27 / 62
27 師団長「そういうとこってどういうとこだよ」
しおりを挟む
少女は馬車の扉を開け頭からピンクのカツラを取りポイッと中へ投げ入れると自分の茶色の髪をくしゃくしゃと手で梳いた。
「暑かったぁ!」
「おいっ! それ高いんだから大事に扱えよ」
「こんな派手なもの二度と使えないですよね? もうゴミですっ!」
『パッタン』
少女は勢いよく扉を閉めた。
「いや、地方でならまだ行ける」
力強い眼力で颯爽と馭者台へ乗り込む。
「目立たないことが私達の仕事じゃないですかぁ。師団長になってボケちゃったんですかぁ?」
少女がヒョイッと馭者台に座るとムーガは馬車を進め始めた。
「ヴィエナ。疲れてるだろう? 中にいていいのだぞ」
ムーガは少女をヴィエナと呼んだ。
「窓もない馬車内なんて暇すぎですよ。昨夜はメイド部屋のベッドでゆっくり寝れたので疲れてないです。それにムーガ様が上司なのですから中に乗るのはムーガ様の方ですよ」
ムーガを上司と扱う少女ヴィエナは第三師団第二部隊の隊員である。
そして、ピンクさんであり、ウェルシェでもある。
「それは遠慮しとくわ」
「ほぉら! ムーガ様だって中は暇だと思っているじゃないですかぁ!」
「わっはっは!」「あはははは!」
気の置けない二人は笑いながら隠れ家に向かった。
「一ヶ月くらい隠れ家でのんびりしてろ。そうしたら王都へ戻れよ」
「えー、王都かぁ。ねぇさんたちに会うのは怖いんですよねぇ」
ヴィエナは第三師団第二部隊の女性騎士団員を名前に『ねぇさん』を付けて呼んでいる。
ケイルとヨハンも『にぃさん』『ねぇさん』呼びをしていた。第三師団第二部隊は商隊のフリをして地方を回るので普段から家族ごっこのように呼び合っている。
「ん? 何かあったのか?」
ムーガは首を傾げた。
「ムーガ様が王様にご報告へ行っている間にラオルド様が私たちのところへいらしたでしょう。
その時、ラオルド様がエーティル様に縋るように手を伸ばしたんですよ。でも、ねぇさんたちの眼力で一歩も近づくこともできなかったんですからぁ! 私なんかラオルド様の脇で倒れていたのにビビってチビリそうになりました」
ヴィエナはムーガに泣きそうな顔を向ける。
「リタ姉まで怖いんですよ。妹の顔忘れちゃったのかと思いましたよ」
エーティルの護衛騎士リタとヴィエナは義理の姉妹だ。
「ぶはっはっ!! 忘れられてなかったか?」
「はい。今朝もメイド部屋までお化粧に来てくれました」
ヴィエナは留置所ではなくメイド部屋で過ごしていたのだった。
その間留置所には第三師団第二部隊の隊員が配置されピンクさんがいないことに疑問を持たれないようにしたのはカティドである。
「なるほど。だからその顔か」
ムーガがヴィエナの頬を強めに擦るとムーガの日に焼けた手は白に近いクリーム色になった。
「えー!? ムーガ様がリタ姉を寄越してくれたんじゃないんですか?」
「エーティル様とお前以外のことはカティドに任せてあるんだ」
「あ! だからリタ姉たちは食堂で声かけられて驚いていたのかも。私はそれも知っていると思っていたから」
食堂で騒ぎを起こすことはムーガとヴィエナしか知らなかった。
「罪人が化粧できてるって第二師団の隊員たちに怪しまれなかったか?」
今のヴィエナの顔は当然ウェルシェだ。本来のヴィエナはどこにでもいる平凡な顔をしている。
「もちろん訝しげられましたよ。でも、エーティル様からのお慈悲だと説明したら一発で納得してました。
…………ほんとに……。
…………まあいいですけど……」
その様子を想像し呆れたような同意するような笑いをするムーガにヴィエナは一睨みすると改めて吹き出してさらにヴィエナは眉を寄せる。
「さっきの護送護衛の一人なんて同期で合同訓練を何度もしたヤツだったんですよ! それなのに私に全く気が付かないし!」
「まあ、そう怒るなって。人は意識しなければ見たいようにしか物を見ないのだ。王子を誑かしたピンク頭を仲間の者だと見たいヤツはいない。
それより第三師団第二部隊のやつらに会いたくないのか?」
「は? いやいや冗談半分ですよ。ほんとに会いたくないわけないじゃないですか。
ムーガ様ってそういうとこありますよねぇ」
ヴィエナは大きくため息を吐く。
「そういうとこってどういうとこだよ」
「なんでもないです。それがムーガ様なんでそれでいいんです」
これ以上聞くと気恥ずかしい思いをしそうだと思ったムーガは澄まし顔で流した。
〰️ 〰️ 〰️
〰️ 〰️ 〰️
新展開に作者も右往左往www
応援いただけますと嬉しいです。
「暑かったぁ!」
「おいっ! それ高いんだから大事に扱えよ」
「こんな派手なもの二度と使えないですよね? もうゴミですっ!」
『パッタン』
少女は勢いよく扉を閉めた。
「いや、地方でならまだ行ける」
力強い眼力で颯爽と馭者台へ乗り込む。
「目立たないことが私達の仕事じゃないですかぁ。師団長になってボケちゃったんですかぁ?」
少女がヒョイッと馭者台に座るとムーガは馬車を進め始めた。
「ヴィエナ。疲れてるだろう? 中にいていいのだぞ」
ムーガは少女をヴィエナと呼んだ。
「窓もない馬車内なんて暇すぎですよ。昨夜はメイド部屋のベッドでゆっくり寝れたので疲れてないです。それにムーガ様が上司なのですから中に乗るのはムーガ様の方ですよ」
ムーガを上司と扱う少女ヴィエナは第三師団第二部隊の隊員である。
そして、ピンクさんであり、ウェルシェでもある。
「それは遠慮しとくわ」
「ほぉら! ムーガ様だって中は暇だと思っているじゃないですかぁ!」
「わっはっは!」「あはははは!」
気の置けない二人は笑いながら隠れ家に向かった。
「一ヶ月くらい隠れ家でのんびりしてろ。そうしたら王都へ戻れよ」
「えー、王都かぁ。ねぇさんたちに会うのは怖いんですよねぇ」
ヴィエナは第三師団第二部隊の女性騎士団員を名前に『ねぇさん』を付けて呼んでいる。
ケイルとヨハンも『にぃさん』『ねぇさん』呼びをしていた。第三師団第二部隊は商隊のフリをして地方を回るので普段から家族ごっこのように呼び合っている。
「ん? 何かあったのか?」
ムーガは首を傾げた。
「ムーガ様が王様にご報告へ行っている間にラオルド様が私たちのところへいらしたでしょう。
その時、ラオルド様がエーティル様に縋るように手を伸ばしたんですよ。でも、ねぇさんたちの眼力で一歩も近づくこともできなかったんですからぁ! 私なんかラオルド様の脇で倒れていたのにビビってチビリそうになりました」
ヴィエナはムーガに泣きそうな顔を向ける。
「リタ姉まで怖いんですよ。妹の顔忘れちゃったのかと思いましたよ」
エーティルの護衛騎士リタとヴィエナは義理の姉妹だ。
「ぶはっはっ!! 忘れられてなかったか?」
「はい。今朝もメイド部屋までお化粧に来てくれました」
ヴィエナは留置所ではなくメイド部屋で過ごしていたのだった。
その間留置所には第三師団第二部隊の隊員が配置されピンクさんがいないことに疑問を持たれないようにしたのはカティドである。
「なるほど。だからその顔か」
ムーガがヴィエナの頬を強めに擦るとムーガの日に焼けた手は白に近いクリーム色になった。
「えー!? ムーガ様がリタ姉を寄越してくれたんじゃないんですか?」
「エーティル様とお前以外のことはカティドに任せてあるんだ」
「あ! だからリタ姉たちは食堂で声かけられて驚いていたのかも。私はそれも知っていると思っていたから」
食堂で騒ぎを起こすことはムーガとヴィエナしか知らなかった。
「罪人が化粧できてるって第二師団の隊員たちに怪しまれなかったか?」
今のヴィエナの顔は当然ウェルシェだ。本来のヴィエナはどこにでもいる平凡な顔をしている。
