せ」と言うかもしれないけど。
エルディリス家当主や聖女は、よほどの大罪を犯さない限り、王命を無視できるから。
しかし、ほかの貴族は違う。
何があろうと、二人で聖女説に納得するしかない。
魔物と戦いたい人間なんて、一人もいないのだから。
(大丈夫、大丈夫)
自分に言い聞かせていると、今度は別の不安が頭をもたげてくる。
(そういえば、そろそろ時間だよね。あの人、部屋に呼んでみたけど……来てくれるのかな?)
うーん、と唸った時、廊下を歩く足音が聞こえてきた。
(来た⁉︎)
私はすばやく立ち上がり、髪とドレスを軽く整えた。
ドアがノックされる。
少し緊張しながら、「どうぞ」と返した。
「失礼します」
ドアが開いて、イザークが入ってきた。
「い、いいって、そんなこと。というか、そうされても仕方ないよ」
茶会の最中に目を血走らせて、歯ぎしりする令嬢──怖すぎる。
そんな相手が近くに来たら、私なら殴りながら蹴ってしまう。
「そうですね。以前のアナベル様は、罪を犯す前から犯罪者の顔をなさってました」
エリオットにきっぱりと言われてしまった。
「だからごめんってば……もうそんなことしないから」
肩を縮こめる私に、彼は「ええ」と続ける。
「今はまるで別人です。国民ばかりか、リリィ様まで救おうとしてくださった。……アナベル・ヘイルフォード様。数々の非礼、申し訳ございませんでした」
エリオットが膝をつくと、ギデオンも同じ礼を取る。
「リリィは、俺たちにとって大切な仲間──いえ、家族のような存在です。あなたの案なら、これからも共に旅を続けられます。感謝いたします」
「僕も……失礼な態度を取って、ごめんなさい」
ルークは涙を浮かべて、深々と頭を下げた。
ちなみにレオナルドもまだ顔を上げていない。
男性四人のつむじが見えている状態だ。
「えっと、あの、その」
あたふたしていると、リリィが私に近づいてきた。
「私からも、ありがとう。それで……二人で聖女なら、アナベルも私たちと旅をしてくれるのよね?よろしくって、言ってもいい?」
心細げなリリィを前に、ぴんと来た。
彼女も、四人と同じことをしようとしている。
このままでは、つむじに囲まれてしまう。
「も、もちろん。というか、そもそも怒ってないし、したいことをしただけで……ねえ、もう帰ろう!」
居たたまれなさから、思わず逃げてしまった。
イザークの腕を引っ張って、すっかり歩きやすくなった更地をズンズン進む。
すると、イザークが落ち着いた声で話しかけてきた。
「アナベル様、もう離れてくださっても問題ありません。現時点では、あなたを斬る必要はありませんので」
「一人で先に行くと気まずいから、ついてきて!」
競歩の選手みたいに急いでいると、後方で誰かが、
「イザークが羨ましい」
と、呟いた。
なんだか気恥ずかしくて、振り返ることはできなかった。
だから、この時は気付けなかった。
リリィの瞳が、不安そうに揺れていたことに。
◇
森から帰った翌日、私は別の部屋に収容された。
“収容”というには、かなり豪奢な部屋だが。
レースのカーテン。
ふかふかの絨毯。
金細工とかけ合わせた家具は、どれも丁寧に磨かれている。
服装も変わった。
旅装束も高級品だったけど、今日は薄紫のロングドレスが用意された。
レースがふんだんに使われて、なめらかな肌触りが気持ちいい。
王都からでも、森が消し飛ぶのは見えただろう。
宮廷貴族が、「雑な対応をしたら自分も消される」と怯えたのだろうか。
それなら、アナベルが聖女かもしれないと、貴族も疑っているということだ。
だからと言って、手放しでは喜べないけど。
朝食後、天蓋つきのベッドに腰掛けてから、考え事が何時間も止まらない。
今は、レオナルドが議会で発表している頃だ。
「アナベルとリリィは二人で聖女だ」と。
(マチルダも、ほかの議員も、信じてくれるかなあ)
ゲームプレイ時は、レオナルドを「優しいお兄ちゃん的存在」だと思っていた。
しかし、自分やリリィの命を預けるとなると……正直、心もとない。
(ううん、大丈夫。お飾りでも国王だし。レオナルドも言う時は言うから)
それに、脅し文句も教えておいた。
『嘘だ!って騒ぐ奴がいたら、笑顔でこう言っといて──アナベルを殺してもいいが、次はお前も魔物と戦え。聖女リリィのそばだから安全だぞ──って』
マチルダは、「いいからアナベルを殺せ」と言うかもしれないけど。
エルディリス家当主や聖女は、よほどの大罪を犯さない限り、王命を無視できるから。
しかし、ほかの貴族は違う。
何があろうと、二人で聖女説に納得するしかない。
魔物と戦いたい人間なんて、一人もいないのだから。
(大丈夫、大丈夫)
自分に言い聞かせていると、今度は別の不安が頭をもたげてくる。
(そういえば、そろそろ時間だよね。あの人、部屋に呼んでみたけど……来てくれるのかな?)
うーん、と唸った時、廊下を歩く足音が聞こえてきた。
(来た⁉︎)
私はすばやく立ち上がり、髪とドレスを軽く整えた。
ドアがノックされる。
少し緊張しながら、「どうぞ」と返した。
「失礼します」
ドアが開いて、イザークが入ってきた。
59
あなたにおすすめの小説
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
【完結】婚約破棄された辺境伯爵令嬢、氷の皇帝に溺愛されて最強皇后になりました
きゅちゃん
ファンタジー
美貌と知性を兼ね備えた辺境伯爵令嬢エリアナは、王太子アレクサンダーとの婚約を誇りに思っていた。しかし現れた美しい聖女セレスティアに全てを奪われ、濡れ衣を着せられて婚約破棄。故郷に追放されてしまう。
そんな時、隣国の帝国が侵攻を開始。父の急死により戦場に立ったエリアナは、たった一人で帝国軍に立ち向かうことにー
辺境の令嬢がどん底から這い上がる、最強の復讐劇が今始まる!
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる