婚約者が妹と婚約したいと言い出しましたが、わたしに妹はいないのですが?

柚木ゆず

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第10話 ルナ マティウス視点(1)

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「はぁ、はぁ、はぁ」((くそっ。どうして僕がこんなことをしないと……!))

 卑怯な罠によってルナの自演を白日させられてから、今日で5日目。普段ならば午後の読書を楽しんでいる時間なのに、今の僕は広大な畑の中で収穫作業を行っていた。

『条件を満たすまで、農業に従事させる』

 朝6時半に起きて8時に作業が始まり、昼の休憩を挟んで、夕方5時に終わる。
 物分かりが悪く優しさがまったくない父によって、こんな厳しい生活を課せらてしまったのだ。

((条件を満たすまで……? 条件ってなんなんだよ……! ありもしないくせに……!!))

 どうせ、保険として――ガブリエルのやつに何かがあった時のために、血の繋がった存在を置いておきたいんだろう。貴族に戻すといえば嬉々として当主に戻ると思っているんだろう。

((舐めやがって……! そんなことをするのなら……!! こっちだって利用してやる……!!))

 もしガブリエルが死ぬようなことがあったら引っかかったフリをして家に戻り、当主を引き受ける。そして裏で親族を説得して回り父上の影響力を削ぎ、完全に力を失ったタイミングで逆に追放してやる。

((ふふ、ふふふ。待っていろよ。必ず、一泡吹かせてやるからな……!!))

 こういうことをすると、不思議なことに実際に起きると相場が決まっている。
 きっと、当主に就任する前にガブリエルは死ぬ。
 逆襲の時が、楽しみだ……!!

「ひひ、ひひひ、ひひひひ……!」
「お、おい、マティウス様が空を見ながら笑ってるぞ……」
「暑さと疲労で、おかしくなってしまったのか……? 4日連続で肉体労働なんて、経験ないしさ……」
「……そう、みたいだな。今日は特に暑いし、1時間早いが終わりにしようか」

 復讐の笑みが、予想外の幸福をもたらしてくれた。
 監視担当が言っているように今日はひと際暑さが激しいし、4日間も続けて動いているせいですでに全身が悲鳴をあげている。さっきめまいもしていて、早上がりは助かる。

「マティウス様、今日は特別に終了とします。馬車にお乗りください」
「ああ、分かった」((笑うと周囲が案じる、覚えた。これからも、適度に使っていこう――……。え……?))

 使用していた道具を所定の位置に置き、畑を出ようとしていた時だった。信じられないことが、起きたのだった。


((…………る、ルナ……?))

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