「もちろん訝しげられましたよ。でも、エーティル様からのお慈悲だと説明したら一発で納得してました。
…………ほんとに……。
…………まあいいですけど……」
その様子を想像し呆れたような同意するような笑いをするムーガにヴィエナは一睨みすると改めて吹き出してさらにヴィエナは眉を寄せる。
「さっきの護送護衛の一人なんて同期で合同訓練を何度もしたヤツだったんですよ! それなのに私に全く気が付かないし!」
「まあ、そう怒るなって。人は意識しなければ見たいようにしか物を見ないのだ。王子を誑かしたピンク頭を仲間の者だと見たいヤツはいない。
それより第三師団第二部隊のやつらに会いたくないのか?」
「は? いやいや冗談半分ですよ。ほんとに会いたくないわけないじゃないですか。
ムーガ様ってそういうとこありますよねぇ」
ヴィエナは大きくため息を吐く。
「そういうとこってどういうとこだよ」
「なんでもないです。それがムーガ様なんでそれでいいんです」
これ以上聞くと気恥ずかしい思いをしそうだと思ったムーガは澄まし顔で流した。
〰️ 〰️ 〰️
〰️ 〰️ 〰️
新展開に作者も右往左往www
応援いただけますと嬉しいです。
288
あなたにおすすめの小説
「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ
ゆっこ
恋愛
その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。
「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」
声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。
いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。
けれど――。
(……ふふ。そう来ましたのね)
私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。
大広間の視線が一斉に私へと向けられる。
王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。
「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み
そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。
広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。
「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」
震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。
「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」
「無……属性?」
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
婚約破棄を受け入れたのは、この日の為に準備していたからです
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私シーラは、伯爵令息レヴォクに婚約破棄を言い渡されてしまう。
レヴォクは私の妹ソフィーを好きになったみたいだけど、それは前から知っていた。
知っていて、許せなかったからこそ――私はこの日の為に準備していた。
私は婚約破棄を言い渡されてしまうけど、すぐに受け入れる。
そして――レヴォクの後悔が、始まろうとしていた。
旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう
おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。
本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。
初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。
翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス……
(※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)
初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように
ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』
運命の日。
ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。
(私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)
今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。
ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。
もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。
そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。
ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。
ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。
でも、帰ってきたのは護衛のみ。
その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。
《登場人物》
☆ルキナ(16) 公爵令嬢。
☆ジークレイン(24) ルキナの兄。
☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。
★ブリトニー(18) パン屋の娘。
婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!
山田 バルス
恋愛
王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。
名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。
だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。
――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。
同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。
そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。
そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。
レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。
そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる