異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅

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第4部 最終章 十の旗、揺れる荒野――分水国の新時代

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🌄 十の出発
 春の初め、分水国の空は澄み渡り、東の丘から朝日がゆっくりと昇っていた。
 王城前の広場には、十人の新たな領主が整列していた。
 彼らの背には、それぞれの色と紋を描いた旗が掲げられている。
 トマスの旗は「槌と麦」、カティアは「風の帆と天秤」、
 ユリウスは「書と剣」、エリナは「葉と水滴」、
 オルフェンは「炎と鉄」、マリアは「翼と灯」、
 フェリクスは「銀の帳」、セリアは「波の輪」、
 ノアは「芽と光」、ライナルトは「巻物と星」。
 十の旗が風に翻り、それぞれが国の新しい“心臓”となることを示していた。
________________________________________
👑 陽介からの言葉
 陽介は広場の壇上に立ち、十人の顔を一人ずつ見渡した。
「お前たちは、学び、働き、戦い、そして人を知った。
 今日からは――その“人”のために生きろ。
 この十の領地が、分水国の未来を形づくる」
 十人は一斉にひざまずき、声を揃えた。
「この身、この志、すべてを分水に捧げます!」
 紬は目を細め、微笑みながら言葉を重ねた。
「人を導くことは、支配ではなく共に歩むこと。
 あなたたちはその意味を、もう知っています。
 どうか恐れず、愛をもって民と向き合ってください」
________________________________________
🏞 新たな領地へ
 出発の号令とともに、十人はそれぞれの地へ旅立った。
 トマスは北方の鉱山地帯で、労働者と共に「安全な鉱山都市」を作ると誓った。
 カティアは南の交易路に拠点を構え、国境を越える商隊の安全を守る。
 ユリウスは西の村々をまとめ、言葉と法で争いを減らす取り組みを始めた。
 エリナは中央平原に研究農場を作り、新たな作物と水源植物の改良を進めた。
 オルフェンは東の山間部に鍛冶の町を築き、農具と防具を両立する産業を生み出す。
 マリアは療養と保育を兼ねた「癒やしの郷」を立ち上げ、医療と教育を繋げた。
 フェリクスは首都近郊に金融庁舎を設け、取引と税の循環を透明化させた。
 セリアは海沿いの港を再建し、交易と漁業の連携拠点を整えた。
 ノアは山岳の孤児院跡を再建し、「未来を育てる学校」として開放した。
 ライナルトは西方の古代遺跡群を守り、記録館として開き、過去と未来を繋ぐ。
 十人の旅路は、それぞれ異なる道でありながら――
 すべてが“分水”という名のもとに、一つの流れとなって繋がっていた。
________________________________________
🌌 夜の会談――陽介と紬
 十人の出発を見送ったあと、陽介と紬は城の塔の上で夜空を眺めていた。
 街の灯りが星のように瞬き、遠くの荒野にも小さな光が見え始めている。
「……十五年前、ただの開拓地だった場所が、こんなに輝いて見えるとはな」
 陽介の声は、感慨と少しの寂しさを帯びていた。
 紬は隣でそっと頷いた。
「光っているのは、この国の土地だけじゃないわ。人の心よ」
「そうだな」陽介は微笑む。
「この十人が、やがて国を超えて“世界を繋ぐ橋”になるだろう」
 夜風が二人の頬を撫で、分水国の旗が静かに揺れた。
________________________________________
🌠 新しい夜明け
 夜明け前、遠くの地平線に十の光が並んでいた。
 それは、各地に立つ分水の拠点の篝火。
 それぞれの地に、それぞれの夢と誓いが燃えている。
 陽介は静かに呟いた。
「初代王が夢見た“争いのない世界”――
 その続きを、俺たちは確かに紡いでいる」
 紬は空を見上げ、微笑む。
「ええ。そしてそれを受け継ぐ子たちが、次の光になるのね」
 二人の背に、朝日が差し込んだ。
 光はゆっくりと十の旗を照らし、分水国の未来を染め上げていった。
________________________________________
✨ 第4部 完
――十人の光が荒野に根づき、国がひとつの大河のように流れ出す。
 この日を、人々は後にこう呼んだ。
 「分水国、黎明の日」
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