21 / 105
1章 断罪回避
21 マッハで飛来中
しおりを挟む
理解が追いつかず硬直していると、エリオットが「たしかに」と呟いた。
「お二人の婚約が解消されたのは、アナベル様の死刑が決定したからですし」
「陛下に婚約破棄の意思はなかったのかもな」
ギデオンが、うんうんと頷く。
「アナベル様は、勉学は真面目に取り組んでいましたからね。陛下も内心では頼りになさっていたんでしょう」
「俺ですら、どうせアナベル様が王妃になると思っていたんだ。それが処刑されると決まって、陛下はショックでいらしただろう」
「なのに彼女が生き延びた上、平民と恋仲になったら……」
「腑に落ちないのも当然だな……」
二人とも、好き勝手に話を進めている。
想像で三角関係にしないでほしい。
何となくオブラートに包んでいるから、まだ許せるものの。
呆れて反論もできずにいると、ルークがきょとんと言った。
「あれ?レオナルドってアナベルさんのことが好きなの?」
オブラートが、ビリビリに破り散らかされる。
次の瞬間、レオナルドがものすごい勢いで私の腕をつかんだ。
「ひえっ!何⁉︎」
「アナベル、違うんだ!昔は君に同情してたし、今も処刑を撤回できなくて申し訳ないと思うけど!優しくなった君に惚れたとか、そういうのはないから!」
力んでいるせいか、顔が真っ赤だ。
そんなに頑張らなくてもわかるのに。
「ちょ、ちょっと、レオナルド。そろそろ手を離してくれる?リリィにペンダントを返したいんだけど」
「う……そういえば、まだだっけ……」
レオナルドは気まずそうに目をそらして、すごすごと後ろへ下がった。
それじゃあ、と私がペンダントの鎖に手をかけると。
「聖女様、お待ちください!」
宝石からナギが飛び出した。
「何?どうしたの?」
「今から仲間が参ります。少々お待ちいただけませんか?」
「仲間?」
残りの精霊だろうか。
まだ会っていないのは、火の精霊と水の精霊だ。
「でも、来るって……ここに?火の精霊はラーヴァ火山にいるし、水の精霊はグリマ湖の底でしょ?」
どちらもかなり遠かったはずだ。
王都から現地まで、馬車で3日はかかったと思う。
そして、この森は王都から徒歩半日。
火の精霊も水の精霊も、すぐに来られるはずがない。
しかし、ナギは長い体でくるりと輪を描き、楽しそうに言った。
「先日、聖女様のお力で嵐が起きたでしょう?」
「私っていうより、ナギの力だけど……」
「ご謙遜を。その時、聖女様の気配を仲間が感知したはず」
「ボクも、もしかしてって思った」
コハクがポヨンと現れて、ふわふわと宙に浮かぶ。
ナギはコハクに「ですよね」と言い、また私を見る。
「さらに、先程は巨狼を倒しました。仲間は確信したでしょう。私たちの聖女様が現れたと。歓喜のあまり、こちらへ飛んできています」
「飛んでくる⁉︎」
驚く私に続いて、エリオットが心配そうに口を開く。
「休み休みでしたら、王都まで五日ほどでしょうか?」
「まさか!」
ナギが、ふわふわの尻尾を左右に揺する。
「聖女様を見つけたのですよ?すべての力をもって、音のごとき速さで駆けつけるはず。もうすぐ到着するでしょう」
その言葉を証明するように、戦闘機みたいな音が頭上で響き始めた。
「音のごときって……マッハで来てんの⁉︎」
私はすばやく空を仰いだ。
北と西、それぞれの方角に、赤と青の光が見えた。
それはもう、すさまじい速さでこっちへ向かっている。
「……ねえ、ナギ。あれが落ちてきたら、この辺りが吹っ飛ぶんじゃない?」
「そうかもしれません。今の彼らは、力を暴走させていますからね」
ナギは、黒い目を嬉しそうに細めた。
精霊が暴走──家屋二十棟が崩壊した、という話が私の頭をよぎる。
「ナギ、喜んでる場合じゃないよ!何とかならない?壁を作るとか」
「そうですね、聖女様をお守りしなくては。コハク、出番ですよ」
「わかった。聖女さま、まもる、まもる!」
小さな手足がパタパタッと動き、毛玉の体が発光する。
私とイザークの周りに、岩のドームが作られていく。
「すごい、ありがとう……って、リリィたちが入れないんだけど⁉︎」
「別によろしいではありませんか」
「こらっ、何言ってんの!ほかのみんなも助けてくれないなら、外に出ちゃうから!」
私が岩の壁をよじ登ろうとすると、
「お、お待ちください!すぐに皆を運びます!」
と、ナギはくるりと回り、尻尾を一振りした。
レオナルドたち五人の体がフワッと浮いて、ドームの中に入ってくる。
ドームの天井がぴったり閉じて、真っ暗闇になる。
外の音は聞こえない。
かなり頑丈だとわかる。
これで安心だ。
安心だけど、狭い。
冷たい板にギリギリと肩が押されて、骨が歪みそうだ。
「ぐえぇ、めちゃくちゃ痛い……これ、誰の何?」
冷たい板をコンコンと叩くと、すぐに大声が返ってきた。
「お二人の婚約が解消されたのは、アナベル様の死刑が決定したからですし」
「陛下に婚約破棄の意思はなかったのかもな」
ギデオンが、うんうんと頷く。
「アナベル様は、勉学は真面目に取り組んでいましたからね。陛下も内心では頼りになさっていたんでしょう」
「俺ですら、どうせアナベル様が王妃になると思っていたんだ。それが処刑されると決まって、陛下はショックでいらしただろう」
「なのに彼女が生き延びた上、平民と恋仲になったら……」
「腑に落ちないのも当然だな……」
