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第三王弟殿下
第三王弟殿下(3)
しおりを挟む「ラ……ライニ様……?」
王の御前であることも忘れ、思わず声を漏らしていた。
姉の夫――義兄のエイギルの従弟である彼が都で騎士をしているという話は、エイギルが初めて彼をうちに連れて来た日に聞いた記憶がある。そのときに聞いた「ラインハルト・ヴァルテンベルク」という名前と今しがた聞いた「王弟ラインハルト」という言葉は、同じ名前と同じ人物のようで、頭の中ではうまく重ならなかった。
ぽかんと呆気に取られているユリウスを現実に引き戻すように、陛下がゴホンとわざとらしく咳払いする。
「すでに知り合いだったのか。なら話が早い。こちらは私の三番目の弟で第二騎士団で部隊長をしているラインハルトだ」
目の前の人が第三王弟殿下なら、控えの間でオメガたちが噂していた通りに、第三王弟殿下は選定の儀に参加していなかった。余っている椅子もなかったから、最初から不参加の予定だったのだろう。
しかし、今までエイギルの従弟だと聞かされていた騎士が実は王弟だったなんて、俄かには信じがたい話だった。彼を従弟だと紹介したエイギルはさすがに知っていただろうが、姉のローザも他の家族たちも、王弟殿下に対する態度ではなかったはずだ。しかも先ほど、陛下は「第三王弟に謀反の疑いあり」と言ってなかったか――⁉
与えられた情報が頭の中でぐるぐると回るだけで、理解が追い付かない。ユリウスは床に平伏することも忘れ、椅子に座ったままただ呆然としていた。
呼ばれたのは寝耳に水だったのか、王弟騎士のほうも陛下に困惑の視線を向けている。
「この者は選定の儀で選ばれずに最後まで残ってしまってな。聞けばガイトナー公爵の細君の弟だと言うではないか。貴族に下賜するのは忍びない故、しばらくお前のところに預けたい」
「いや、しかし……」
「気が進まぬなら断っても良い。その場合、本人の希望を踏まえた上でどこかよい嫁ぎ先を探そう」
ラインハルトの不服そうな顔を見れば、ユリウスを預かることを嫌がっているのは明らかだった。
エイギルと違って口数が少なく愛想のないこの従弟君がユリウス自身も苦手で、陛下の提案を手離しで喜ぶ気にはなれなかった。ただ、全く面識のない貴族に下賜されるよりは、多少は近しい間柄の彼のもとで働かせてもらうほうが、いくらか気楽に思える。従兄の義弟なのだから、仕事でヘマをしても暴力を振るわれるようなことはないだろう。
「……陛下の……ご命令とあれば……」
最後は渋々といった様子でラインハルトが右手を胸に当て低頭し、話がまとまったようだった。
「では、この者の処遇はお前に任せる」
陛下が椅子から立ち上がり、ユリウスもようやく固まっていた体を動かし、部屋を出て行こうとする陛下に頭を下げた。
「ユリウス。我が弟を頼んだぞ」
頭上で声がし、直後、ぽんと肩を叩かれ、足音が遠のいていく。
その声も纏う空気もやわらかく、本心では弟の謀反を疑っていることが信じられない思いだった。
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