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第3部 第68話「カルナード王国交渉録――風土と誇りのはざまで」
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カルナード王国――ゼラフィードの南西に位置し、交易で栄える砂漠縁の国家。
陽介と紬は、伯爵領の執務室を空けて早朝の船に乗り、カルナード港へと到着した。港は活気に満ち、香辛料と乾燥果物の匂いが風に乗って漂ってくる。
「……相変わらず、鼻がくすぐられる匂いだな」
陽介が深く息を吸うと、隣の紬が苦笑する。
「ただの市場の匂いじゃない? でも、香辛料のブレンドは研究対象になるかもね」
今回の目的は、カルナードの農業省との正式交渉と現地調査だ。
油芋の栽培地候補を見極めること、そして現地の農業組織と信頼関係を築くことが課題だった。
◆
王城の会議室には、農業大臣、商業ギルド長、そしてカルナード随一と呼ばれる豪商たちが顔を揃えていた。
豪奢な絨毯の上、緊張感のある空気が漂う。
「ミズノ伯爵、そして副長官殿。我らは、貴国の油芋技術には興味を持っている。しかし――」
農業大臣が間を置く。
「我らの農民は誇り高く、異国の手法を容易に受け入れるとは限らぬ」
豪商の一人が、口の端を上げた。
「それに、油芋を輸入するだけで済むなら、それで十分では? わざわざ栽培する手間は……」
陽介は、机に地図を広げた。
「輸入に頼れば、値は商人の都合で上下し、安定供給は望めません。
我々は交易を否定しない。だが、エネルギーと食料は国の安全保障だ」
紬が、すかさず資料を差し出す。
「こちらが、ゼラフィードと国内での収穫量推移です。見ての通り、適地に作れば初年度から一定量の収穫が可能です。
しかも、搾りかすを乾燥させれば高栄養食材にもなります」
豪商たちがざわめく。
「……食材にも?」
「はい。あなた方の有名な保存食“カルナードパティ”にも応用可能です」
紬が笑顔で答えると、商業ギルド長の目がわずかに光る。
◆
翌日、陽介と紬は現地調査に出た。
案内役は若い農夫ラシード。まだ20代前半だが、父から畑を継ぐ覚悟はできているという。
「ここが候補地です。水路まで距離はありますが、灌漑を工夫すれば……」
砂混じりの土を陽介は手に取り、感触を確かめた。
「……悪くないな。水さえ確保できれば、油芋は根を張る」
紬は周囲を見渡し、地形をスケッチする。
「風よけになる樹林帯も作れる。観光化を考えるなら、道路からの見栄えも計算しないと」
ラシードが目を丸くした。
「観光……農地で?」
「そう。外から来る人に、この土地の魅力を見てもらう。
君らが作った作物を、目の前で食べてもらえば、もっと誇りを持てる」
陽介の言葉に、ラシードは照れたように笑った。
陽介と紬は、伯爵領の執務室を空けて早朝の船に乗り、カルナード港へと到着した。港は活気に満ち、香辛料と乾燥果物の匂いが風に乗って漂ってくる。
「……相変わらず、鼻がくすぐられる匂いだな」
陽介が深く息を吸うと、隣の紬が苦笑する。
「ただの市場の匂いじゃない? でも、香辛料のブレンドは研究対象になるかもね」
今回の目的は、カルナードの農業省との正式交渉と現地調査だ。
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豪商の一人が、口の端を上げた。
「それに、油芋を輸入するだけで済むなら、それで十分では? わざわざ栽培する手間は……」
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「輸入に頼れば、値は商人の都合で上下し、安定供給は望めません。
我々は交易を否定しない。だが、エネルギーと食料は国の安全保障だ」
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「こちらが、ゼラフィードと国内での収穫量推移です。見ての通り、適地に作れば初年度から一定量の収穫が可能です。
しかも、搾りかすを乾燥させれば高栄養食材にもなります」
豪商たちがざわめく。
「……食材にも?」
「はい。あなた方の有名な保存食“カルナードパティ”にも応用可能です」
紬が笑顔で答えると、商業ギルド長の目がわずかに光る。
◆
翌日、陽介と紬は現地調査に出た。
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「ここが候補地です。水路まで距離はありますが、灌漑を工夫すれば……」
砂混じりの土を陽介は手に取り、感触を確かめた。
「……悪くないな。水さえ確保できれば、油芋は根を張る」
紬は周囲を見渡し、地形をスケッチする。
「風よけになる樹林帯も作れる。観光化を考えるなら、道路からの見栄えも計算しないと」
ラシードが目を丸くした。
「観光……農地で?」
「そう。外から来る人に、この土地の魅力を見てもらう。
君らが作った作物を、目の前で食べてもらえば、もっと誇りを持てる」
陽介の言葉に、ラシードは照れたように笑った。
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