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1章 断罪回避
22 火の精霊、水の精霊
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「す、すみません!俺の鎧です!」
「うぅ、ギデオンのか……やけに重いと思った」
押し返しても、びくともしない。
あと、大きい。
隣にいたイザークも、脇に詰めざるを得なかったらしい。
私がいくら手を動かしても、触れるのはギデオンの鎧だけだ。
「すみません、そちらへ傾かないように腕で支えているのですが……」
「それはありがとう……って、大丈夫?」
「大丈夫、とは?」
「さっき、魔物に何回も体当たりされてたでしょ。無理に力を入れたら、骨とか痛くない?」
「えっ……」
ギデオンは、ひどく驚いたような声を漏らした。
どうしたんだろう。
「というか、ほかのみんなも怪我してたっけ。……いや、今回だけじゃないか。みんな、ギリギリで戦ってきたんだよね」
ゲーム内で励まし合っていたリリィたちを思い出すと、しみじみしてしまう。
「ごめんね。『私は本物の聖女だ』って、早く気付いてたらよかったのに。そうしたら、誰も死なせなかったのに。みんなも戦わなくて済んだのにね」
泣きじゃくるリリィや、ギデオンたちの苦悩を思い出しながら呟く。
すると暗闇の中から、息をのむ気配や、鼻をすする音が伝わってきた。
もしかして、誰か泣いてる?
「ちょっと、大丈夫?誰か重傷なんじゃないの?」
答えはない。
ただ、感情を堪えるような空気感が、ドームの中に充満している。
どうしたのかと思い、もう一度尋ねようとした時。
──ドオオォォォン!
轟音が響き、岩のドームがビリビリと振動する。
「な、何⁉︎」
リリィがパニック気味に叫んだ。
すると、ペンダントからクルクルと笑う声が聞こえた。
ナギとコハクが、いつの間にか宝石の中へ入っていたらしい。
「仲間が到着しましたね!」
「壁、おしまい」
コハクのぽよんとした声がして、岩のドームがズズズ……と上から開いていく。
私は大きく息を吐き出した。
「ああ、やっと外に出られ……る……」
外の様子が見えた時、私は凍りついた。
ほかのみんなも硬直している。
あのイザークでさえ呆然としているようだ。
──ところで、ここで問題です。
岩のドームに入る前、周りは不気味な森でした。
ドームを出ると、草一本生えていない更地になっていました。
何が起きたのでしょう──
と、現実逃避を始めた頭に、声が届いた。
「聖女様……」
「聖女様、会いたかったよー!」
もしや、と私は振り返った。
「ふわあっ⁉︎」
変な声が出た。
でも、仕方ない。
手のひらサイズのもふもふな生き物が、二匹、宙に浮いているのだから。
「火の精霊と、水の精霊……だよね?」
火の精霊は、ピンクの小鳥。
水の精霊は、空色の子ウサギ。
ゲームよりモコモコで、ゲームよりフカフカだ。
私は両手のひらを上へ向けて、二匹に近付いた。
左手にピンクの小鳥、右手に空色ウサギが、もふりと収まる。
ああ……幸せ。
うっとりしていると、赤い小鳥がパタパタと羽ばたいた。
「聖女様、アタシがヒナです!」
「ボクはミゾレです……」
空色ウサギの目が、とろんとする。
「なるほど、ヒナとミゾレね。……ミゾレ、なんか疲れてる?」
「はい、それはもう!」
ヒナが小さな翼をうんと広げる。
「ご覧の通り、私たちもうクタクタで!」
「……ヒナはかなり元気そうだけど」
「そんなこと、ないです……」
ミゾレが、もそもそと話し始める。
「聖女様がいなかったから、力が溜まりすぎて……それを一気に暴走させたから、僕たち、もう空っぽというか……」
「聖女様のペンダントの中なら、力の循環がうまくいくんです!私たちも入らせてください!じゃないと、このままじゃ……!」
ヒナから羽根が、ミゾレから毛が、はらりはらりと抜けていく。
何が起きているのか理解できないけど、かなりまずい状況らしい。
「わ、わかった!早くペンダントに入って!」
「わーい!」
「ああ、やっとだよ……」
ヒナとミゾレは、短い足で、私の腕をよちよちと歩いた。
肘まで来ると、二匹は「せーの」でぴょんと跳んだ。
小さな体がさらに縮んで、ペンダントに吸い込まれていく。
「あー、落ち着く!」
「ホッとするね……」
二匹の姿が見えなくなると、「おかえりー」「やっと戻りましたね」という声が、ペンダントの中から聞こえた。
コハクとナギが出迎えているらしい。
みんなでおしゃべりを始めて、小規模な同窓会を開催している。
一息ついた私に、イザークが話しかけてきた。
「おめでとうございます。すべての精霊様が仲間になりましたね」
「そうだね、こんなに早く揃うと思わなかった」
「それに、森も一瞬で浄化されました。これであなたが聖女だと、民も貴族も認めざるを得ないでしょう」
「……浄化?」
一瞬でモフモフの余韻が消えた。
代わりに「しまった」という焦りが、足元から這い上がってくる。
私が聖女だと認められてしまったら、リリィは……
私は、恐る恐る後ろを振り返った。
レオナルドたちが、気まずそうに目をそらしていく。
その中で、一人だけ動かない人物がいた。
水色の髪をなびかせて、広々とした荒地を見つめて、リリィが立ち尽くしていた。
「うぅ、ギデオンのか……やけに重いと思った」
押し返しても、びくともしない。
あと、大きい。
隣にいたイザークも、脇に詰めざるを得なかったらしい。
私がいくら手を動かしても、触れるのはギデオンの鎧だけだ。
「すみません、そちらへ傾かないように腕で支えているのですが……」
「それはありがとう……って、大丈夫?」
「大丈夫、とは?」
「さっき、魔物に何回も体当たりされてたでしょ。無理に力を入れたら、骨とか痛くない?」
「えっ……」
ギデオンは、ひどく驚いたような声を漏らした。
どうしたんだろう。
「というか、ほかのみんなも怪我してたっけ。……いや、今回だけじゃないか。みんな、ギリギリで戦ってきたんだよね」
ゲーム内で励まし合っていたリリィたちを思い出すと、しみじみしてしまう。
「ごめんね。『私は本物の聖女だ』って、早く気付いてたらよかったのに。そうしたら、誰も死なせなかったのに。みんなも戦わなくて済んだのにね」
泣きじゃくるリリィや、ギデオンたちの苦悩を思い出しながら呟く。
すると暗闇の中から、息をのむ気配や、鼻をすする音が伝わってきた。
もしかして、誰か泣いてる?
