売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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第三王弟殿下

第三王弟殿下(2)

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 密命……。思いもよらぬ言葉に、ユリウスの心臓が痛いほどにぎゅっと縮こまる。
 国の王が、一介の平民オメガに一体どんな密命を下されるというのか……。

「とある筋から、第三王弟に謀反の疑いありという情報を得た。お前には、我が弟に従僕として仕え、奴の動向を逐一報告してもらいたい」

「第三王弟」と聞いて思い出したのは、先ほど控えの間で小耳に挟んだオメガたちの会話だった。

『成人された王族で妃妾を迎えておられないのは、第三王弟殿下だけだそうよ。でも、あまり期待しないほうがいいわね。第三王弟殿下は毎年、選定の儀に参加されていなくて、オメガ嫌いで有名よ』

「……あ、あの……」

 ユリウスは勇気を振り絞り、口を開いた。視線で促され、恐る恐る話を続ける。

「第三王弟殿下はオメガ嫌いだとお聞きしたのですが……。それに、私のような地方貴族の庶子が王族の従僕になってよろしいのでしょうか……」

「オメガ嫌い……世間ではそういうことになっているのか」

 陛下が何かを思い出すように、口元に苦笑を滲ませる。

「あの者はオメガを嫌っているわけではない。これまで選定の儀に参加してこなかった理由は、いずれ本人の口から聞けばよい。それにガイトナー公爵の縁者なら、あいつも断らないだろう」

 なぜ、ガイトナー公爵の縁者なら断られないのかは疑問だったが、陛下の中ではユリウスが第三王弟に従僕として仕えることはすでに決定事項のようだった。臣下への下賜を免れることは嬉しいが、今まで土いじり以外の仕事を何一つしてこなかった自分に、王弟の従僕が務まるとは思えない。主に迷惑をかけないほうで選べば、下賜に軍配が上がる。かと言って、当然、国王相手に「お引き受けできません」と断れるはずもなく……。

「誰と会い、何を話し、休日にどこに出かけたか。報告の内容は些細なことで構わぬ」

 戸惑うユリウスに構うことなく、陛下は報告書の宛先など具体的なことまで話を進めていく。

 到底断れそうにない雰囲気に、この場ではひとまず引き受け、後でエイギルから差し障りのないよう断ってもらうのがよいか――そんなことを考えていたとき。背後でコンコンと扉を叩く音がした。

「第三王弟殿下がいらっしゃいました」

「あぁ。通せ」

 扉が開き、背後から足音が近づいてくる。
 アルファのオーラによるものだろうか。急に空気が重くなった気がする。王弟殿下を平民の自分が椅子に座って迎えるわけにいかない。床に跪かないと、と頭では考えているのに、自分の体じゃないみたいに指一つ動かせなかった。

「王弟ラインハルトが陛下にお目にかかります」

 颯爽とした足音が真横で止まり、どこか険のある冷ややかな声がかかる。
 その声と名前に聞き覚えがある気がして、ユリウスはギギギと錆びついた音が出そうなほどに凝り固まった首を横へと向けた。

 テーブルの横に立っていたのは、濃紺の騎士服を身につけた見上げるほどに背の高い男性だった。窓から射し込む陽の光を受け、騎士らしく短く切り揃えられたダークブラウンの髪が栗色に輝いていた。
 胸に右手をあて、軽く伏せられていた頭がゆっくりと上がる。
 精悍な顔の輪郭に彫刻のようにくっきりとした目鼻立ち。目尻が少し上がった切れ長の眸は真顔でも眼光鋭く、目が合っただけでぎゅっと体が縮こまる。
 見るからにアルファらしいその美丈夫を、ユリウスは以前から知っていた。


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