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6 : 慈愛
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「猊下、ぼーっとして大丈夫ですか?」
聖騎士のカルロが声をかけてきた。
今は神殿が開放されている時間帯であり、神官たちによる大衆の治療を行っている。
もちろんその中に神官長であるアメデアの姿もある。
「大丈夫だよ。少し、昔のことを思い出していたんだ」
「昔ですか?」
アメデアがこうやって人々のために尽くしてきて何年も経った。
はじめはただ、リュアオスと繋がっているためであった。だが、神官の上層にいくにつれて、リュアオスは神託を下し、災禍や国難の恐れがある都度にしかアメデアを抱かなくなった。そして、リュアオスの恩寵を受けたあとは漲る神聖力をもって災禍を最小限のものとした。
まわりは神の代理人だともてはやすが、アメデアはかつての恋人どうしの遊び笑いあった時が懐かしく恋しい。
神の心が欲しいなどと自分が貪欲なことは重々承知しており、今の淡白な関係でもリュアオスと繋がっていられるならと受け入れている。
「カルロは恋人や好きな人はいるかい?」
「はい!? こ、恋人ですか? というか猊下、俺の名前をご存知なのですか?」
カルロは突然の質問に声を裏返して返事をした。疑問符の多い返答にアメデアは笑った。
「もちろん、私の騎士なのだから覚えているとも。カルロは護衛騎士のなかで一番若いだろう。別に聖職者だからって恋愛を禁止しているわけじゃないんだから」
アメデアはリュアオス神に全てを捧げたためにそうなっているが、神聖力をかけた神への誓いでないかぎりそのような掟はない。
「俺はそういうのは……」
「そうかい? 君は愛らしい顔つきをしているし、聖騎士だ。人気もあるだろう。かつては年長の指導者もいそうだ」
アメデアは目の前にいる少年の擦りむいた膝を治療して頭を撫でた。手を振ってお別れを告げる。
「俺のまわりにはいましたが、俺自身にはいませんでした」
「珍しいね。騎士なんていう職種は特にそういったことが顕著だから、少し驚いたよ」
騎士は上下関係がはっきりとしており、「年長者」が「年少者」を教え導くことは慣例化している。優秀な戦士を育てるためにも大人による指導というものが必要だからだ。
「若い方いまの内が華だよ」
少年愛は善であるが、17、8を越えると受け入れられなくなる。それは同性愛という逸脱したものとなる。
あくまで年長の者が年少の者を愛するのは指導であり、成熟した大人がいつまでも受け身であることは侮蔑の対象なのだ。
「猊下は若々しくてお綺麗ですよ!」
「ハハハ。おじさんに向かって若々しいなんて、気をつかわせてしまったかな」
「そんな。猊下ははじめてお会いした時からおかわりありません」
カルロの言葉は決してお世辞などではなかった。
カルロがはじめてアメデアに会ったのは、まだ10かそこらこ年齢の時だった。建設中の建物の倒壊事故に巻き込まれ、死にかけていた時だった。両親が神殿に駆け込み、慈悲深い神官長に治療をしてもらったのだ。美しい天使が迎えに来たのだと思ったほどだ。
あれから十数年経っていてもアメデアの容貌も神聖力も衰えることなく輝いていた。
「猊下、大変です! 東部で疫病が」
若い神官が慌てた様子で走ってきた。
疫病の流行と聞いてもアメデアはさほど驚いた様子を見せず毅然としていた。
「ひとまず東部へ行けるものを募ってください。国がどのような判断を下すかわかりませんが、おそらく東部との往来は制限されます。東部への支援物資リストをつくってください。私も東部へ向かいます」
アメデアは神殿全体にわたるような広範囲の治癒の術を施して事態の詳細確認と王国への親書をしたためた。
そしてその日のうちに引き継ぎをすませて、本人はすぐに東部へと向かった。
「さすが猊下だ」
「あの人がいればなんとかなる」
皆は大きな期待と希望を抱いた。
今代のリュオス神の神官長にはそれほどの能力がある。疫病の終息はもちろん、アメデアが祈ればその年は五穀豊穣だ。
そんな莫大な力を悪用することなく、等しく分け与える。民からの支持は絶大である。
また今代の国王は信心深く、最高神である太陽神ホリューライの次に、明星の兄弟神を祀っている。つまるところ、国王もアメデアには大きく目をかけているのだ。
「先輩、東部って確か」
カルロはアメデアの後に続きながらオルドに声をかけた。
「猊下のご実家がある場所だ」
