【書籍化決定】カメラ越しのシリウス イケメン俳優と俺が運命なんてありえない!

野原 耳子

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第五章

28 潰れた卵

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 まるで鉄の塊みたいな三脚を折り畳んでいる最中に、鋭い怒鳴り声が聞こえてきた。


「おい、芦名! グズグズとするな! 次の撮影に間に合わねぇだろうが!」
「はい、すいません! すぐ片します! すいません!」


 鬼村の声に脊髄反射で謝罪を返しながら、保は必死に三脚を片付けた。三脚だというのに重量が十キロ以上あって、抱えるだけで肩が持って行かれそうになる。

 三脚を片付けると、次はカメラを乗せる台座(ペデスタルドリー)を準備していく。台座の上にこれまた石のように重たいカメラを設置して調整を行っていると、また鬼村の声が叩き付けられた。


「芦名ァ! 三カメの準備できたか!」
「今してます! すいません!」


 声を張り上げつつ、カメラの画面を覗き込んで設定を確認していく。もう十月に入って、外は肌寒い季節になったというのに汗が止まらず、半袖の黒Tシャツがじっとりと湿って肌に貼り付いていた。

 今は、スタジオのセットチェンジを行っているところだった。同じスタジオで次の撮影を行うので、大道具の設営や機材の入れ替えのために、裏方たちはみな鬼気迫った様子で動き回っている。

 鬼村に活(かつ)を入れられつつ機材の準備に奔走(ほんそう)していると、突然近くからキャアッという歓声が聞こえてきた。


「『聖者の告解(こっかい)』の予告見た!? 清水藍人、マジでヤバすぎるよねっ!」


 聞こえてきた名前に、一瞬作業の手が止まりそうになる。チラッと横目で見やると、少し離れたところで小道具チームの若い女性二人が会話しているのが視界に映った。どうやら先に準備が終わって、仲間内で談笑しているところらしい。


「見た見た! マジでヤバかった!」
「血まみれの顔が美しすぎて、目が焼けるかと思ったし! いつもの藍人の雰囲気と全然違う! マジで死神って感じがしてヤバい!」


 よほど興奮しているのか、女性たちは『マジで』と『ヤバい』をひたすら交互に繰り返している。その二人の姿を、鬼村が『遊んでんじゃねぇよ』とばかりにじっとりと睨み付けているのが見えた。

 作業の手を止めないままに、保は女性たちの会話にこっそりと聞き耳を立てた。

 どうやら昨日、藍人が出演している沖永監督の最新作の予告が公開されたようだった。まだクランクアップはしていないが、現時点で撮影した映像だけで予告を作ったらしい。

 沖永監督はインタビューで『作ったものは、さっさと世に出したい。だらだらと手元に置いていても腐るだけだし』と答えるぐらい、撮影終了から公開までの期間が早いことで有名な監督だ。だから、撮影と宣伝を同時平行で行うという手法を取っているのだろう。


 ――確か映画の公開予定は十二月末頃だったか。


 先日、藍人から聞いた公開日を思い出す。そして、今が十月だと考えると、たった二ヶ月程度で編集作業を行うことになる。それを考えると、ぞわっと背筋が粟立ちそうになった。ハードスケジュールというか、ほぼ命を削るデスマーチみたいな作業日程だ。

 かすかに怖気だちつつカメラのケーブルを繋ぎ直していると、今朝方、恒例のモーニングコールのときに藍人が言っていた言葉がふと脳裏を過った。


『来週には映画の撮影が終わるから、そうしたら保さんに会いに行ってもいい?』


 確かめるような藍人の声を思い出して、わずかに心臓がざわつく。

 約二週間前に起こったヒート騒動以来、藍人には一度も直接会えていなかった。互いにあの日のことは口に出さず、まるでなかったかのように振る舞っている。だが、わざわざ『会いに行ってもいい?』などと藍人が訊ねてくるということは、それはきっと『保の返事』が欲しいという意味だ。


