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第9話 聞こえてきた真実 イナヤ視点(2)
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「お前達なにをするっ!? 父上! どうするつもりですか!?」
「条件を満たすまで、農業に従事させる」
こんな心を持つ者を『家』の一員にし続けるわけにはいかないし、かといって発端が発端だけに見捨てたくない気持ちもあるし、だからと言って全面的に養うのは領民たちに申し訳ない。そこでアスユト家所有の建物に移動させ、心から反省し後悔することができるその日まで労働させる。
この命令には、そんな親心がありました。
「条件!? 条件ってなんなのですか!?」
「さあ、なんだろうな? 自分で考えてみるといい」
前半は当主として冷たい声音で。後半は父親として、優しさを含んだ声音で。大声にお返事をされ、言下マティウス様は馬車へと引きずられ始めました。
「離せ! 離さないか!! 僕は嫡男だぞ!! お前達の主になる男なんだぞ!!」
「「「なる予定だった男、ですよね」」」
「っっ!! いいから離せ!! いくらでも代わりが居るお前達には分からないだろうがなぁ!! 僕はすさまじいプレッシャーやストレスと戦ってきたんだぞ!! もう充分アスユト家に貢献しているんだ!! 離せ!!」
「「「………………」」」
「おいっ! おい!! おい――っ! いっ、イナヤ様!!」
いくら訴えても無駄だと、感じたのでしょう。マティウス様のお顔が、突然こちらを向きました。
「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!! 僕はこの件をお詫びをさせていただきたいと思っております!! ですが拘束された身では叶いません!! どうかこの者達にご命令を!!」
「……マティウス様……」
「ルナなどという存在しもしない妹の名を連呼してっ、多くの不安を与えてしまいましたっ! そのお詫びは一生をかけないとできないでしょう!! この命尽きるまでに果たすにはっ、一分一秒が惜しいのです! どうかこの者達にごめむご!?」
「手荒な真似はしたくありませんでしたが、致し方ありません」
ガブリエル様がご自身のハンカチを手渡し、そちらはマティウス様のお口に押し込められました。
「イナヤ様、愚兄が失礼致しました」
「お気になさらないでください。今の出来事は、お気遣いに上書きされておりますので」
わたしのために動いてくださった。そのお気持ちのおかげで、マティウス様のお声は忘れてしまいました。
「痛み入ります」
「「痛み入ります」」
「むご! むご! むごぉ!!」
ガブリエル様、当主夫妻も今一度ご丁寧に背を折り曲げてくださり、そうしてくださっている間にマティウス様のお姿は馬車の中へと消えました。
そうして、謎を読んでいた『ルナ事件』は終わりを告げたのでした。
――と、その時のわたしは思い込んでいました――。
その時から5日後。
まさか、あんなことが起きるだなんて――
「条件を満たすまで、農業に従事させる」
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この命令には、そんな親心がありました。
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「「「………………」」」
「おいっ! おい!! おい――っ! いっ、イナヤ様!!」
いくら訴えても無駄だと、感じたのでしょう。マティウス様のお顔が、突然こちらを向きました。
「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!! 僕はこの件をお詫びをさせていただきたいと思っております!! ですが拘束された身では叶いません!! どうかこの者達にご命令を!!」
「……マティウス様……」
「ルナなどという存在しもしない妹の名を連呼してっ、多くの不安を与えてしまいましたっ! そのお詫びは一生をかけないとできないでしょう!! この命尽きるまでに果たすにはっ、一分一秒が惜しいのです! どうかこの者達にごめむご!?」
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「お気になさらないでください。今の出来事は、お気遣いに上書きされておりますので」
わたしのために動いてくださった。そのお気持ちのおかげで、マティウス様のお声は忘れてしまいました。
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「「痛み入ります」」
「むご! むご! むごぉ!!」
ガブリエル様、当主夫妻も今一度ご丁寧に背を折り曲げてくださり、そうしてくださっている間にマティウス様のお姿は馬車の中へと消えました。
そうして、謎を読んでいた『ルナ事件』は終わりを告げたのでした。
――と、その時のわたしは思い込んでいました――。
その時から5日後。
まさか、あんなことが起きるだなんて――
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