困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

柚木ゆず

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第13話 知って、また知る アン視点(1)

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「…………そう、だったのですね……」

 お兄様の言葉、わたしに対する特別な感情のお話。それを聞いたわたしは、おもわず目を見開いてしまった。
 エリオッツお兄様がそんな風に想ってくださっていただなんて……。気付きませんでした。

「想いを打ち明けても迷惑がかかるだけ、そう思ってずっと隠してきましたからね。気付かないのは当たり前ですよ」

 お兄様は、また。自嘲含みで口元を緩め、ご自身の胸元に右手を当てたあと、再びわたしへと視線を移した。

「僕は単に、自分に自信がなかったんですよ。『自分なんかが』――。あらゆる場面で頭の中にその言葉が浮かび上がり、事あるごとに自分を鎖でがんじがらめにしていたんです」
「おにい、さま……」
「だから想いを告げられなかったし、ずっと考えていたのに『その2』に関する行動も取れずにいた。自分にはどうせ無理だと、諦めてしまっていたのですよ」

 より自嘲を孕んだ言葉を口にした、お兄様。そんなお兄様は「でも」と、イブライム様達がいた場所を一瞥された。

「前当主の独断で、バッドエンドが確定している婚約が決まる。それにより、期せずして――いいえ、情けないことに、が適切でしょうね。ようやく、鎖を断ち切ろうとし始めるのですよ」
「くさりを、たちきる……」
「このままでは、アンが――いつも優しくしてくれていた、心を救ってくれた人が、悲劇を迎えてしまう。誰かが止めないとソレを阻止できない状況。即ち『やれるかどうかじゃなくて、自分が絶対にやらないといけないんだ』。そんな状態が自分でかけていた鎖を壊す切っ掛けを作り、『お前なら必ず出来る』と己を鼓舞するようになって――。これまで蓄えた知識を総動員し、間に合わせるべく水面下で動き回っていたのですよ」
「…………だから、だったのですね……」

 久しぶりにお会いした時に覚えた、もう一つの違和感。その正体は、お兄様の雰囲気。
 前回お会いした時とは別人のようなオーラを纏っていたので、すぐにお返事をできなかったんです。

「これが先ほど口にした、『やっと気付けた』理由。僕は自分の可能性を自分で潰し、行動を大きく制限し続けていたんですよ」

 三回目となるソレは、固い意志も含んだ微笑。これまでの二回とは異なる性質を含めて口元を緩めたお兄様は、改めてわたしを見つめて――
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