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1章 断罪回避
24 帰還
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「ありがとう。僕たちは君を処刑しようとしたのに。その上、ひどいことまで……」
「い、いいって、そんなこと。というか、そうされても仕方ないよ」
茶会の最中に目を血走らせて、歯ぎしりする令嬢──怖すぎる。
そんな相手が近くに来たら、私なら殴りながら蹴ってしまう。
「そうですね。以前のアナベル様は、罪を犯す前から犯罪者の顔をなさってました」
エリオットにきっぱりと言われてしまった。
「だからごめんってば……もうそんなことしないから」
肩を縮こめる私に、彼は「ええ」と続ける。
「今はまるで別人です。国民ばかりか、リリィ様まで救おうとしてくださった。……アナベル・ヘイルフォード様。数々の非礼、申し訳ございませんでした」
エリオットが膝をつくと、ギデオンも同じ礼を取る。
「リリィは、俺たちにとって大切な仲間──いえ、家族のような存在です。あなたの案なら、これからも共に旅を続けられます。感謝いたします」
「僕も……失礼な態度を取って、ごめんなさい」
ルークは涙を浮かべて、深々と頭を下げた。
ちなみにレオナルドもまだ顔を上げていない。
男性四人のつむじが見えている状態だ。
「えっと、あの、その」
あたふたしていると、リリィが私に近づいてきた。
「私からも、ありがとう。それで……二人で聖女なら、アナベルも私たちと旅をしてくれるのよね?よろしくって、言ってもいい?」
心細げなリリィを前に、ぴんと来た。
彼女も、四人と同じことをしようとしている。
このままでは、つむじに囲まれてしまう。
「も、もちろん。というか、そもそも怒ってないし、したいことをしただけで……ねえ、もう帰ろう!」
居たたまれなさから、思わず逃げてしまった。
イザークの腕を引っ張って、すっかり歩きやすくなった更地をズンズン進む。
すると、イザークが落ち着いた声で話しかけてきた。
「アナベル様、もう離れてくださっても問題ありません。現時点では、あなたを斬る必要はありませんので」
「一人で先に行くと気まずいから、ついてきて!」
競歩の選手みたいに急いでいると、後方で誰かが、
「イザークが羨ましい」
と、呟いた。
なんだか気恥ずかしくて、振り返ることはできなかった。
だから、この時は気付けなかった。
リリィの瞳が、不安そうに揺れていたことに。
◇
森から帰った翌日、私は別の部屋に収容された。
“収容”というには、かなり豪奢な部屋だが。
レースのカーテン。
ふかふかの絨毯。
金細工とかけ合わせた家具は、どれも丁寧に磨かれている。
服装も変わった。
旅装束も高級品だったけど、今日は薄紫のロングドレスが用意された。
レースがふんだんに使われて、なめらかな肌触りが気持ちいい。
王都からでも、森が消し飛ぶのは見えただろう。
宮廷貴族が、「雑な対応をしたら自分も消される」と怯えたのだろうか。
それなら、アナベルが聖女かもしれないと、貴族も疑っているということだ。
だからと言って、手放しでは喜べないけど。
朝食後、天蓋つきのベッドに腰掛けてから、考え事が何時間も止まらない。
今は、レオナルドが議会で発表している頃だ。
「アナベルとリリィは二人で聖女だ」と。
(マチルダも、ほかの議員も、信じてくれるかなあ)
ゲームプレイ時は、レオナルドを「優しいお兄ちゃん的存在」だと思っていた。
しかし、自分やリリィの命を預けるとなると……正直、心もとない。
(ううん、大丈夫。お飾りでも国王だし。レオナルドも言う時は言うから)
それに、脅し文句も教えておいた。
『嘘だ!って騒ぐ奴がいたら、笑顔でこう言っといて──アナベルを殺してもいいが、次はお前も魔物と戦え。聖女リリィのそばだから安全だぞ──って』
マチルダは、「いいからアナベルを殺せ」と言うかもしれないけど。
エルディリス家当主や聖女は、よほどの大罪を犯さない限り、王命を無視できるから。
しかし、ほかの貴族は違う。
何があろうと、二人で聖女説に納得するしかない。
魔物と戦いたい人間なんて、一人もいないのだから。
(大丈夫、大丈夫)
自分に言い聞かせていると、今度は別の不安が頭をもたげてくる。
(そういえば、そろそろ時間だよね。あの人、部屋に呼んでみたけど……来てくれるのかな?)