『左手の件については、次に会ったときに返事をください』


 そう書かれたメモを思い出すと、首にぶら下げたチェーンがわずかに重たくなった気がした。銀色のシンプルなチェーンの先には、藍人から贈られたリングが通されている。流石にそのリングを左薬指にはめておく覚悟はなくて、だからといって肌身から離す気にもなれず、中途半端に首からぶら下げていた。


 ――返事っていうのは、つまり藍人さんと結婚するかどうかってことだよな……。


 カメラのフランジバック調整をしながら、頭の隅でぼんやりと考える。

 藍人のことは好きだと自覚したが、だからといって結婚となると正直踏み切れない部分があった。自分はともかく藍人は結婚を公表しないといけないだろうし、その場合、自分は『結婚相手の一般男性オメガ』として紹介されるのか。それに対して、藍人のファンや世間は一体どういう反応を返してくるのか……。

 そんなことを悶々と考えていると、段々と気持ちが萎(しぼ)んで『本当にいいのだろうか』という不安が湧き上がってくるのだ。藍人の結婚相手が自分なんかでいいのだろうか、という疑念が。

 はぁ、と無意識にため息が漏れる。そのとき、背後からポンと肩を叩かれた。


「おい」


 すぐ後ろから鬼村の声が聞こえて、とっさに身体が飛び跳ねそうになった。


「すいません! 三カメの調整終わりました!」


 直立不動の姿勢で答えてから、保は背後を振り返った。だが、怒っているとばかり思っていたのに、そこには複雑そうな表情をした鬼村が立っていた。眉尻を下げて、どこか戸惑った様子で、保を見つめている。


「鬼村さん?」


 保が名前を呼ぶと、鬼村はひどく苦々しい声を漏らした。 


「行くぞ」
「行くってどこにですか?」
「上のもんに呼ばれてる」


 鬼村が軽く顎をしゃくってスタジオ入口付近を示す。その視線の方を見やると、スーツ姿の男が仁王立ちしているのが見えた。両腕を組んで、いかにも厳めしそうな顔でこちらを見据えている。


「呼ばれてるって、誰がですか?」
「お前と俺の二人だ」


 そう言い切ると、鬼村はさっさと歩き出してしまった。とっさに鬼村の背を追いかけながら、上擦った声で訊ねる。


「でも、次の収録はどうするんですか?」
「他のチームの奴らが、俺たちの代わりに入る」


 もう決定事項だと言わんばかりの口調だった。鬼村の硬い声音に、保は思わず口ごもった。どうやら、あまりよくない理由で上から呼び出しを食らっているのだと察知する。それ以上何も言うことができず、保はしずしずと鬼村の後を着いていった。


 スーツ姿の男に連れて行かれたのは、局の上層階にある会議室だった。二十人ぐらいは入れそうな大きい会議室に、五十代後半に見える細身の男性がぽつんと座っている。男性はシルバーヘアを綺麗にオールバックにしており、銀縁の眼鏡をかけていた。いかにもデキる男といった、理知的にも冷淡そうにも見える男性だ。

 その顔は、社内の会報で何度か見た覚えがあった。確かこの局の局長だっただろうか。

 局長が待ち構えていたことに、一気に身体が緊張する。一体何をやらかしたのかと急いで記憶を探っていると、局長が口を開いた。


「お疲れ様です、鬼村さん、芦名さん。局長の江口です。そちらに掛けてください」


 丁寧な口調で言って、江口が向かい側の席を掌で示す。その様子をうかがいながら、保は鬼村と横並びで椅子に腰掛けた。


「仕事中に呼び出して申し訳ないです。なるべくお時間は取りませんので、まずはこちらを確認してください」


 テキパキと言って、江口が机の上に一冊の雑誌を滑らせる。江口の手によって、付箋が貼られたページが開かれた瞬間、保は爪先からサーッと音を立てて血の気が引いていくのを感じた。


