【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

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3章:竜の国 ユミルトゥス

スターリング領 1話

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 デザートも食べ終え、満腹になったところで、ハッとして顔を上げる。

 そして、フィリベルトさまに顔を向けて、口元で両手を合わせた。

「フィリベルトさま、明日はお暇でしょうか?」
「明日?」

 小さく首を縦に動かして、じっとフィリベルトさまの目を見つめる。

「私とローレン、チェルシーは、この国に初めてきたので、よければ街を案内していただけませんか?」

 そうお願いすると、フィリベルトさまはすぐに「いいよ」と言ってくれた。

 彼は嬉しそうにはにかんで、軽く頬をかく。

「なんだか嬉しいな」
「え?」
「リディアが、この国に興味を持ってくれていることが」

 ……そう、ね。彼がこんなに喜んでくれるとは思わなかったけれど……

 私も他国に興味が出て、なんだかふわふわとした気持ちなのよね。

 王妃教育で大変だったからかな?

 今ようやく、周囲のことに目を向けられる余裕が出てきた。

「フィリベルトさまが生まれ育った国ですもの。気になりますわ」

 婚約者がどんなところに住んでいたのか、気になるのは仕方ないことだと思う。

 好奇心もあるけれど、彼のことももっと知りたいという欲求のほうが強い。

「なら、いろいろと見て回ろう。学園は夏期休暇中だし、ゆっくりと、ね」
「ええ、楽しみにしております」

 パチンとウインクするフィリベルトさまに、私はくすりと微笑んだ。

 ローレンとチェルシーと一緒に、この国のことを見て回れるのはワクワクするわ。

「……ところで、こちらはカントリーハウスなのですか?」
「ああ、そういえば伝えていなかったね。そうだよ」

 と、いうことは、本当にここでフィリベルトさまが生まれ育ったのね。

「ようこそ、スターリング領へ」
「歓迎、感謝いたします。……フィリベルトさま、どんなことを手紙に書いていたのか、教えていただけますか?」
「……それはちょっと……」

 ふいっと視線を外す彼に、手紙の内容がとても気になってきた。

「内緒」

 悪戯っぽく微笑む姿を見て、なんだかおかしくなって笑ってしまう。

 心が、とても穏やかで……このまま時間が止まってしまえばいいのに、と思えるくらいに幸福感で満ちていた。

 アレクシス殿下の婚約者として、気を張っていた日々を回想し、肩をすくめる。

 私が私でいられる場所を、彼は与えてくれた。

「あ、そうだ。せっかくだから、明日、護衛たちも二人つけよう」
「……もしかして、以前言っていた?」
「そう。他国の人と話すのも、良い刺激になりそうだしね」

 以前、フィリベルトさまが話してくれた二人の護衛。そのことを思い出しながら人差し指を頬に添えると、彼は愛おしそうなまなざしを私に注いでいた。
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