うーん、と唸った時、廊下を歩く足音が聞こえてきた。
(来た⁉︎)
私はすばやく立ち上がり、髪とドレスを軽く整えた。
ドアがノックされる。
少し緊張しながら、「どうぞ」と返した。
「失礼します」
ドアが開いて、イザークが入ってきた。
「い、いいって、そんなこと。というか、そうされても仕方ないよ」
茶会の最中に目を血走らせて、歯ぎしりする令嬢──怖すぎる。
そんな相手が近くに来たら、私なら殴りながら蹴ってしまう。
「そうですね。以前のアナベル様は、罪を犯す前から犯罪者の顔をなさってました」
エリオットにきっぱりと言われてしまった。
「だからごめんってば……もうそんなことしないから」
肩を縮こめる私に、彼は「ええ」と続ける。
「今はまるで別人です。国民ばかりか、リリィ様まで救おうとしてくださった。……アナベル・ヘイルフォード様。数々の非礼、申し訳ございませんでした」
エリオットが膝をつくと、ギデオンも同じ礼を取る。
「リリィは、俺たちにとって大切な仲間──いえ、家族のような存在です。あなたの案なら、これからも共に旅を続けられます。感謝いたします」
「僕も……失礼な態度を取って、ごめんなさい」
ルークは涙を浮かべて、深々と頭を下げた。
ちなみにレオナルドもまだ顔を上げていない。
男性四人のつむじが見えている状態だ。
「えっと、あの、その」
あたふたしていると、リリィが私に近づいてきた。
「私からも、ありがとう。それで……二人で聖女なら、アナベルも私たちと旅をしてくれるのよね?よろしくって、言ってもいい?」
心細げなリリィを前に、ぴんと来た。
彼女も、四人と同じことをしようとしている。
このままでは、つむじに囲まれてしまう。
「も、もちろん。というか、そもそも怒ってないし、したいことをしただけで……ねえ、もう帰ろう!」
居たたまれなさから、思わず逃げてしまった。
イザークの腕を引っ張って、すっかり歩きやすくなった更地をズンズン進む。
すると、イザークが落ち着いた声で話しかけてきた。
「アナベル様、もう離れてくださっても問題ありません。現時点では、あなたを斬る必要はありませんので」
「一人で先に行くと気まずいから、ついてきて!」
競歩の選手みたいに急いでいると、後方で誰かが、
「イザークが羨ましい」
と、呟いた。
なんだか気恥ずかしくて、振り返ることはできなかった。
だから、この時は気付けなかった。
リリィの瞳が、不安そうに揺れていたことに。
◇
森から帰った翌日、私は別の部屋に収容された。
“収容”というには、かなり豪奢な部屋だが。
レースのカーテン。
ふかふかの絨毯。
金細工とかけ合わせた家具は、どれも丁寧に磨かれている。
服装も変わった。
旅装束も高級品だったけど、今日は薄紫のロングドレスが用意された。
レースがふんだんに使われて、なめらかな肌触りが気持ちいい。
王都からでも、森が消し飛ぶのは見えただろう。
宮廷貴族が、「雑な対応をしたら自分も消される」と怯えたのだろうか。
それなら、アナベルが聖女かもしれないと、貴族も疑っているということだ。
だからと言って、手放しでは喜べないけど。
朝食後、天蓋つきのベッドに腰掛けてから、考え事が何時間も止まらない。
今は、レオナルドが議会で発表している頃だ。
「アナベルとリリィは二人で聖女だ」と。
(マチルダも、ほかの議員も、信じてくれるかなあ)
ゲームプレイ時は、レオナルドを「優しいお兄ちゃん的存在」だと思っていた。
しかし、自分やリリィの命を預けるとなると……正直、心もとない。
(ううん、大丈夫。お飾りでも国王だし。レオナルドも言う時は言うから)
それに、脅し文句も教えておいた。
『嘘だ!って騒ぐ奴がいたら、笑顔でこう言っといて──アナベルを殺してもいいが、次はお前も魔物と戦え。聖女リリィのそばだから安全だぞ──って』
マチルダは、「いいからアナベルを殺せ」と言うかもしれないけど。
エルディリス家当主や聖女は、よほどの大罪を犯さない限り、王命を無視できるから。
しかし、ほかの貴族は違う。
何があろうと、二人で聖女説に納得するしかない。
魔物と戦いたい人間なんて、一人もいないのだから。
(大丈夫、大丈夫)
自分に言い聞かせていると、今度は別の不安が頭をもたげてくる。
(そういえば、そろそろ時間だよね。あの人、部屋に呼んでみたけど……来てくれるのかな?)
うーん、と唸った時、廊下を歩く足音が聞こえてきた。
(来た⁉︎)
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「失礼します」
ドアが開いて、イザークが入ってきた。
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