「この雑誌は今日発売されたものですが、ここに写っているのは芦名さんで間違いありませんか?」


 問い掛けながら、江口がページに載った白黒写真を指さす。

 そこに映っているのは藍人と保だった。約二週間前、映画の撮影現場でヒートを起こした保を、藍人が抱きかかえて運んでくれたときの光景だ。保は頭から藍人のジャケットをかぶっていて顔の下半分しか見えない状態だが、藍人はひどく切迫した表情を浮かべているのが見える。

 そして、その記事にデカデカと書かれた見出しから、保は目が逸らせなかった。


【人気俳優・清水藍人、男性オメガのカメラマンを強制的に発情させてホテルに連れ込む!?
爽やかな顔の裏で、常習的にスタッフをアルファの『処理相手』として使っていたのか!?】


 センセーショナルさだけを前面に出した、下品で低俗な見出しだ。今すぐ目の前の雑誌を引き千切りたい衝動に駆られるのに、保は指一本動かせなかった。ただ、食い入るように記事を凝視していると、再び江口が訊ねてきた。


「この写真に写っているのは芦名さんですか?」


 江口の細い指先が、トンと写真を叩く。その軽い音に息を呑んでから、保は唇を鈍く動かした。


「はい。自分です」


 まるで裁かれる罪人のような声音だと自分でも思った。隣に座った鬼村が、小さくうめき声を漏らして、掌で額を押さえるのが視界の端に映る。


「こちらの雑誌の記者が、貴方に直接取材をしたいとうちの局に電話をかけてきましたが、ここに書かれていることは事実ですか?」


 江口が記事の見出しを指さしながら問い掛けてくる。その言葉に、保はぎこちなく首を左右に振った。


「いいえ。いいえ、違います。このときは、自分が突発的にヒートを起こしてしまって、それを清水さんが助けてくれたんです。清水さんに一切の非はなく、すべては自分の管理不足のせいです」


 掠れそうになる声で必死に弁明しようとする。だが、江口の表情は一ミリも変わらず、それが余計に焦燥感を煽った。


「企業が社員のバース性を確認するのは、今では差別行為として許されていませんが、今回は事実確認のためにおうかがいさせてください。芦名さんはオメガなんですか?」


 その確認に、保は咽喉を上下させた後、ゆっくりとうなずいた。


「はい。自分はオメガです」


 口に出した瞬間、保は子供みたいに泣きたくなった。自分がオメガだという事実が、こんなにも惨めだと思うことは初めてだった。自分がオメガだと判定を受けたときだって、こんなに情けない気持ちにはならなかったのに。

 膝の上で拳をキツく握り締めて、目が潤みそうになるのを必死に堪える。


「清水さんとは懇意(こんい)にしてらっしゃるんですか?」
「清水さんとは、友人です」
「交際はされていないということですか?」


 続けて問われた言葉に、首にかけたチェーンがぐんっと重たくなった気がした。その細い鎖に、咽喉をキツく絞められているような感覚を覚える。


「していません」


 掠れた声でそう答えると、江口は緩く目を細めた。確かめるように保をじっと見つめてから、静かに口を開く。


「スタッフがタレントと友人になるなとは言いません。ですが、貴方は清水さんがアルファであることを認識していましたよね? ならば、自分のためにも、清水さんのためにも、貴方は彼に近付くべきではなかったのではありませんか?」


 江口が言っているのは、間違いなく正論だ。オメガがアルファに近付くなんて、意図的に誘惑していると取られても仕方ない。

 江口の淡々とした指摘に、保はうめくような声を返した。


「はい、その通りです。自分に自覚が足りませんでした。本当に申し訳ないです」


 机に着きそうなぐらい深々と頭を下げて、謝罪を漏らす。すると、ふー、と江口が息を吐く声が聞こえてきた。


「我が社としては、タレントである清水さんを守るのと同時に、スタッフである貴方も守る義務があります。当然ですが、雑誌の取材に応じるつもりはありません。もちろんバース性を理由に、貴方をクビにすることもしません。ですが、しばらくは貴方をカメラチームから外します。お分かりだと思いますが、タレントにはアルファの方も多い。貴方を近付けるには、局としてもリスクがありすぎる。ご理解いただけますか?」


