断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

22 火の精霊、水の精霊

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「す、すみません!俺の鎧です!」

「うぅ、ギデオンのか……やけに重いと思った」

 押し返しても、びくともしない。
 あと、大きい。

 隣にいたイザークも、脇に詰めざるを得なかったらしい。
 私がいくら手を動かしても、触れるのはギデオンの鎧だけだ。

「すみません、そちらへ傾かないように腕で支えているのですが……」

「それはありがとう……って、大丈夫?」

「大丈夫、とは?」

「さっき、魔物に何回も体当たりされてたでしょ。無理に力を入れたら、骨とか痛くない?」

「えっ……」

 ギデオンは、ひどく驚いたような声を漏らした。
 どうしたんだろう。

「というか、ほかのみんなも怪我してたっけ。……いや、今回だけじゃないか。みんな、ギリギリで戦ってきたんだよね」

 ゲーム内で励まし合っていたリリィたちを思い出すと、しみじみしてしまう。

「ごめんね。『私は本物の聖女だ』って、早く気付いてたらよかったのに。そうしたら、誰も死なせなかったのに。みんなも戦わなくて済んだのにね」

 泣きじゃくるリリィや、ギデオンたちの苦悩を思い出しながら呟く。
 すると暗闇の中から、息をのむ気配や、鼻をすする音が伝わってきた。

 もしかして、誰か泣いてる?

「ちょっと、大丈夫?誰か重傷なんじゃないの?」

 答えはない。
 ただ、感情をこらえるような空気感が、ドームの中に充満している。
 どうしたのかと思い、もう一度尋ねようとした時。

 ──ドオオォォォン!

 轟音が響き、岩のドームがビリビリと振動する。

「な、何⁉︎」

 リリィがパニック気味に叫んだ。
 すると、ペンダントからクルクルと笑う声が聞こえた。
 ナギとコハクが、いつの間にか宝石の中へ入っていたらしい。

「仲間が到着しましたね!」

「壁、おしまい」

 コハクのぽよんとした声がして、岩のドームがズズズ……と上から開いていく。
 私は大きく息を吐き出した。

「ああ、やっと外に出られ……る……」

 外の様子が見えた時、私は凍りついた。
 ほかのみんなも硬直している。
 あのイザークでさえ呆然としているようだ。


 ──ところで、ここで問題です。

 岩のドームに入る前、周りは不気味な森でした。
 ドームを出ると、草一本生えていない更地になっていました。

 何が起きたのでしょう──


 と、現実逃避を始めた頭に、声が届いた。

「聖女様……」

「聖女様、会いたかったよー!」

 もしや、と私は振り返った。
 
「ふわあっ⁉︎」

 変な声が出た。
 でも、仕方ない。

 手のひらサイズのもふもふな生き物が、二匹、宙に浮いているのだから。

「火の精霊と、水の精霊……だよね?」

 火の精霊は、ピンクの小鳥。
 水の精霊は、空色の子ウサギ。

 ゲームよりモコモコで、ゲームよりフカフカだ。

 私は両手のひらを上へ向けて、二匹に近付いた。
 左手にピンクの小鳥、右手に空色ウサギが、もふりと収まる。

 ああ……幸せ。

 うっとりしていると、赤い小鳥がパタパタと羽ばたいた。

「聖女様、アタシがヒナです!」

「ボクはミゾレです……」

 空色ウサギの目が、とろんとする。

「なるほど、ヒナとミゾレね。……ミゾレ、なんか疲れてる?」

「はい、それはもう!」

 ヒナが小さな翼をうんと広げる。

「ご覧の通り、私たちもうクタクタで!」

「……ヒナはかなり元気そうだけど」

「そんなこと、ないです……」

 ミゾレが、もそもそと話し始める。

「聖女様がいなかったから、力が溜まりすぎて……それを一気に暴走させたから、僕たち、もう空っぽというか……」

「聖女様のペンダントの中なら、力の循環がうまくいくんです!私たちも入らせてください!じゃないと、このままじゃ……!」
 
 ヒナから羽根が、ミゾレから毛が、はらりはらりと抜けていく。
 何が起きているのか理解できないけど、かなりまずい状況らしい。

「わ、わかった!早くペンダントに入って!」

「わーい!」

「ああ、やっとだよ……」

 ヒナとミゾレは、短い足で、私の腕をよちよちと歩いた。
 肘まで来ると、二匹は「せーの」でぴょんと跳んだ。

 小さな体がさらに縮んで、ペンダントに吸い込まれていく。

「あー、落ち着く!」

「ホッとするね……」

 二匹の姿が見えなくなると、「おかえりー」「やっと戻りましたね」という声が、ペンダントの中から聞こえた。
 コハクとナギが出迎えているらしい。
 
 みんなでおしゃべりを始めて、小規模な同窓会を開催している。
 一息ついた私に、イザークが話しかけてきた。

「おめでとうございます。すべての精霊様が仲間になりましたね」

「そうだね、こんなに早く揃うと思わなかった」

「それに、森も一瞬で浄化されました。これであなたが聖女だと、民も貴族も認めざるを得ないでしょう」

「……浄化?」

 一瞬でモフモフの余韻が消えた。
 代わりに「しまった」という焦りが、足元から這い上がってくる。

 私が聖女だと認められてしまったら、リリィは……
 私は、恐る恐る後ろを振り返った。

 レオナルドたちが、気まずそうに目をそらしていく。
 その中で、一人だけ動かない人物がいた。

 水色の髪をなびかせて、広々とした荒地を見つめて、リリィが立ち尽くしていた。
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