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プロローグ 今日は最高の日 俯瞰視点(2)
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「あら、よかったわねぇティナ。お迎えがきたわよ」
この国『マリアントラ』には正午に新郎が新婦の生家を訪れ、玄関の前でお別れをするという風習があります。そのため敷地に現れた、大きく豪華な馬車――ラファオール伯爵家の馬車を見やりながら、マルグリットは更に腹黒い笑みを浮かべました。
「あの馬車に乗って貴方はここを離れ、ラファオール伯爵邸へと向かうのよねぇ。素敵な方とずっと一緒に、大きなお屋敷で暮らせるだなんて。羨ましいわぁ」
「………………」
「実はわたしは在院中からずっとクロード様が気になっていて、好意を持ってもいたの。だからね、本当に羨ましいの。あぁ、羨ましい。できることなら、代わって欲しいわぁ」
「………………」
「でもお父様が決めたことだから、それはできないのよねぇ。ぁぁ、悲しいわぁ。シクシクシク」
マルグリットは取り出したハンカチで目元を拭い、ワザとらしく泣き真似をします。
そうしてたっぷりと嫌味を振り撒いている間に馬車は停止し、それに合わせてマルグリットはティナへと一歩前進。これから降りてくるクロードに聞こえてしまわないように距離を詰め、『トドメ』を行い始めます。
「わたしも昨日の貴方みたいにクロード様と口づけを交わして、それ以上のこともしたかったわぁ。たとえば今夜あるであろう、ベッドでのアレコレ、とかね」
「………………」
「わたしが生徒会副会長や学年主席だったら、状況は違っていたのかしらね? 残念だわぁ」
これから貴方には、こんなことが待っているのよ――。苦手で嫌いな人とそういうことを行うのは、つらいでしょう?――。空気を読んでいれば、こうはならなかったのねぇ――。
マルグリットは敢えて遠回しに伝え、改めてたっぷりと後悔をさせます。そうして充分にダメージを与えられたと判断した彼女は、両親と共に揃って踵を返しました。
「では行こうか」
「ええ、あなた」
「ええ、お父様」
まずは降りてきた新郎に家族が挨拶を行い、そのあと新郎が新婦の手を取り、馬車に乗り込み出発する。そのような流れとなっているため、三人は嬉々として一歩踏み出――
「お姉様、お待ちください」
――そうとしていたら、不意にティナが呼び止めの声をあげました。
「あら? どうしたの? まさか、行きたくないと言い出すのかしら?」
「いえ、そのようなことを口にはしませんよ。私がこれから口にするのは、お姉様、そしてお父様お母様への、謝罪と告白です」
「…………しゃざい? 何に対する、謝罪をするつもり……?」
『どうにかして結婚をなかったことにしようとしている?』というものが過ぎりましたが、その前に本人が否定をしていましたし、『告白』という言葉もありました。ですのでマルグリットは眉を顰め、首を大きく傾げました。
するとティナは、「申し訳ございませんでした」と言いながら――
((な!? 笑顔!?))
――マルグリットが予想だにしていなかった表情を作り、同じく予想だにしていなかった言葉をさらに紡いだのでした。
「お姉様たちは、私がクロード様を苦手だと思っていましたよね? 実を言いますと、そちらは大間違い。私はずっとクロード様をお慕いしており、私にとってあの方は最愛の人なのですよ」
この国『マリアントラ』には正午に新郎が新婦の生家を訪れ、玄関の前でお別れをするという風習があります。そのため敷地に現れた、大きく豪華な馬車――ラファオール伯爵家の馬車を見やりながら、マルグリットは更に腹黒い笑みを浮かべました。
「あの馬車に乗って貴方はここを離れ、ラファオール伯爵邸へと向かうのよねぇ。素敵な方とずっと一緒に、大きなお屋敷で暮らせるだなんて。羨ましいわぁ」
「………………」
「実はわたしは在院中からずっとクロード様が気になっていて、好意を持ってもいたの。だからね、本当に羨ましいの。あぁ、羨ましい。できることなら、代わって欲しいわぁ」
「………………」
「でもお父様が決めたことだから、それはできないのよねぇ。ぁぁ、悲しいわぁ。シクシクシク」
マルグリットは取り出したハンカチで目元を拭い、ワザとらしく泣き真似をします。
そうしてたっぷりと嫌味を振り撒いている間に馬車は停止し、それに合わせてマルグリットはティナへと一歩前進。これから降りてくるクロードに聞こえてしまわないように距離を詰め、『トドメ』を行い始めます。
「わたしも昨日の貴方みたいにクロード様と口づけを交わして、それ以上のこともしたかったわぁ。たとえば今夜あるであろう、ベッドでのアレコレ、とかね」
「………………」
「わたしが生徒会副会長や学年主席だったら、状況は違っていたのかしらね? 残念だわぁ」
これから貴方には、こんなことが待っているのよ――。苦手で嫌いな人とそういうことを行うのは、つらいでしょう?――。空気を読んでいれば、こうはならなかったのねぇ――。
マルグリットは敢えて遠回しに伝え、改めてたっぷりと後悔をさせます。そうして充分にダメージを与えられたと判断した彼女は、両親と共に揃って踵を返しました。
「では行こうか」
「ええ、あなた」
「ええ、お父様」
まずは降りてきた新郎に家族が挨拶を行い、そのあと新郎が新婦の手を取り、馬車に乗り込み出発する。そのような流れとなっているため、三人は嬉々として一歩踏み出――
「お姉様、お待ちください」
――そうとしていたら、不意にティナが呼び止めの声をあげました。
「あら? どうしたの? まさか、行きたくないと言い出すのかしら?」
「いえ、そのようなことを口にはしませんよ。私がこれから口にするのは、お姉様、そしてお父様お母様への、謝罪と告白です」
「…………しゃざい? 何に対する、謝罪をするつもり……?」
『どうにかして結婚をなかったことにしようとしている?』というものが過ぎりましたが、その前に本人が否定をしていましたし、『告白』という言葉もありました。ですのでマルグリットは眉を顰め、首を大きく傾げました。
するとティナは、「申し訳ございませんでした」と言いながら――
((な!? 笑顔!?))
――マルグリットが予想だにしていなかった表情を作り、同じく予想だにしていなかった言葉をさらに紡いだのでした。
「お姉様たちは、私がクロード様を苦手だと思っていましたよね? 実を言いますと、そちらは大間違い。私はずっとクロード様をお慕いしており、私にとってあの方は最愛の人なのですよ」
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