異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

第5部 第1話 分水連合、動き出す――十の領主会議

🌅 分水国の新しい季節
　十人がそれぞれの領地を治め始めてから半年。
　分水国は見違えるように変わっていた。
　荒野には麦畑が広がり、港には交易船が並び、山には煙を上げる鍛冶場が灯る。
　街道には商人と旅人の列ができ、笑顔と会話があふれていた。
　「新しい国」――そう呼ばれる日も近かった。
　だが、陽介と紬は知っていた。
　国を広げることよりも難しいのは、「国々を繋ぐこと」。
　そのために――十人を再び呼び寄せる日が来た。
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🏛 初の十領主会議
　分水城の円形議場。
　中心には大きな地図が広げられ、王国と周辺諸国、そして分水国の拡大した版図が描かれていた。
　十人の領主が席に着く。
　表情には誇りと自信、そしてわずかな緊張が混じっていた。
「よく集まってくれたな」
　陽介がゆっくりと口を開く。
「お前たちの治める十の地は、今や国の根幹だ。
　今日は、それぞれの領地を“繋げる”ための初めての会議だ」
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🗺 報告と提案
　まずは北の鉱山領主トマスが立つ。
「鉱山の生産は安定しました。だが、物資輸送が遅れています。
　山を越える道に、国の共用街道を整備すべきです」
　フェリクスが頷く。
「それなら、私の商会の馬車路線を共有しましょう。運搬の効率化が図れます」
　次にセリアが立つ。
「海の交易が活発になっていますが、他領との関税が複雑です。
　――“統一市場法”を作るべきだと思います」
　ユリウスが資料を掲げる。
「そのために“連合法廷”を設けましょう。
　商取引や領地紛争を公平に裁ける場所が必要です」
　オルフェンが拳を打つ。
「ならば俺は、鉄道の実験を始めたい！　鍛冶の町で作った新しい金属車輪なら、街道を鉄路に変えられる！」
　会場がざわめいた。
　エリナが穏やかに補足する。
「もし鉄道ができれば、作物の輸送も安定します。沿線には新しい集落が生まれるでしょう」
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💬 意見の交錯
　議場は熱気に包まれた。
　それぞれの理想と責任がぶつかり、時に笑い、時に真剣な沈黙が訪れる。
　マリアが口を開く。
「でも、どんな仕組みを作っても、民が安心して暮らせなければ意味がありません。
　医療と教育も、同時に整えていきたいです」
　ノアが続けた。
「はい。子供たちが未来を描けるように。分水全体に“共通学舎制度”を作りましょう。
　どの領地の子も、学びの門を開けるように」
　ライナルトは静かに結んだ。
「歴史を記すことも忘れてはいけません。
　今日決まることが、未来の礎になります」
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🌠 分水連合の誕生
　全員の提案を聞き終え、陽介は立ち上がった。
「――よくぞここまで育ったな」
　彼は深呼吸し、言葉を続けた。
「この日をもって、十の領地は“分水連合”として一つになる。
　十人の領主は互いに独立を保ちつつ、共通の道・法・学び・交易を共有する。
　我らの誓いは一つ――“争いなく、皆が豊かに生きる国を作る”」
　紬が微笑みながら言葉を添える。
「それがあなたたちの、そして私たちの夢。
　今日から、分水国は“国”を越え、“流れ”として世界と繋がるのです」
　十人の若き領主は立ち上がり、右手を胸に当てた。
「――分水に誓う」
　その声が重なった瞬間、議場の窓から朝日が差し込み、
　地図の上を黄金色に照らした。
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🌾 新しい地平
　その日を人々は後にこう呼んだ。
　「分水連合成立の日」。
　新しい国の旗には、十の星が円を描くように配置され、
　その中央には流れる水の紋が刻まれた。
　陽介と紬はその旗を見上げ、静かに微笑んだ。
「……次の時代は、もう彼らのものだな」
「ええ。そしてきっと――初代王の“やり残した夢”も、この子たちが叶えるわ」
　遠くで、十の旗が朝風に翻る。
　それはまるで、一つの大河が世界へと流れ出す瞬間のようだった。