オルドの返答にカルロは表情を固くした。
聖騎士のカルロが声をかけてきた。
今は神殿が開放されている時間帯であり、神官たちによる大衆の治療を行っている。
もちろんその中に神官長であるアメデアの姿もある。
「大丈夫だよ。少し、昔のことを思い出していたんだ」
「昔ですか?」
アメデアがこうやって人々のために尽くしてきて何年も経った。
はじめはただ、リュアオスと繋がっているためであった。だが、神官の上層にいくにつれて、リュアオスは神託を下し、災禍や国難の恐れがある都度にしかアメデアを抱かなくなった。そして、リュアオスの恩寵を受けたあとは漲る神聖力をもって災禍を最小限のものとした。
まわりは神の代理人だともてはやすが、アメデアはかつての恋人どうしの遊び笑いあった時が懐かしく恋しい。
神の心が欲しいなどと自分が貪欲なことは重々承知しており、今の淡白な関係でもリュアオスと繋がっていられるならと受け入れている。
「カルロは恋人や好きな人はいるかい?」
「はい!? こ、恋人ですか? というか猊下、俺の名前をご存知なのですか?」
カルロは突然の質問に声を裏返して返事をした。疑問符の多い返答にアメデアは笑った。
「もちろん、私の騎士なのだから覚えているとも。カルロは護衛騎士のなかで一番若いだろう。別に聖職者だからって恋愛を禁止しているわけじゃないんだから」
アメデアはリュアオス神に全てを捧げたためにそうなっているが、神聖力をかけた神への誓いでないかぎりそのような掟はない。
「俺はそういうのは……」
「そうかい? 君は愛らしい顔つきをしているし、聖騎士だ。人気もあるだろう。かつては年長の指導者もいそうだ」
アメデアは目の前にいる少年の擦りむいた膝を治療して頭を撫でた。手を振ってお別れを告げる。
「俺のまわりにはいましたが、俺自身にはいませんでした」
「珍しいね。騎士なんていう職種は特にそういったことが顕著だから、少し驚いたよ」
騎士は上下関係がはっきりとしており、「年長者」が「年少者」を教え導くことは慣例化している。優秀な戦士を育てるためにも大人による指導というものが必要だからだ。
「若い方いまの内が華だよ」
少年愛は善であるが、17、8を越えると受け入れられなくなる。それは同性愛という逸脱したものとなる。
あくまで年長の者が年少の者を愛するのは指導であり、成熟した大人がいつまでも受け身であることは侮蔑の対象なのだ。
「猊下は若々しくてお綺麗ですよ!」
「ハハハ。おじさんに向かって若々しいなんて、気をつかわせてしまったかな」
「そんな。猊下ははじめてお会いした時からおかわりありません」
カルロの言葉は決してお世辞などではなかった。
カルロがはじめてアメデアに会ったのは、まだ10かそこらこ年齢の時だった。建設中の建物の倒壊事故に巻き込まれ、死にかけていた時だった。両親が神殿に駆け込み、慈悲深い神官長に治療をしてもらったのだ。美しい天使が迎えに来たのだと思ったほどだ。
あれから十数年経っていてもアメデアの容貌も神聖力も衰えることなく輝いていた。
「猊下、大変です! 東部で疫病が」
若い神官が慌てた様子で走ってきた。
疫病の流行と聞いてもアメデアはさほど驚いた様子を見せず毅然としていた。
「ひとまず東部へ行けるものを募ってください。国がどのような判断を下すかわかりませんが、おそらく東部との往来は制限されます。東部への支援物資リストをつくってください。私も東部へ向かいます」
アメデアは神殿全体にわたるような広範囲の治癒の術を施して事態の詳細確認と王国への親書をしたためた。
そしてその日のうちに引き継ぎをすませて、本人はすぐに東部へと向かった。
「さすが猊下だ」
「あの人がいればなんとかなる」
皆は大きな期待と希望を抱いた。
今代のリュオス神の神官長にはそれほどの能力がある。疫病の終息はもちろん、アメデアが祈ればその年は五穀豊穣だ。
そんな莫大な力を悪用することなく、等しく分け与える。民からの支持は絶大である。
また今代の国王は信心深く、最高神である太陽神ホリューライの次に、明星の兄弟神を祀っている。つまるところ、国王もアメデアには大きく目をかけているのだ。
「先輩、東部って確か」
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「猊下のご実家がある場所だ」
オルドの返答にカルロは表情を固くした。
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