隣にある古い空き家に引っ越してきた人達は、10年前に縁を切った家族でした

柚木ゆず

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第2話 元家族の10年間 俯瞰視点(1)

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「…………ここで終わるわけには、いかん。いくぞ、お前達」
「ええ、あなた」
「ええ、お父様……!」

 何もかもなくなってしまいましたが、手元には持ち出せた指輪やイヤリングがありました。3人は非合法に買い取りを行ってくれる場所へと向かい、貴金属を現金へと変換。手にしたお金を持って今度は万が一に生存を悟られてしまわぬよう遠く離れた地を目指し、そこに着くと新たな人生の拠点となる築100年超の古民家を購入したのでした。

「くそ……っ。今日で殆ど金がなくなってしまった……!」

 今の彼らは貴族ではなく平民で、名前も『ターズン』『レーラ』『ネフール』。当時のコネクションを一切使えないため、相手を選ぶことができませんでした。
 運悪く足元を見る人間との交渉を余儀なくされ、賃貸を選ぶつもりが購入する羽目になり、更には相場の倍近い額を吹っ掛けられてしまっていたのでした。

「これでは、想定していた商売を始められん……。労働で稼ぐしかない……」
「労働!? 嫌だわ!」
「汗水流して働くだなんてっ! そんなの平民がすることですわ!」

 妻レーラも娘ネフールも――当然ターズン自身もしたくありませんでしたが、せざるをえませんでした。しかも3人は立場が立場だけに堂々と働くことはできず、日雇いとして炭鉱で働くこととなりました。

「はぁ、はぁ、はぁ……。つ、つらい……」
「からだが、重いわ……」
「死にそう、ですわ……」

 肉体労働は人生で初。人一倍負荷がかかり、3人は毎日毎日へとへとになっていました。

「……たった、これだけか……」

 なのに同様に足もとを見て雇われているため、給料はとても低い。3人は様々な意味で過酷な環境で働く羽目になり、そうであるが故に倒れることや病気になってしまうことも少なくはなく、思ったように貯金は増えませんでした。
 結局3人は9年働いたものの目標金額を貯めることはできず、我慢の限界でありちょっとしたコネクションを手に入れたため、長年暮らした地を離れる決断をしたのでした。

「無駄な時間を使ってしまった! こんなゴミだまりのような場所に用はない! 達成できる場所へと移動するぞ!!」

 9年の労働経験があるため炭鉱の関係者から打診があり、西にある街『ライアレア』内にある工事現場で働けるようになりました。
 しかもそこはここよりも給料が高い上に、知り合いが所有していた家を――古いものの今住んでいる家よりも遥かに新しい家を、格安で借りることができる。
 良いこと尽くめで3人は嬉々として移動を行い、満面の笑みで引っ越し作業を終えたのですが――。直後、3人の笑顔は跡形もなく消え去ることとなりました。

「ぁ、ぁぁ……!」「ぁ、ぁぁ……!」「ぁ、ぁぁ……!」
「「???」」
「ま、間違いない……。間違いない!! お前達はっ、リーリスとオルズじゃないか!!」

 新たな拠点の隣にいたのは、いなくなった娘と旧友の息子――自分達が全てを失うきっかけを作った2人でした。

「生意気だ……!! 元凶・・のくせに……!!」
「ええ、その通りよ……!!」
「許せませんわ……!」

 自分達の人生を一変させたくせに、自分達より遥かに大きな家に住んで幸せそうに生きていた。
 3人は逆恨みをして激しい怒りの炎を燃やし、家に戻るや復讐の計画を練り始めたのでした。



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