 確認するような問いに、保はゆっくりと顔を上げた。江口の顔を見返してから、もう一度頭を下げる。


「はい、理解しております。ご迷惑おかけして、誠に申し訳ございません」


 震えそうになる声を堪えて、繰り返し謝罪する。

 そのまま保が視線を伏せていると、思いがけず柔らかな江口の声が聞こえてきた。


「芦名さんは、とても優秀なカメラマンだと聞いています。局としても、貴方を失うのは大きな損失だと考えています」


 その言葉に、視線を上げる。こちらを見下ろす江口の瞳の奥が、わずかにだけほころんでいるのが見えた。だが、その和らぎはすぐに消えた。


「だからこそ、ご自身の管理を徹底してください。周りだけではなく、貴方自身を守るためにも」


 そう言い切ると、江口は素早く立ち上がった。そのまま、チラッと横目で鬼村を眺める。


「鬼村さんも、よろしくお願いします」
「はい、承知しました」


 鬼村が頭を下げて、硬い声で答える。江口は「それでは、失礼します」と挨拶を述べると、さっさと会議室から出て行った。

 鬼村と二人だけ会議室に残されたまま、沈黙だけが流れる。重苦しい空気に押し潰されそうになりながら、保は鈍く唇を開いた。


「鬼村さん、本当に、すいませ――」
「なんで言わねぇんだ」


 謝罪しようとした瞬間に、噛み付くような声で遮られる。隣を見やると、鬼村がかすかに赤く血走った目でこちらを見据えていた。怒りを滲ませた眼差しに、身体が強張る。


「自分がオメガだって言いにくいのは分かるが、仕事に影響あるようなことは俺に伝えておくべきだろうが。部下がオメガだって知ってりゃ、事前に配慮することだってできる。だけど、知らなきゃ何にもしてやれねぇ。お前は、そんなに俺が信用ならなかったか」


 恨み言でも吐くような鬼村の口調に、保は慌てて声をあげた。


「違います!」
「何が違うって言うんだ」
「俺は、元々オメガ性が薄いんです。フェロモンも極微量で感じ取れないくらいですし、ヒートだって起こっても微熱ぐらいなもので、ベータとほとんど変わりがないくらいのオメガなんです」
「じゃあ、なんでこんなことになってるんだ」


 保の必死の説明を聞くと、鬼村は雑誌の記事を指さした。藍人に抱えられた自分の写真を見て、保は一瞬言葉を失った。


「どうして、藍人くんにこんな迷惑をかけてる。お前は、まだ一般人だからいい。だが、藍人くんは有名人だぞ。こんな記事をあげられて、周りからどんなバッシングを浴びるか分かってるだろう。映画だって公開間近なのに、こんな記事が出たら興行収入にだって影響する。お前や彼だけの問題じゃなくなるんだ。お前は、藍人くんの俳優人生を潰すつもりか」


 鬼村の容赦ない叱責に、指先が凍り付いたように冷たくなっていく。


「……すいません」
「謝って済む問題じゃねぇだろうが」
「本当に、申し訳ないです」


 謝罪なんて何の意味がないと分かりつつも、それしか言えなかった。


「お前は、藍人くんが好きなのか?」


 木村にそう問われた瞬間、心臓がビリビリに引き裂かれるような痛みを覚えた。

 拳を痛いくらい握り締めたまま、深くうつむく。息苦しいほどの静けさが会議室に広がっていく。それを破ったのは、鬼村の声だった。


「違うな。藍人くんが、お前のことを好きなのか」


 どこか腑に落ちたような口調だ。視線を上げると、鬼村はじっと保を見下ろしていた。先ほどまで怒りに満ちていた表情から、謎が解けたようなスッキリとしたものに変わっている。


「お前が初めて藍人くんを撮(うつ)したときに、藍人くんはカメラに向かって『僕の運命だ』って言ってたな。あれはドラマの番宣じゃなくて、本当はお前に向けて言っていたのか」


