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第3部 第67話「芽吹きの朝――砂漠が緑に変わる時」
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それは試験農場の播種から三週間後の早朝だった。
夜明け前の砂漠は、昼間の熱気が嘘のように冷え込んでいる。吐く息が白くなる中、陽介と紬は農場の端に立ち、東の空を見つめていた。
最初に気づいたのは、地元の少年ラシードだった。
「……長官! 芽が、芽が出てます!」
彼の叫びに、現地の作業員たちが一斉に駆け寄る。
砂の表面から、細くも力強い緑の双葉が、まるで砂漠を押しのけるように顔を出していた。
陽介は屈み込み、その一本を指先でそっとなでた。
「よくやったな……」
その声は、誰よりも自分自身に向けた感嘆でもあった。
だが、その場にいた全員の視線は、ひとりの人物に向けられた。
ゼラフィードの有力領主、カリム侯だ。
播種の時には「農民の戯言」と鼻で笑い、協力を渋っていた張本人。
しかし今、その目はわずかに見開かれ、唇が震えていた。
「こ、これは……本当に芽が……」
「ええ、侯爵。油芋は嘘をつきません」
紬は柔らかく微笑んだが、その言葉には棘があった。
侯爵は一歩、二歩と陽介に近づく。
「……私の非礼を謝罪する。どうか、この農法を我が領にも――」
陽介は少し首をかしげ、あえて間を取った。
「もちろん可能です。ただし――現地の農民と労働者に、あなたが頭を下げることが条件です」
その場にざわめきが走る。
侯爵の顔がわずかに紅潮し、拳を握りしめたが、やがて深く頭を下げた。
「……わかった。私が間違っていた」
その瞬間、作業員たちの間から小さな拍手が起き、やがてそれは大きな歓声へと変わった。
数日後――芽吹きが安定すると、農場を見物しに来る人々が増え始めた。
バルカス地方はもともと交易路沿いに位置しており、油芋を見に来た観光客が宿や市場を賑わせる。
紬はすぐさま農家民宿の指導を始め、現地の料理人と協力して「砂漠ポテリエ御膳」という新しい観光メニューを作り上げた。
そして、この成功の報が国境を越えるのは時間の問題だった。
隣国カルナードの使者が、早くも「我が国でも試験農場を」と要請してきたのである。
陽介は報告書を閉じ、紬に言った。
「……これは連鎖するぞ。ゼラフィードの緑化は、まだ始まりにすぎない」
「じゃあ、次はカルナードね。旅の支度をしなきゃ」
二人の笑顔の奥には、砂漠を越えて広がる緑の未来が、はっきりと見えていた。
夜明け前の砂漠は、昼間の熱気が嘘のように冷え込んでいる。吐く息が白くなる中、陽介と紬は農場の端に立ち、東の空を見つめていた。
最初に気づいたのは、地元の少年ラシードだった。
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彼の叫びに、現地の作業員たちが一斉に駆け寄る。
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その声は、誰よりも自分自身に向けた感嘆でもあった。
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「ええ、侯爵。油芋は嘘をつきません」
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「……私の非礼を謝罪する。どうか、この農法を我が領にも――」
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「もちろん可能です。ただし――現地の農民と労働者に、あなたが頭を下げることが条件です」
その場にざわめきが走る。
侯爵の顔がわずかに紅潮し、拳を握りしめたが、やがて深く頭を下げた。
「……わかった。私が間違っていた」
その瞬間、作業員たちの間から小さな拍手が起き、やがてそれは大きな歓声へと変わった。
数日後――芽吹きが安定すると、農場を見物しに来る人々が増え始めた。
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「……これは連鎖するぞ。ゼラフィードの緑化は、まだ始まりにすぎない」
「じゃあ、次はカルナードね。旅の支度をしなきゃ」
二人の笑顔の奥には、砂漠を越えて広がる緑の未来が、はっきりと見えていた。
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