二人とも、好き勝手に話を進めている。
想像で三角関係にしないでほしい。
何となくオブラートに包んでいるから、まだ許せるものの。
呆れて反論もできずにいると、ルークがきょとんと言った。
「あれ?レオナルドってアナベルさんのことが好きなの?」
オブラートが、ビリビリに破り散らかされる。
次の瞬間、レオナルドがものすごい勢いで私の腕をつかんだ。
「ひえっ!何⁉︎」
「アナベル、違うんだ!昔は君に同情してたし、今も処刑を撤回できなくて申し訳ないと思うけど!優しくなった君に惚れたとか、そういうのはないから!」
力んでいるせいか、顔が真っ赤だ。
そんなに頑張らなくてもわかるのに。
「ちょ、ちょっと、レオナルド。そろそろ手を離してくれる?リリィにペンダントを返したいんだけど」
「う……そういえば、まだだっけ……」
レオナルドは気まずそうに目をそらして、すごすごと後ろへ下がった。
それじゃあ、と私がペンダントの鎖に手をかけると。
「聖女様、お待ちください!」
宝石からナギが飛び出した。
「何?どうしたの?」
「今から仲間が参ります。少々お待ちいただけませんか?」
「仲間?」
残りの精霊だろうか。
まだ会っていないのは、火の精霊と水の精霊だ。
「でも、来るって……ここに?火の精霊はラーヴァ火山にいるし、水の精霊はグリマ湖の底でしょ?」
どちらもかなり遠かったはずだ。
王都から現地まで、馬車で3日はかかったと思う。
そして、この森は王都から徒歩半日。
火の精霊も水の精霊も、すぐに来られるはずがない。
しかし、ナギは長い体でくるりと輪を描き、楽しそうに言った。
「先日、聖女様のお力で嵐が起きたでしょう?」
「私っていうより、ナギの力だけど……」
「ご謙遜を。その時、聖女様の気配を仲間が感知したはず」
「ボクも、もしかしてって思った」
コハクがポヨンと現れて、ふわふわと宙に浮かぶ。
ナギはコハクに「ですよね」と言い、また私を見る。
「さらに、先程は巨狼を倒しました。仲間は確信したでしょう。私たちの聖女様が現れたと。歓喜のあまり、こちらへ飛んできています」
「飛んでくる⁉︎」
驚く私に続いて、エリオットが心配そうに口を開く。
「休み休みでしたら、王都まで五日ほどでしょうか?」
「まさか!」
ナギが、ふわふわの尻尾を左右に揺する。
「聖女様を見つけたのですよ?すべての力をもって、音のごとき速さで駆けつけるはず。もうすぐ到着するでしょう」
その言葉を証明するように、戦闘機みたいな音が頭上で響き始めた。
「音のごときって……マッハで来てんの⁉︎」
私はすばやく空を仰いだ。
北と西、それぞれの方角に、赤と青の光が見えた。
それはもう、すさまじい速さでこっちへ向かっている。
「……ねえ、ナギ。あれが落ちてきたら、この辺りが吹っ飛ぶんじゃない?」
「そうかもしれません。今の彼らは、力を暴走させていますからね」
ナギは、黒い目を嬉しそうに細めた。
精霊が暴走──家屋二十棟が崩壊した、という話が私の頭をよぎる。
「ナギ、喜んでる場合じゃないよ!何とかならない?壁を作るとか」
「そうですね、聖女様をお守りしなくては。コハク、出番ですよ」
「わかった。聖女さま、まもる、まもる!」
小さな手足がパタパタッと動き、毛玉の体が発光する。
私とイザークの周りに、岩のドームが作られていく。
「すごい、ありがとう……って、リリィたちが入れないんだけど⁉︎」
「別によろしいではありませんか」
「こらっ、何言ってんの!ほかのみんなも助けてくれないなら、外に出ちゃうから!」
私が岩の壁をよじ登ろうとすると、
「お、お待ちください!すぐに皆を運びます!」
と、ナギはくるりと回り、尻尾を一振りした。
レオナルドたち五人の体がフワッと浮いて、ドームの中に入ってくる。
ドームの天井がぴったり閉じて、真っ暗闇になる。
外の音は聞こえない。
かなり頑丈だとわかる。
これで安心だ。
安心だけど、狭い。
冷たい板にギリギリと肩が押されて、骨が歪みそうだ。
「ぐえぇ、めちゃくちゃ痛い……これ、誰の何?」
冷たい板をコンコンと叩くと、すぐに大声が返ってきた。
66
あなたにおすすめの小説
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした
タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。
潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。
悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました
タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。
ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」
目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。
破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。
今度こそ、泣くのは私じゃない。
破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる