売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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舞踏会の夜に

舞踏会の夜に(2)

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 舞踏会が開かれている大広間は、警備の兵士たちに厳重に囲まれており、許された一部の使用人しか中に入ることができない。ただ、小柄なユリウス一人なら、賓客の影に隠れてこっそり潜り込むことができるのではないかと思っていた。
 それが難しい場合は辺境伯かラインハルトの私室の近くで二人が来るのを待ち伏せするしかない。

「それは大丈夫だけど……体調悪いのなら今からでも休んできなよ」

 アルミンの言葉に、まだ音楽は鳴り止まないけど、そろそろ仮病を使って大広間に行ってみようかと思ったときだ。

「あ~~~。いいわねー。私も一度でいいから、あんな綺麗な服着てあんな素敵な殿方と踊ってみたいわ~」
「夢見るのは勝手だけど、あれはお嬢様だから着こなせるのよ。あんたみたいなのがあんなドレスを着たら、男はあんたの顔じゃなく、ドレスだけ見て踊ることになるわよ」

 若い女中メイドたちが話し声を響かせながら厨房に入って来た。
 運搬用の台車には、空になった食器と、食べかけの料理の載った皿がいくつも置かれている。

「あら。今度はあんたたち二人だけかい? マーサはどうしたの?」

 ようやく仕事が一段落し、料理人やら厨房係の女中メイドたちが舞踏会の料理の残り物にありついている中で、年配の女中メイドが二人に訊ねた。
 確かに言われてみれば、大広間から厨房まで、何度も行ったり来たりして料理や食器を運んでいる女中メイドたちは、基本的に三人一組になっている。先ほどまでは彼女たちと一緒にもう一人いた。
 
 マーサと呼ばれるその女性は、女中メイドにしては垢抜けた、妖艶な雰囲気の美人だったから、ユリウスも顔は覚えている。忙しくしていても彼女が近くに来ると、男たちはちらちらと彼女に視線を送らずにはいられないようだった。アルミンも、目が合ったときにニッコリと微笑まれ、ぼーっと見惚れていたくらいだ。

「いつのまにかあの子、いなくなっていたのよ」
「きっとまたあれよ」

 二人が顔を見合わせ、意味深に笑い合う。

「騎士団長との逢・い・引・き!」

 二人が声を揃えて言った言葉に、ユリウスは思わず身を硬くした。それまで右から左に聞き流していた彼女たちの声に、意識を集中させる。

「どう見ても弄ばれているのに、あの子もよくやるわねー」
「でも、この前は、舞踏会が終わったら騎士団長に妾にしてもらうことになったって喜んでいたわよ。団長にもらったんだって嬉しそうに真珠のネックレスして」

「妾? まさか、それはないわよ。だって騎士団長は正妻もまだでしょう? 先に妾を娶るのは外聞が悪すぎるわ」

 普段から、マーサは二人によく思われていなかったのかもしれない。
 ここぞとばかりに、二人は、あまり好意的とは思えない噂話に花を咲かせはじめた。
 石畳に座り休んでいたユリウスは、重い腰を上げる。

「あ……、あの!」

 尽きることのなさそうな女中メイドたちのお喋りに、ユリウスは割って入った。
 彼女たちに急ぎ訊かねばならないことがある。

「今も王弟殿下はお嬢様と踊ってらっしゃいました?」

 なぜ、急に王弟殿下のことを訊かれるのかわからなかったのだろう。
 二人は不思議そうに顔を見合わせた。

「私たちが広間を出てきたときは、お嬢様は別の方と踊ってらっしゃったわよ。見たことないから領内の貴族じゃなさそうだったわ」

「では、王弟殿下も別の方と踊ってらっしゃいました?」

「いいえ。お嬢様の相手をしたあとは、殿下はどなたとも踊っておられなかったわ。そう言えば……。いつのまにか大広間にお姿をお見かけしなくなっていたわね」
「あら。私は、殿下が旦那様と一緒に広間を出て行かれるところを見たわよ」

 ――なんだかものすごく嫌な予感がする。

「ごめん、アルミン! 僕、ちょっと用を足してくる!」

 それまで体が重怠くて一歩も動きたくなかったのが嘘のように、ユリウスの動きは速かった。ユリウスが急に大きな声を出したものだから、うぐっ、と料理を喉に詰まらせそうになっているアルミンを尻目に、厨房を出た。

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