悪役令嬢のお姉様が、今日追放されます。ざまぁ――え? 追放されるのは、あたし?

柚木ゆず

文字の大きさ
5 / 25

2話(2)

しおりを挟む
「おはよう、エステル。なかなか面白い事になってるね」

 ゲっ……となっているあたしにヒラヒラと手を振り、呑気に笑いながらベッド際にやってきた。
 この人は、いつもこんな感じ。なぜか初対面の時からことある毎にあたしをからかってくる、面倒くさい人なのよね。

「ここはウチの部屋で、彼らは完璧に撒いた。そんなに警戒する必要はないよ」
「…………いえ、そうじゃないんです。あたしは、先輩を警戒してるんですよ」

 あたしはザザザザッとベッドの端まで下がり、ピローを抱いて盾代わりにする。

『エステルは、勉強が得意じゃないそうだね。これからユリオスって呼ぶなら、来週のテストで合格点を取れるようにしてあげるよ』

『エステル、レポートがまだ仕上がってないそうだね? 明日買い物に付き合ってくれるなら、手伝ってあげるよ』

 この人はからかう以外にも、頻繁にこうやって交換条件を出してくるの。しかも毎回必ず、あたしが拒否できないタイミングで出してきて……。
 今は、絶好のチャンスタイム。きっと『匿う』を使って、何かするつもりだ……。

「エステル。エステルは今、外に出られない状況だよね?」

 ほら来た。王子様然とした顔をニヤニヤさせながら、ユリオス先輩はベッド脇に腰を下ろしてきた。

「だったらさ。ここを追い出されたら大変だよねえ?」
「…………な、なにが望みなんですか。先輩はあたしに、なにをさせようとしてるんですか?」
「『素敵な人、だったなぁ』。さっきみたいに恋する乙女のような口調でそう言ってくれたら、ここで匿ってあげるよ」

 先輩はあたしの声真似をして、クククッと喉を鳴らした。
 ってぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
 さっきの言葉聞いてたの!? さも今来ましたよな感じでノックしていたのに、あの時にはもう傍にいたの!?
 というか知らなかったとはいえ、あたしは先輩に恋しちゃってたの!?
 ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! ひわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

「有り得ない有り得ない……っ! この先輩だけは、有り得ないから……!」

 からかい大好きで、いつもあたしが悔しがったり渋々取引に応じる様を見てケラケラ笑ってる人はっ。玩具(おもちゃ)にしてくる人は、無理っっ!

「急に転げ回るなんて、エステルは今日も面白いね。やはり『素敵な人』が傍にいたら、興奮してしまうかあ」
「違いますから! 全然違いますからね!? 真逆の感情がそうさせてるんですからね!?」

 あたしは今、違う方向に興奮しちゃってるんです。知らず知らず過ちを犯してしまっていて、激しく後悔してるんです!!

「不覚……。一生の不覚……」
「え? 何が? 自分に正直になりなよ」
「だーかーらーっ、違うんですってば!! 先輩っっ、ちょっとお時間をもらいますよっっっ!」

 このままだと後悔で死にそうなので、頭の整理をして落ち着こう。
 あたしは両目を閉じて両耳を塞ぎ、外からの刺激を遮断。何度も何度も深呼吸を行い、同時に『エステル、あれは吊り橋効果よ』と繰り返し始めたのでした――。
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

「小賢しい」と離婚された私。国王に娶られ国を救う。

百谷シカ
恋愛
「貴様のような小賢しい女は出て行け!!」 バッケル伯爵リシャルト・ファン・デル・ヘーストは私を叩き出した。 妻である私を。 「あっそう! でも空気税なんて取るべきじゃないわ!!」 そんな事をしたら、領民が死んでしまう。 夫の悪政をなんとかしようと口を出すのが小賢しいなら、小賢しくて結構。 実家のフェルフーフェン伯爵家で英気を養った私は、すぐ宮廷に向かった。 国王陛下に謁見を申し込み、元夫の悪政を訴えるために。 すると…… 「ああ、エーディット! 一目見た時からずっとあなたを愛していた!」 「は、はい?」 「ついに独身に戻ったのだね。ぜひ、僕の妻になってください!!」 そう。 童顔のコルネリウス1世陛下に、求婚されたのだ。 国王陛下は私に夢中。 私は元夫への復讐と、バッケル伯領に暮らす人たちの救済を始めた。 そしてちょっとした一言が、いずれ国を救う事になる…… ======================================== (他「エブリスタ」様に投稿)

役立たずと追放された令嬢ですが、極寒の森で【伝説の聖獣】になつかれました〜モフモフの獣人姿になった聖獣に、毎日甘く愛されています〜

腐ったバナナ
恋愛
「魔力なしの役立たず」と家族と婚約者に見捨てられ、極寒の魔獣の森に追放された公爵令嬢アリア。 絶望の淵で彼女が出会ったのは、致命傷を負った伝説の聖獣だった。アリアは、微弱な生命力操作の能力と薬学知識で彼を救い、その巨大な銀色のモフモフに癒やしを見いだす。 しかし、銀狼は夜になると冷酷無比な辺境領主シルヴァンへと変身! 「俺の命を救ったのだから、君は俺の永遠の所有物だ」 シルヴァンとの契約結婚を受け入れたアリアは、彼の強大な力を後ろ盾に、冷徹な知性で王都の裏切り者たちを周到に追い詰めていく。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

虐げられてきた令嬢は、冷徹魔導師に抱きしめられ世界一幸せにされています

あんちょび
恋愛
 侯爵家で虐げられ、孤独に耐える令嬢 アリシア・フローレンス。 冷たい家族や侍女、無関心な王太子に囲まれ、心は常に凍りついていた。  そんな彼女を救ったのは、冷徹で誰も笑顔を見たことがない天才魔導師レオン・ヴァルト。  公衆の前でされた婚約破棄を覆し、「アリシアは俺の女だ」と宣言され、初めて味わう愛と安心に、アリシアの心は震える。   塔での生活は、魔法の訓練、贈り物やデートと彩られ、過去の孤独とは対照的な幸福に満ちていた。  さらにアリシアは、希少属性や秘められた古代魔法の力を覚醒させ、冷徹なレオンさえも驚かせる。  共に時間を過ごしていく中で、互いを思いやり日々育まれていく二人の絆。  過去に彼女を虐げた侯爵家や王太子、嫉妬深い妹は焦燥と嫉妬に駆られ、次々と策略を巡らせるが、 二人は互いに支え合い、外部の敵や魔導師組織の陰謀にも立ち向かいながら、愛と絆を深めていく。  孤独な少女は、ついに世界一幸福な令嬢となり、冷徹魔導師に抱きしめられ溺愛される日々を手に入れる――。

離婚したいけれど、政略結婚だから子供を残して実家に戻らないといけない。子供を手放さないようにするなら、どんな手段があるのでしょうか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 カーゾン侯爵令嬢のアルフィンは、多くのライバル王女公女を押し退けて、大陸一の貴公子コーンウォリス公爵キャスバルの正室となった。だがそれはキャスバルが身分の低い賢女と愛し合うための偽装結婚だった。アルフィンは離婚を決意するが、子供を残して出ていく気にはならなかった。キャスバルと賢女への嫌がらせに、子供を連れって逃げるつもりだった。だが偽装結婚には隠された理由があったのだ。

公爵令嬢が婚約破棄され、弟の天才魔導師が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...