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28 師団長「悪役令嬢ってやつか!」

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 ムーガが話題を変えたそうなのを見越してヴィエナが質問する。

「みなさん、作戦はご存知なんですよね?」

「ああ、第三師団第二部隊は全員知っていると思うぞ。把握しているのはカティドだ」

 サナとリタも食堂から彼らを連れ出した騎士も第三師団第二部隊の隊員であるしラオルドについた偉そうな雰囲気の男カティドはキリアに言われていたように第三師団第二部隊隊長で小隊長を数名総ている。

「裁判室でも私がエーティル様を呼び捨てにした時の殺気ったらっ! 私、ねぇさんたちの殺気だけで死ねるって思いましたよ」

「それも演技だろう。そのおかげでキリア殿下はお前との話を諦めて側近へ向かったじゃないか」

 タイミングをみてそちらへ誘導したのはムーガであるがわざわざそれを言ったりはしない。

「えー! それって、私の演技の賜物じゃないですかぁ? 
微妙なセリフとかドリテンとソナハスへのヒントとか、ムーガ様の作戦って時々細かくて困ることありますよねぇ」

 拗ねるヴィエナにムーガはカラカラと笑う。

「二人の家庭教師のこととかよく調べましたね」

「簡単だったらしいぞ。忠義を捧げる価値のある主のことなら使用人たちも口は堅いのだが二人の家はご当主夫妻が使用人たちから随分と嫌われていたようだ」

「不当解雇に紹介状なしならそうなりますよ」

「マイアスも証言を即座に了承したらしい」

「不当解雇の保証金貰えるといいですね」

「名誉挽回のためには金は出すだろう。宰相曰く次期ご当主たちはまだマトモらしい。母親による他の不当解雇者も探すと言っているそうだ」

 次期当主たちは宰相の計らいで父親たちの聴取の席の最奥にいた。父親の情けない姿と母親の不誠実な行動を知り涙を流していた。

「うわぁ! エライっ! あの二人の兄とは思えませんね」

「そうだな」

「あぁあ……」

「ん?」

「私、めちゃ悪役ですよねぇ」

「おお! 巷で有名な悪役令嬢ってやつか!」

「それは違いますっ! 悪役令嬢は高位貴族のご令嬢で下位貴族のご令嬢を苛める人のことですよ」

「そりゃ、エーティル様ではないな」

「エーティル様を悪役令嬢って言ったらねぇさんたちに確実に殺られますよっ!」

 ヴィエナは仰け反って手を左右に振って必死に否定した。

「あー、聞いておくよ」

「やめてぇ!!」

 腕をボカボカと殴られるムーガは微動だにせず笑っていた。

「でもケイルとヨハンに比べればマシかな。まさかキリア殿下が模擬戦を命じるなんて予想していませんもんね。
あれ絶対あざになってますよ」

 キリアにはこの作戦は当然知らせていない。

「それぐらい訓練なら序の口じゃないか」 

「そうなんですけど。
どうせならあの怖いテンションのねぇさんたちをドリテンとソナハスにぶつければよかったのに」

「それはヤバいだろう」

「…………ですね」

 二人はそれを想像して引き攣り笑いで誤魔化した。

「カティドが臨機応変に対応してくれたからよかったよ」

「カティド隊長はムーガ様の下が長いだけありますねぇ」

「ああ。本当に頼れるヤツだな」

「そうそう! ねぇさんたちはエーティル様が好き過ぎですよ。リタ姉も妹の私のことより大事にしてるっ!」

 再び拗ねたように唇を尖らす姿を見てムーガは高らかに笑った。一人っ子だったヴィエナは養子縁組で姉ができたことを殊更喜んでいるし末っ子だったリタも姉さん風を吹きっさらしで妹ができたことを喜んでいた。

「エーティル様は本当に素晴らしい方だ。あの方がいつか王妃となることは当然だと思うほどにな。それにリタは仕事とプライベートを分けているだけだ」

「それはわかりますけどぉ。
それにっ! にぃさんたちも酷いんですよ。私のこと嬉しそうに縛り上げて、私を部屋の隅に転がした後小さく吹き出したんですよぉ!
あれってわざとですよねっ! ムカつく!」

 『にぃさんたち』とは、その日裁判室まで彼らを連れてきた騎士の第三師団第二部隊隊員のことだ。

「まあまあ、赦してやってくれ」

 ムーガは子供を諭すようにヴィエナの頭を撫でた。ヴィエナも全く抵抗せずにそれを受け止める。

「んー! でもやっぱり赦せなーい!!」

 ヴィエナが両手を握りブンブンと上下に振って悔しさを表した。

「特に小隊長ですよっ! あれ絶対小隊長の独断ですよね?」

「何かあったのか?」

「ほらぁ! やっぱりムーガ様も知らないじゃないですかぁ! デザートぐらいで赦してあげるんじゃなかったぁ」

 むくれるヴィエナと小隊長の名前に悪ふざけが出たのだろうと複雑な顔で笑っていた。
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