【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

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1章:婚約破棄とプロポーズ

ゆっくりと休憩 2話

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「お嬢さま、ローレンです。チェルシーも一緒です」

 ローレンは私の専属侍女だ。チェルシーはローレンの妹のような存在。

「入っていいわよ」

 入室を許可すると、キィ、と小さな音をたて扉が開いた。

 桶にたっぷりのお湯と水。それからタオルを持った二人が入ってくる。

「旦那さまがお嬢さまの目のケアを、と……」
「お嬢さま! 目が真っ赤ですよっ! すぐに冷やさなくちゃ!」

 ローレンの言葉に、お父さまが彼女たちを呼んでくれたのだとわかり、心がぽかぽかと温かくなった。それと同時に、心配をかけてしまい申し訳ない気持ちも芽生える。

 二人とも、私のことを心配そうに見ている。なぜかチェルシーは瞳をうるうると潤ませて、今にも泣きそうな顔になっていた。

「そうね、ケアしなきゃ。その前に、着替えるわ」

 のろのろと立ち上がり、「手伝ってちょうだい」と二人に言葉をかけると、彼女たちはこくりとうなずいた。

 ローレンがチェルシーにネグリジェを持ってくるように指示すると、彼女は桶とタオルを置いてすぐにクローゼットからネグリジェを持ってくる。

 ネグリジェに着替え、再びベッドに寝転がる。ローレンは水で冷やしたタオルをぎゅっと絞って、私の目元にタオルを置いた。

 冷たさが心地いい。少ししたら、今度は温かいタオルに交換。

 それを数回繰り返してくれた。

「ねぇ、ローレン、チェルシー」
「はい、リディアお嬢さま」
「お呼びですか?」
「……ありがとうね」

 小声でつぶやいた言葉は、きちんと彼女たちの耳に届いたようで、二人は「もったいないお言葉です」と柔らかい口調で答えてくれた。

 あまりにもピッタリなタイミングだったので、ちょっとだけ口角が上がる。

 タオルをとって起き上がると、手鏡を渡された。ふふ、ひどい顔。でも、憑き物が落ちたようにスッキリとしたわ。

「だいぶ良くなったかしら?」
「はい。明日、腫れることはないと思います」
「……そう。今日はもう休むわね。二人とも、下がってちょうだい」
「お嬢さま。一つだけ……よろしいですか?」

 すっとローレンとチェルシーがひざまずいた。

 びっくりして彼女たちを凝視すると、二人はそれぞれ私の手をきゅっと握り、ほがらかな笑顔を浮かべる。

「私たちはお嬢さまのことが大好きです。これからも、よろしくお願いいたしますね」

 ローレンの優しい言葉が、傷ついた心に沁み込んでいく。チェルシーもにっこりと笑って、何度もうなずいていた。

「……私は幸せものね。ありがとう、二人とも。私もあなたたちが大好きよ」
「光栄ですわ、リディアお嬢さま」
「嬉しいです、リディアお嬢さま」

 二人はまるで騎士のように、私の手の甲に唇を落としてから、部屋をあとにした。

 ローレンは私よりも年上だから、侍女というより姉に近い感覚なのよね。

 チェルシーは妹って感じ。

 本当、侍女に恵まれていると思う。

 私が次期王妃教育を受けていたときも、『そんなに詰め込んでは、覚えられることも覚えられませんよ』と気分転換させてくれたの。

 ……それにしても、手の甲にキスって、女性からは初めて受けたわね……
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