最愛の人と弟だけが味方でした

柚木ゆず

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第8話 掌の上で転がされている、バカな奴ら ダニエル視点

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「……姉様、今までごめんなさい……。お父様とお母様に叱られてようやく気が付きました。家族の恋の邪魔をするなんて、最悪なことでした……。心から反省しています……」

「アリシア、今人気のプリンを買ってきたぞっ。よかったら食べてくれっ!」
「1人1個の限定品で、でもねっ。姉様にいっぱい味わってほしくって、3人で早朝から並んできたんだよ~っ。ねっ、食べて食べてっ」

「ねえアリシア、今の『ライテル山』は茜色に染まって綺麗なんですって。一緒にお出かけしましょ」

「姉様、面白いボードゲームが手に入ったの~っ。一緒にゲームをしてくれませんか~っ?」

「ぁ~、姉様は強いです~っ。何度やっても勝てないですよ~っ」


 あの日から今日でちょうど、1週間が経った。
 その間ずっと、サーシャ姉さん、父さん、母さんは、こんな感じ。まるで中身が入れ替わったかのように低姿勢で、四六時中アリシア姉さんのご機嫌を取りっぱなしだった。

「アリシア、いよいよ明日だな……。今日がこうして家族で過ごす、最後の日か」
「……わたくし達がもっと早く目が覚めていれば、もっと色々なことをできたのに……。本当に、ごめんなさいね……」
「あたしも、同じ気持ち……。でもお父様お母様、姉様は居なくなりはしないわ。ユリス義兄様のもとに行けば会える。罪はこれからも償えるし、あたし達のせいで失ってしまった時間を取り戻せるよ」

 そして、5人で行う最後の夕食の時も、こんな調子。
 何もかもが、今までとは真逆。姉さんには一番大きくて質のいいステーキを用意して、ニコニコ笑顔でべた褒め。
 ……吐き気がする……。

((こんなにもあっさりと態度を変えることができる。必死になってゴマを擦れば、姉さんを懐柔できると思う。どこまでも愚かな生き物だ))

 アリシア姉さんは3人とは正反対な人で、こんな人間達にこうされても嬉しくはない。
 だけどこれはコイツらにもっともダメージを与えられる方法だし、上手くいっていると思わせないと、ユリス様の作戦は成功しない。
 だから僕も、知らないフリをする。

「みんなが仲良くなって、本当によかった。アリシア姉さん、これで安心して旅立てるね・・・・・・・・・・・
「うん……っ。うん……っっ。ありがとうダニエル・・・・・・・・・

 僕らは僕達だけにしか正しい意味が分からない言葉を交わし、そうして異様に賑やかで愚かな夕食は終わり――。翌日アリシア姉さんは迎えに来られたユリス様と共にこの家を去って、第1段階はお仕舞い。
 それから10か月後に姉さんは結婚をしてアリシア・エザントなって、これが作戦第2段階の始まりの切っ掛け。その2週間後に予想通り父さんと母さんとサーシャ姉さんは動き出し、もう間もなく、全てを知ることになるのだった。



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