異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

第4部 第45話 十の光――未来を託す者たち

🌅 国を歩く日々
　帰郷報告会を終えた学生十人は、それぞれ王都や開拓地、農村、鉱山、漁村など――分水国の各地を巡る日々に入った。
　今度は「学ぶ側」ではなく、「国を担う者」として。
　トマスは鉱山労働者たちと共に坑道を歩き、汗にまみれながら労働の安全と効率を考えた。
「働く人の命を守ることが、国を強くするんだな」
　カティアは商人たちと市場を回り、価格や物流の動きを記録した。
「税を取るより、人が笑って買い物できる仕組みを作る方が、ずっと国を豊かにするのね」
　ユリウスは領民の集会に参加し、人々の悩みを聞いた。
「国の声は王城にあるんじゃない。畑と町角にあるんだ」
　マリアは診療所を巡り、村ごとの医療事情を調査した。
「命の格差をなくす。それが国づくりの根なんです」
　オルフェンは鍛冶場で農具の修理を行い、職人たちと新しい器具を試作した。
「“道具の革命”があれば、誰も貧しさに負けない」
　フェリクスは商会や役所を回り、収支や市場を分析した。
「数字で国を見るんじゃなく、数字の中から“人”を見抜けるようになりたい」
　エリナは村ごとに栽培環境を調べ、水源草と新植物の交配実験を続けた。
「自然は敵じゃない。共に歩む友達。国がそれを理解したら、きっと戦は消える」
　セリアは港町で漁民と過ごし、船団運営の仕組みを学んだ。
「海と国を繋ぐ道を作りたい。船こそが平和の橋になる」
　ノアは孤児院や学校を訪ね、教育の現場を視察した。
「教えることは、“未来を信じること”なんですね」
　ライナルトは各地の古文書館を巡り、歴史を整理しながら記録を残した。
「未来を描くために、過去を正しく残す。それが僕の役目です」
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🌾 仲間たちの夜
　十人は再び分水の拠点に集まり、焚火を囲んで夜を過ごした。
　それぞれの経験を語り合いながら、静かに国の未来を思った。
「国って、思ったよりも“人”でできてるんだな」
「そうね。制度も建物も、人が動かなきゃ何も始まらない」
「俺たちにできること……これから山ほどあるな」
　星明かりの下、焚火の火が十人の顔を照らし、彼らの眼差しはいつになく大人びていた。
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🎓 卒業の日
　やがて一年が経ち、領主経営者学科の修了式が開かれた。
　大講堂には分水国の幹部、騎士団、職人、商人、農民、そして王国からの使者までもが列席していた。
　壇上に立った陽介は、静かに語り始めた。
「十人の学生は、それぞれが国を歩き、人と出会い、苦しみ、考え、学び、そして変わった。
　彼らはもう“学生”ではない。分水国を導く者として、今日をもって卒業する」
　会場に拍手が響く中、紬が立ち上がり、柔らかく微笑んで続けた。
「私たちの答えは一つ――十人すべてを養子とし、この国の未来を託します。
　それぞれの得意分野を生かし、新たな領地を開拓し、守り、導いてください」
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👑 後継者たちの誓い
　トマスが一歩前に出て、代表して言った。
「私たちは、この国の一部として生きます。
　力を、知恵を、技を、人のために使い――
　この分水国を、争いのない豊かな国にしてみせます！」
　十人が一斉に胸に手を当て、深く頭を下げる。
　その姿を見て、陽介と紬の胸にこみ上げるものがあった。
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🌠 丘の上からの光景
　式が終わり、夜の丘に立つ陽介と紬。
　眼下には灯火が点々と連なり、それぞれが新しい領地へ旅立つ準備を進めていた。
「これでようやく、国が“動き出す”な」
「ええ。もう、私たちがいなくても進める子たちよ」
　陽介は静かに微笑み、夜空を見上げた。
「十の光が、それぞれの土地で輝き始める。
　それが、分水国の夜明けだ」
　その声に応えるように、遠くの地平線で新しい朝の光がゆっくりと昇り始めていた。