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第三王弟殿下
第三王弟殿下(7)
しおりを挟む着替えて居間で姪のマリアと遊んでいると、まもなくしてエイギルが帰宅した。
ガイトナー家は以前の半分ほどではあるが領地を回復していて、エイギルは学院を卒業してから官吏として宮廷に出仕している。
ラインハルトほどではないが、エイギルも見るからにアルファで背が高く、文官とは思えない引き締まった体格をしている。
どちらも整った容貌であることは間違いないが、エイギルは目尻が下がり気味の優しげな面立ちで、髪も、少しくせのある明るいブラウン。見下ろされるだけで萎縮してしまうラインハルトとは対極にある。容姿だけでなく、性格も、明るく気さくなエイギルと、終始仏頂面で口数の少ない彼とでは、完全に真逆だ。
エイギルは、「ただいま」とソファにいるユリウスたちに笑顔を向けると、自然な流れでローザにキスをした。
先ほど「結婚式」という言葉を聞いたときのような胸のざわめきはない。あれはきっと不意打ちだったからだと、改めてホッとする思いだった。
まだ子供なのに、父を亡くし母と引き離されても人前で涙を見せず、誰に対しても穏やかに優しく振る舞っていたエイギルは、物語に出てくる王子様のような人で、姉だけでなくユリウスにとっても、出会った頃から憧れのお兄さんだった。
それがただの『好き』ではなく、『恋』というものだと知ったのは、彼がイェーガー家を出た後のことだ。長期休暇で遊びに来ていたエイギルが、木陰でローザとキスしているのをたまたま見かけて、姉のことを羨ましいと思っている自分に気づいてしまった。
その思いは、気づいた瞬間に実らないこともわかっていたし、本人にも他の誰にも打ち明けるつもりはなかった。
エイギルへの想いは、あの日、二人の結婚式が行われたカッシーラー辺境伯のお城に置いてきたつもりだった。姉のことは大好きだし、アルファなのに格下の貴族であるベータの娘と結婚し、他に妾も娶っていないエイギルのことも、人として尊敬しているし義兄としても慕っている。
そう思っていても、長くここにいれば、それだけではいられないかもしれないという不安もある。特に今日のように、自分に自信を無くしているようなときはよくない。
ローザに対して感じているものが羨望なのか嫉妬なのかは、初めて彼女とエイギルのキスを目撃して以降、自分でもわからなくなることが度々あった。
なまじオメガには、発情期という武器があるだけに厄介だった。
発情期中にオメガが放つフェロモンには、アルファもベータも抗えないと聞いている。それを使えば、エイギルを誘惑し関係を持つこともできるということだ。
一人で発情期をやり過ごすたびに、自分がいつか、嫉妬にかられ、発情期を利用して姉の家庭を壊してしまうのではないかと不安になった。
一人歩きができるようになったばかりのマリアがユリウスの膝から降り、「パァパ」とエイギルに歩み寄る。
ラインハルトからは、「うちに来るのはいつからでもいい」と言われている。
仲睦まじい家族の姿を笑顔で眺めながら、ユリウスは明日、ライニ様の屋敷に行こうと心に決めた。
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