【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

文字の大きさ
62 / 97
3章:竜の国 ユミルトゥス

スターリング領 1話

しおりを挟む
 デザートも食べ終え、満腹になったところで、ハッとして顔を上げる。

 そして、フィリベルトさまに顔を向けて、口元で両手を合わせた。

「フィリベルトさま、明日はお暇でしょうか?」
「明日?」

 小さく首を縦に動かして、じっとフィリベルトさまの目を見つめる。

「私とローレン、チェルシーは、この国に初めてきたので、よければ街を案内していただけませんか?」

 そうお願いすると、フィリベルトさまはすぐに「いいよ」と言ってくれた。

 彼は嬉しそうにはにかんで、軽く頬をかく。

「なんだか嬉しいな」
「え?」
「リディアが、この国に興味を持ってくれていることが」

 ……そう、ね。彼がこんなに喜んでくれるとは思わなかったけれど……

 私も他国に興味が出て、なんだかふわふわとした気持ちなのよね。

 王妃教育で大変だったからかな?

 今ようやく、周囲のことに目を向けられる余裕が出てきた。

「フィリベルトさまが生まれ育った国ですもの。気になりますわ」

 婚約者がどんなところに住んでいたのか、気になるのは仕方ないことだと思う。

 好奇心もあるけれど、彼のことももっと知りたいという欲求のほうが強い。

「なら、いろいろと見て回ろう。学園は夏期休暇中だし、ゆっくりと、ね」
「ええ、楽しみにしております」

 パチンとウインクするフィリベルトさまに、私はくすりと微笑んだ。

 ローレンとチェルシーと一緒に、この国のことを見て回れるのはワクワクするわ。

「……ところで、こちらはカントリーハウスなのですか?」
「ああ、そういえば伝えていなかったね。そうだよ」

 と、いうことは、本当にここでフィリベルトさまが生まれ育ったのね。

「ようこそ、スターリング領へ」
「歓迎、感謝いたします。……フィリベルトさま、どんなことを手紙に書いていたのか、教えていただけますか?」
「……それはちょっと……」

 ふいっと視線を外す彼に、手紙の内容がとても気になってきた。

「内緒」

 悪戯っぽく微笑む姿を見て、なんだかおかしくなって笑ってしまう。

 心が、とても穏やかで……このまま時間が止まってしまえばいいのに、と思えるくらいに幸福感で満ちていた。

 アレクシス殿下の婚約者として、気を張っていた日々を回想し、肩をすくめる。

 私が私でいられる場所を、彼は与えてくれた。

「あ、そうだ。せっかくだから、明日、護衛たちも二人つけよう」
「……もしかして、以前言っていた?」
「そう。他国の人と話すのも、良い刺激になりそうだしね」

 以前、フィリベルトさまが話してくれた二人の護衛。そのことを思い出しながら人差し指を頬に添えると、彼は愛おしそうなまなざしを私に注いでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

処理中です...