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2話(2)

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「おはよう、エステル。なかなか面白い事になってるね」

 ゲっ……となっているあたしにヒラヒラと手を振り、呑気に笑いながらベッド際にやってきた。
 この人は、いつもこんな感じ。なぜか初対面の時からことある毎にあたしをからかってくる、面倒くさい人なのよね。

「ここはウチの部屋で、彼らは完璧に撒いた。そんなに警戒する必要はないよ」
「…………いえ、そうじゃないんです。あたしは、先輩を警戒してるんですよ」

 あたしはザザザザッとベッドの端まで下がり、ピローを抱いて盾代わりにする。

『エステルは、勉強が得意じゃないそうだね。これからユリオスって呼ぶなら、来週のテストで合格点を取れるようにしてあげるよ』

『エステル、レポートがまだ仕上がってないそうだね? 明日買い物に付き合ってくれるなら、手伝ってあげるよ』

 この人はからかう以外にも、頻繁にこうやって交換条件を出してくるの。しかも毎回必ず、あたしが拒否できないタイミングで出してきて……。
 今は、絶好のチャンスタイム。きっと『匿う』を使って、何かするつもりだ……。

「エステル。エステルは今、外に出られない状況だよね?」

 ほら来た。王子様然とした顔をニヤニヤさせながら、ユリオス先輩はベッド脇に腰を下ろしてきた。

「だったらさ。ここを追い出されたら大変だよねえ?」
「…………な、なにが望みなんですか。先輩はあたしに、なにをさせようとしてるんですか?」
「『素敵な人、だったなぁ』。さっきみたいに恋する乙女のような口調でそう言ってくれたら、ここで匿ってあげるよ」

 先輩はあたしの声真似をして、クククッと喉を鳴らした。
 ってぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
 さっきの言葉聞いてたの!? さも今来ましたよな感じでノックしていたのに、あの時にはもう傍にいたの!?
 というか知らなかったとはいえ、あたしは先輩に恋しちゃってたの!?
 ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! ひわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

「有り得ない有り得ない……っ! この先輩だけは、有り得ないから……!」

 からかい大好きで、いつもあたしが悔しがったり渋々取引に応じる様を見てケラケラ笑ってる人はっ。玩具(おもちゃ)にしてくる人は、無理っっ!

「急に転げ回るなんて、エステルは今日も面白いね。やはり『素敵な人』が傍にいたら、興奮してしまうかあ」
「違いますから! 全然違いますからね!? 真逆の感情がそうさせてるんですからね!?」

 あたしは今、違う方向に興奮しちゃってるんです。知らず知らず過ちを犯してしまっていて、激しく後悔してるんです!!

「不覚……。一生の不覚……」
「え? 何が? 自分に正直になりなよ」
「だーかーらーっ、違うんですってば!! 先輩っっ、ちょっとお時間をもらいますよっっっ!」

 このままだと後悔で死にそうなので、頭の整理をして落ち着こう。
 あたしは両目を閉じて両耳を塞ぎ、外からの刺激を遮断。何度も何度も深呼吸を行い、同時に『エステル、あれは吊り橋効果よ』と繰り返し始めたのでした――。
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