悪役令嬢のお姉様が、今日追放されます。ざまぁ――え? 追放されるのは、あたし?

柚木ゆず

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2話(3)

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「………………はぁ、はぁ、はぁ。どうにか、収まった……」

 深呼吸を始めて7分後。あたしはようやく、落ち着きを取り戻した。
 抑え込めたと思っても急に飛び出してくる、先輩が真似した『素敵な人、だったなぁ』。あのせいで何度も発狂しかけて、本当に危なかった……。

「ユリオス先輩のせいで、悶え死(じ)ぬところでしたよ。まだ呑気に笑ってますけど、一歩手前だったんですからね?」
「はいはい、ごめんごめん。それじゃあそろそろ、本題に戻るよ」

 先輩は目尻を拭って、相変わらずの表情でパンと手を叩く。
 この人は絶対に悪いと思ってないけど、そういう生き物だからしょうがない。気を取り直して、『素敵な人、だったなぁ』と言う件についてもう一度話そう。
 あの直後で全く内容を変えないのは良い性格してるけど、しょうがないので、もう一度話そう。

「エステルは、ここにいたい。ここにいるには、アレを言わないといけない。だったら、分かってるよね?」
「…………ぐぬぬぬぬぬ……。ぐぬぬぬぬぬぬぬ……っ」

 あんな台詞は、二度と口にしたくない。
 だけどこのタイミングで放り出されたら、簡単に捕まって濡れ衣をかけられたまま追放されてしまう。姉さんや父さん母さんの罠に、まんまと嵌ってしまったことになる。
 それに比べたら……。マシ、よね。

「その顔。心が決まったようだね?」
「わかった、わかりましたっ! 言えばいいんでしょ言えば!」
「そう、言ってくれるだけでいいんだよ。俺はそれを楽しく聞いているから、さあいつでもどうぞ――と言いたいところだけど。何もしなくていいよ」

 ベッド脇で目を意地悪くキラキラさせていた先輩は、クスリと口元を緩めた。
 へ……? は……?

「え? ええ? 突然どうしたんですか……!?」

 あたしはおもわず膝歩きで近寄り、オデコとオデコをくっ付けてみる。
 熱は、ない。いつも通りの意地悪い思考回路が働いてるのに、なんぜこんなことを言い出したの?

「はっ! まさか、これさえも罠!? こうやって油断させておいて、持ち上げてから落とすつもりなんですね!?」
「違う違う。さっきのは、全部冗談。本当に、何もしなくていいんだよ」

 先輩は肩を竦め、「悪ふざけが過ぎたね。ごめんごめん」と続けた。
 その様子に嘘はない…………んだけど、それならますます気になっちゃう。TPOを一切弁えない、で有名なあの先輩が、まさかの撤回をしたワケはなに?

「ユリウス先輩らしくなくて、滅茶苦茶不安です。理由は、なんなんですか?」
「理由? それは、至ってシンプルだよ」

 先輩は顔をしっかりとこちらに向け、あたしの額をツンと突っつく。そしていつものようにヘラヘラとしたノリで、

「俺はエステルを、愛しているから。愛している人が本当に困る事をするつもりはなく、そんな人の窮地を利用するつもりもないから、だよ」

 いつもではあり得ない、信じられない台詞を口にした。
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