「ちょっと、大丈夫?誰か重傷なんじゃないの?」
答えはない。
ただ、感情を堪えるような空気感が、ドームの中に充満している。
どうしたのかと思い、もう一度尋ねようとした時。
──ドオオォォォン!
轟音が響き、岩のドームがビリビリと振動する。
「な、何⁉︎」
リリィがパニック気味に叫んだ。
すると、ペンダントからクルクルと笑う声が聞こえた。
ナギとコハクが、いつの間にか宝石の中へ入っていたらしい。
「仲間が到着しましたね!」
「壁、おしまい」
コハクのぽよんとした声がして、岩のドームがズズズ……と上から開いていく。
私は大きく息を吐き出した。
「ああ、やっと外に出られ……る……」
外の様子が見えた時、私は凍りついた。
ほかのみんなも硬直している。
あのイザークでさえ呆然としているようだ。
──ところで、ここで問題です。
岩のドームに入る前、周りは不気味な森でした。
ドームを出ると、草一本生えていない更地になっていました。
何が起きたのでしょう──
と、現実逃避を始めた頭に、声が届いた。
「聖女様……」
「聖女様、会いたかったよー!」
もしや、と私は振り返った。
「ふわあっ⁉︎」
変な声が出た。
でも、仕方ない。
手のひらサイズのもふもふな生き物が、二匹、宙に浮いているのだから。
「火の精霊と、水の精霊……だよね?」
火の精霊は、ピンクの小鳥。
水の精霊は、空色の子ウサギ。
ゲームよりモコモコで、ゲームよりフカフカだ。
私は両手のひらを上へ向けて、二匹に近付いた。
左手にピンクの小鳥、右手に空色ウサギが、もふりと収まる。
ああ……幸せ。
うっとりしていると、赤い小鳥がパタパタと羽ばたいた。
「聖女様、アタシがヒナです!」
「ボクはミゾレです……」
空色ウサギの目が、とろんとする。
「なるほど、ヒナとミゾレね。……ミゾレ、なんか疲れてる?」
「はい、それはもう!」
ヒナが小さな翼をうんと広げる。
「ご覧の通り、私たちもうクタクタで!」
「……ヒナはかなり元気そうだけど」
「そんなこと、ないです……」
ミゾレが、もそもそと話し始める。
「聖女様がいなかったから、力が溜まりすぎて……それを一気に暴走させたから、僕たち、もう空っぽというか……」
「聖女様のペンダントの中なら、力の循環がうまくいくんです!私たちも入らせてください!じゃないと、このままじゃ……!」
ヒナから羽根が、ミゾレから毛が、はらりはらりと抜けていく。
何が起きているのか理解できないけど、かなりまずい状況らしい。
「わ、わかった!早くペンダントに入って!」
「わーい!」
「ああ、やっとだよ……」
ヒナとミゾレは、短い足で、私の腕をよちよちと歩いた。
肘まで来ると、二匹は「せーの」でぴょんと跳んだ。
小さな体がさらに縮んで、ペンダントに吸い込まれていく。
「あー、落ち着く!」
「ホッとするね……」
二匹の姿が見えなくなると、「おかえりー」「やっと戻りましたね」という声が、ペンダントの中から聞こえた。
コハクとナギが出迎えているらしい。
みんなでおしゃべりを始めて、小規模な同窓会を開催している。
一息ついた私に、イザークが話しかけてきた。
「おめでとうございます。すべての精霊様が仲間になりましたね」
「そうだね、こんなに早く揃うと思わなかった」
「それに、森も一瞬で浄化されました。これであなたが聖女だと、民も貴族も認めざるを得ないでしょう」
「……浄化?」
一瞬でモフモフの余韻が消えた。
代わりに「しまった」という焦りが、足元から這い上がってくる。
私が聖女だと認められてしまったら、リリィは……
私は、恐る恐る後ろを振り返った。
レオナルドたちが、気まずそうに目をそらしていく。
その中で、一人だけ動かない人物がいた。
水色の髪をなびかせて、広々とした荒地を見つめて、リリィが立ち尽くしていた。
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