断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

25 イザークの正体

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 白いシャツに黒のズボン、というシンプルな格好だ。
 なのに顔が美しすぎて、着飾った貴族より輝いて見える。

 イザークはドアを閉めると、綺麗な姿勢でお辞儀をした。

「陛下が『アナベルと昼食を共にしろ』と仰せです。僭越せんえつながら同席いたします」

「ああ、うん……私が頼んだの。イザークを呼んでって」

「アナベル様が?」

「うん。都合、悪かった?」

「いえ、問題ありません」

「そ、そっか。じゃあ、こっちの椅子にどうぞ」

 私がテーブルの椅子を引くと、イザークはなぜかもう一つの椅子のそばへ歩いていった。
 その椅子を引き、座るのかと思ったら、立ったまま私を見つめてくる。

「アナベル様が先におかけください」

「えっ、イザークが先に座りなよ」

「私は平民です。アナベル様を立たせたまま、席に着くわけにはまいりません」

 本当は平民じゃないでしょ──という言葉を、私は飲み込んだ。

「……じゃあ、お先です」

 私がイザークに近づくと、彼は私の手を取り、席の前に誘導してくれた。
 私が座るのに合わせて、椅子が押される。

 あまりにも自然なので、恥ずかしいとも思わない。
 心地良いとすら感じる。
 さすが、元王子。

 向かいの椅子にイザークが座ると、見張りの兵士が食事を運んでくる。

(私、失言してたなあ……王子っぽいとか、色々。イザーク、嫌だったよね)

 テーブルに並ぶお皿を見つめながら、申し訳なさにため息をつく。

 ──城に戻る前、イザークにしがみついていたことを謝りそびれた。
 そのことに気付いて「話す時間を作ってくれない?」とレオナルドに頼んだ時。
 レオナルドは困惑しながらこう言った。

『いいけど、イザークを王子っていうの、やめてやってくれないか?イザークは……本当に王子だったんだ、外国の。あまり公にしてないから、言い回らないでくれよ』
 
 王子が他国で処刑人になる──一体、何があったのか。
 聞かなくても、波瀾万丈の日々があったと想像できる。

(イザークにしてみたら、私に会うのも苦痛だったりして……でも、レオナルドに『ちゃんと食事してるのか確認してくれ』って頼まれたし)

 あとは、あまり男にベタベタ触るなよ、とも言ってたっけ。
 失礼な。人を接着剤みたいに。

(まあ、チラ見はしちゃうかもだけど)

 そう思いつつイザークを見ると、彫りの深い顔が、まっすぐ私の方を向いていた。
 
「アナベル様」

 感情は読めないけど、冷たくもない声。
 以前より優しい気がして、ドキッとしてしまう。

「な、何?」

「なぜ、私を同席させるのですか」

「え」

 そこを突っ込まれるとは予想外だった。
 どう答えよう。

「……一人でご飯を食べるのが、寂しくなっちゃって!」

 思いついたままを口にしたけど、悪くないと思う。
 孤独でも不自然じゃない。
 だって死刑囚だもの。

 しかし、イザークは無表情で追求してきた。

「陛下にそうお伝えすればよろしいのでは?」

「いや、王様が囚人と食事するわけにはいかないでしょ」

「でしたら、ギデオン様やエリオット様、ルーク様なら融通がきくのでは?もしくは見張りの兵士か」
 
 イザークは、お皿を並べ終えて出ようとする中年の兵士──見張りのジョルジュさんに視線を向ける。

「たしかにジョルジュさんとはよく喋るけど、昼休憩は取ってもらいたいよ。ジョルジュさん、食事の支度ありがとう」

 私が手を振ると、ジョルジュさんは済まなさそうに部屋を出ていった。
 見張り交代の気配を感じながら、私は白いふわふわパンを手に取る。

「それに、いくら仲が良くても、普通は死刑囚と食事なんて嫌でしょ」

 と、温かいパンを口に近づけたところで、慌てて付け加えた。

「私と食事してくれる人は、普通より断然優しいってこと!」

「もしくは異質な者ですか。私のように」

 イザークはスプーンを手に取り、無表情で続けた。

「国王陛下から、私の素性を聞かれたそうですね。かつて王子だった処刑人は、珍しいでしょう」
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