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嵐のあと
嵐のあと(5)
しおりを挟むユリウスはラインハルトが帰ってくる前に城を出ることを決めていた。
もともと即刻故郷に帰るように言われていたし、今回のことで、自分が役立たずどころかラインハルトにとって、ただの迷惑な預かり物でしかないことを痛感した。末端としてでも彼の役に立ちたかったのに、結局は足手まといになり、命懸けで助けられたのはユリウスのほうだった。
ユリウスが城に留まる以上、アルミンの護衛も続くことになる。その費用がかさむのも心苦しかった。
挨拶もせずに去ることを決めたのは、会って別れの挨拶をすれば、今度こそ涙を見せてしまいそうだったからだ。助けてもらった礼と、これまで迷惑をかけたことへの謝罪を手紙に綴り、彼の私室に残してきた。
カレンにもできればひと言別れの挨拶をしたいと思い、中庭に咲いていたリシマキアの花を摘んで花束にしたものを手に、部屋を訪ねることにした。
稲穂のように一つの茎にたくさんの黄色い花を咲かせるその花は、ユリウスの故郷の庭にも咲いていた。子供の頃、よく花束にして、病で伏せがちの母の部屋に届けた記憶がある。
部屋の前には見張りの騎士が二人立っていた。騎士団の使用人の自分が訪ねていって会わせてもらえるだろうかと気後れしていると、部屋から一人の侍女が食器を載せた台車を押して出てきた。
中庭のお茶会でカレンの背後に控えていた侍女だ。
向こうもユリウスを覚えていたようで、すれ違いざまに意外そうに目を瞬かせたので、ユリウスは思い切って声をかけた。
「あの……、すみません。お嬢様にご挨拶に来たんですけど、今はお目にかかることはできないんでしょうか……」
「あなた、お嬢様がお茶会に招いた子ね。今は私たち決まった侍女以外、誰にも会うことを禁じられているの」
侍女は表情を曇らせ、騎士の立つ部屋のほうを一瞥した。
「そうでしたか……。近々故郷に帰るので、その前に一度ご挨拶したかったのですが……」
「お嬢様には、あなたが挨拶に来たことを伝えておくわ。それもお嬢様に?」
侍女がユリウスが手にしていた花束へと視線を落とす。
「あ、はい……。中庭に咲いていたものですが、今は部屋からお出になることができないと聞いたので……」
父親が謀反の罪で連行されたのに花を愛でる心の余裕などないだろう。今更にそのことに気づき、恥ずかしくなって、ユリウスは花束をそっと後ろ手に隠そうとした。けれどその前に、侍女に遮られる。
「花瓶に入れてあとでお部屋にお持ちするわ」
一瞬迷い、ユリウスは、「ではお願いします」と花束を侍女に渡し、彼女はそれを台車のテーブルの隅に置いた。
食器は全て空になっている。食事は喉を通っているようで、そのことにホッとした。
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