【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

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3章:竜の国 ユミルトゥス

フィリベルトさまと食事 2話

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 スープはコーンポタージュのようだ。スプーンで掬って口に運ぶと、とうもろこしの甘さが口の中に広がる。

 温かいスープが食道を通り、胃の中に落ちる。途端に、身体がぽかぽかとしてきた。

 空の散歩で思ったよりも身体が冷えていたみたい。

 サラダはレタスの瑞々しさや、トマトの爽やかやさ、ルッコラのほんのりとした苦味とゴマのような風味。それを引き立てているドレッシングで、とても美味しい。

 ステーキは塩コショウのシンプルなもの。でも、お肉自身が良いものなのだろう。噛むと肉汁が溢れてきた。

 ふわふわの白いパンもまた美味しかった。……というか、美味しいものしか食べていないわね、私。考えてみたら。

 公爵家の令嬢として生まれたから、衣食住、とても恵まれていたのよね。

「とても美味しいですわ」
「それはよかった」

 心底安心したように息を吐くフィリベルトさまに、首をかしげる。

 すると、かれは こんなことを話してくれた。

「とあるパーティーで耳にしたんだが、食が合わないと相当つらいらしい」

 いわく、その人は婿として他国で暮らすようになったのだが、食が合わずに相当苦労して、なんと自分で料理するようになったのだとか。

「貴族が、自分で?」
「ああ。びっくりだろう?」

 料理を作るのはシェフの仕事だ。

 だから、厨房はシェフの楽園といってもいい。

 ……その方、相当つらかったんでしょうね、自らの手で料理を始めるくらい……

「あの、フィリベルトさまは大丈夫でしたか?」

 不安になってたずねてみると、彼はぱちくりと目をまたたいて、すぐに質問の意図を理解し、こくりとうなずいた。

「とても美味しかったよ」
「それは、よかったです」

 ホッとしたように笑みを浮かべると、彼もにこにこと笑っている。

 和やかな雰囲気を楽しみながら食事を進めて、最後にデザートが出てきた。

 イチゴのケーキだった。ホイップクリームにもイチゴを使っているのか、ほんのりとしたピンク色で見た目がとにかく可愛い。

 ……もしかしたら、デザートもエステルさまの趣味に寄せられて作られているのかも。

 さっそくいただこうとフォークを持とうとしたら、フィリベルトさまにフォークを取られた。

 え? と思っているうちに、ケーキを一口サイズに切り分け、こちらに向けてくる。

 こ、この状況で食べろということ……!?

 以前はこちらを気にしている人たちがいなかったけれど、今日はメイドたちがいる。

 で、でも……婚約者なら、こういうことをもしても……いいのよね?

 たぶん、今、私の顔は真っ赤に染まっているわ……と思いながら、口を開けてケーキを口にした。

 ふんわりとしたスポンジに、甘酸っぱいクリーム。

 甘さが控えめで、いくらでも食べられそう、と本気で思った。
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