 このときばかりは鬼村の記憶力の良さが恨めしかった。半年以上前の放送内容をしっかりと覚えているとは。


「お前と藍人くんは『運命の番』ってやつなのか?」


 その問い掛けに、保はグッとうめいた。


「違い、ます。駄目なんです」
「駄目って何がだ」
「俺じゃ、駄目なんです」


 自分でそう口に出した途端、大切に温めてきた卵を、自分自身の手で叩き潰したような惨い気持ちになった。

 きっと、藍人と一緒に写真に撮られたのが保ではなく、たとえば桐山蓮華だったら、こんなひどい記事は書かれなかった。ただの熱愛騒動として流されるだけで、こんな風に藍人を貶(おとし)めるような内容にはされなかっただろうと思う。相手が保だったから、平凡で、何の秀でたところもない一般の男性オメガだったから、藍人がこんな悪し様に書かれる羽目になったのだ。

 そう思うと、今すぐこの世界から消えてしまいたくなった。もしくは、この雑誌を買った人たち全員に『違うんです! 藍人さんはこんな人じゃない!』と説明しに回りたい。だけど、そんな言葉は誰にも届かないと分かっている。


「俺なんかが、運命じゃなきゃよかった」


 最初から、いつかこんなことになるのは分かっていた。彼に近付くべきではないと、自分から離れるべきだと自覚していたのに、それでも藍人から離れる決心をつけられなかったのは保の責任だ。

 自分のせいで、空高くで輝いていた一等星を、無残にドブの中に沈めてしまった。


「全部、俺のせいだ」


 自分自身を罰するように呟くのと同時に、肩を強く掴まれた。


「芦名、それ以上はやめろ」


 うつむいていた顔を緩く上げると、眉を顰めた鬼村と目が合った。


「他人に責められるならともかく、自分で自分を責めすぎるな」


 言い聞かせるように口に出して、鬼村が、ふー、と長く息を吐く。


「とりあえず、お前が反省しているのは十分に分かった。悪意があって、バース性を隠してたんじゃないってこともな。だから、俺はもう何も言わん。言わねぇが……お前は藍人くんと話し合った方がいいと思うぞ」


 その言葉に『何も言わないって言ったのに、しっかり言ってるじゃないか』とツッコみたくなる。だが、声をあげるだけの元気も出てこず、保はぼんやりと鬼村を見やった。

 保の虚ろな表情を見て、鬼村がムッと顔を顰める。


「さっきはあんなこと言ったが、藍人くんはこんなスキャンダルぐらいで潰れるような生半可(なまはんか)な俳優じゃねぇ。だから、お前も反省はしてもいいが、あんまり悪い方向に考えすぎるな」


 わざとぶっきらぼうな口調で言って、鬼村が保の背中を強く叩いてくる。


「おら、腹に力込めて元気出せ。しばらくカメラの仕事はさせられねぇが、その代わり裏で死ぬほどこき使ってやるからな。あと分かってるだろうが、体調がおかしいときはすぐに俺に言え。ヒートのときは遠慮なく休め。いいな?」


 鬼村の気遣いに、また涙が滲みそうになる。保は小さく鼻を啜りながら、か細い声で「はい」と答えた。

 湿っぽい空気を切り替えるように、鬼村が勢いよく椅子から立ち上がる。それから嫌そうな表情で机の上の雑誌を見下ろすと、ため息混じりに呟いた。


「藍人くんも怒ってそうだなぁ」


 彼、怒ると怖そうだもんなぁ。と続けて、鬼村がガリガリと自身の後頭部を掻く。その様子を見て、保は弱々しい声で訊ねた。


「怖そう、ですか?」
「この業界は、いつもニコニコ笑ってる人が一番怖ぇって決まってんだよ」


 くわばらくわばら、と繰り返しながら、鬼村が汚いものでも触るように指先で雑誌を摘まみ上げる。そのまま部屋の隅まで歩いて行くと、鬼村は雑誌をゴミ箱の中に放り込んだ。
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