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第一章
第一節
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「ご主人、ご主人…」
従者のチェルシーからのモーニングコール。
鳴り響くスマートフォンのアラームを叩き伏せ、二度寝の体勢に入ろうとしていた大和は身を捩らせる。
「…………」
「お目覚め下さいましぃご主人」
「う~ん……」
言葉だけでなく揺さぶりも仕掛けるチェルシー。
その攻勢に大和は不快そうに眼を開けた。
「起きましたかぁ、おはようございますぅ」
「…………………」
ぺこりとお辞儀をしたチェルシー。
大和は何も言わずにじっと彼女の方を見つめる。
黒地のロングスカートにフリルたっぷりのエプロンドレスとロリータシューズ。そしてホワイトプリムという王道の様式へ所々に猫のような意匠を施したメイド服を身に纏う。
ショートボブの漆黒の髪と金色の目、柔和そうな表情から稀に覗く八重歯はまるで黒猫のようである。
【星】として、名が売れ始めた時にいつの間にかひょいとついて来ていた我が従者。
某ネコ型ロボットよりも圧倒的に役に立つ猫メイド。
そんな彼女の顔を少しの間見つめた後、大和は身体を縮こませる。
「悪いがあと数時間は寝かせてくれぃチェルシー。俺ァちょっと前まで仕事をしていたんだから…」
「それわかっておりますよぅ。序章で流れていましたしぃ、私も現場に居たんですからぁ」
「ならなんで?寝不足気味の俺を起こそうと?」
「睦美様の指示ですよぅ。起こす様に頼まれておりましてぇ」
「ちっ!奴かよ……」
露骨に舌打ちをする大和。
そもそも睡眠時間を削ってまで原子力空母からモノを取って来たのも彼女の指示である。
あまりにもブラックすぎるその仕打ちに軽い怒りが湧きあがる。
「まあそういうわけですよぅご主人。朝食の準備も出来ております。ささっ、取り敢えず起床の方を……」
「チェルシー。俺の方も一つ頼まれてくれるかい?」
「何で御座いましょう?」
「睦美の奴に伝言頼む。「糞喰らえこの×××」ってよ」
そう吐き捨て布団に包まった大和。
「あれまぁ」とチェルシーは肩をすくめた。
「あと数時間後に来てくれチェルシー。俺ァ二度寝に入るからよ」
『そんなこと許すわけないでしょうが…この駄人間』
急に電源が入る旧式のラジオ。
そこからそんな音声が大音量で大和の部屋内を響き渡った
「あっ睦美様、実はこんな状況でして…」
『全く…予想をしたらズバリその通りとは………どこまで単純なんですか貴方は…』
溜息を吐く睦美と呼ばれた音声。
大和は布団から手だけを出すと中指を立てる。
「どうしますぅ睦美様?ご主人は見ての通りですけれど…」
『もういいですチェルシー。使いたくは無かったですが、こちらもきちんと考えてますから……それではスイッチ・ON』
そういうとカチリとマイク越しでも聞こえるほどの音量で何かスイッチのようなモノを入れた睦美。
すると大和の布団からモーター音が鳴り響き始める。
「んあ?何だこの音?」
『最終手段ですよ…スイッチと同時に布団の中に仕込んでいた機器が作動し、最終的には……』
ドパァン!!
「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおぉッ!!?」
『散華するんです』
まるでシュレッダーにかけたように綿と生地を裁断しながら爆ぜる布団。
大和は思わず打ちあがった魚の様に跳ねる。
「手前ぇ!なんてことしやがるこの野郎ッ!!」
『コレで寝るもクソも無くなりましたね…さっさと来て下さい』
「野郎ぅ……」
『ふむ……なら次は敷布団を、機器の出力も火薬の量も先程とは比較にならない量にしておりますので、威力も楽しめますよ』
「とんでもねぇな、お前……」
『ほら急いで、着替えと朝食をする時間は一応情けであげますから…』
「ちっ、わーったよ」
『よろしい。では支度後に……チェルシーは申し訳ないですが、片づけの方をお願いします。
「かしこまりましたぁ」
「やれやれ…」
ラジオにお辞儀をするチェルシーを他所に大きな欠伸をしながら起き上がる大和。
綺麗に畳まれて置かれていたいつもの衣装。
ウサちゃんイラストのTシャツ。レッドラインいりの黒地ジャケットにジーンズ。
トレードマークにしている鱗紋様の鉢巻型バンダナに着替える。
「これで良し」
鏡でいつも通りだと確認する大和。私室隣の食卓へと向かう。
食卓にはすでに朝食の準備が出来ていた。
色とりどりの野菜サラダに座布団サイズのステーキ肉。シリアルにミックスジュース等色々なメニューが並んでいる。
「んじゃ、いただきます」
早速サラダから喰らいつく大和。醤油ベースのチェルシー特性ドレッシングが見事に野菜の良さを引き立てる。
続いてかぶりつくステーキも大和お好みの焼き加減である肉汁滴る程のレアである。
シリアルには牛乳でなく豆乳、さっぱりとした味わいとミックスジュースの濃厚の味わいは絶妙な調和を醸し出す。
「ご馳走さん」
「お粗末様でしたぁ」
美味しくあっという間に胃袋に納めた大和。手を合わせ終わると同じぐらいに掃除を終えたチェルシーがやって来た。
「チェルシーも終わったか?」
「はい、終わりましたよぉ」
「よし、なら行くか」
食器を片づけハイカットスニーカーを履き自宅アパートを出た大和。
そのまま外に向かうのではなく、足を向けたのは何とアパート共同トイレであった。
懐を弄りあるモノを取り出す大和。取り出したモノ、それは鍵である。
それをドアノブへと差し込む。
どう見ても鍵穴と合わないとわかる単純そうな作りをした鍵。
だが、吸い込まれる様に差し込めたのである。
ガチャリと何かが開いた音。大和は気にすることなく扉を開ける。
アパート共同トイレの扉の先、
そこは明らかにトイレではない。
そこはまるで一昔前の軍隊の指令室のような様相であった。
多数の書類ファイルが壁一面に納められ、計算用の機器は電子音を奏でながら休むことなく動き続けている。
部屋の中央には大きな机。上には盤上の様に世界地図と駒が置かれている。
席は10席。均等な感覚でその大きな机を囲うように並べられていた。
トイレから司令部のような部屋。
まるで瞬間移動か舞台の場面転換のような出来事。
だが大和達【星】にとってこれは日常である。
超人【星】は異空間を利用する。
通常一般人類が普段認識し生活する空間。そこには裏と呼ばれるものが存在する。
時間や距離に限りが無い全容を認識するには困難な無限。
その無限を彼ら【星】は異空間として認識。
そして己が拠点や移動の為の【領域】を創り上げて利用するのである。
先程の大和。あれも単純に大和とその仲間達が創り上げた【領域】へ持っている鍵で空間を繋げたに過ぎなかった。
「お邪魔」
領域内に入る二人。
司令部の10ある席のうちの一つ。
そこには一人の少女が座っていた。
かっちりとした軍服のような上着とスカート。膝までの丈のロングコンバットブーツ。
きっちりと揃えられた肩程の長さの空色の髪の上には紋章付きのベレー帽をかぶり、右目には片眼鏡をかけている。
鉄仮面のように表情の少なさと不愛想な眼光により氷のような印象を他人に与える。
彼女の名前は春日・睦美。大和の仲間の一人であり参謀役。
そして同じ【星】であり先程のラジオ音声その人である。
「オイっす!俺が来たぜ!」
「…ふむ、ようやく…ですか……」
大和の言葉で彼の顔を一瞥する睦美。だがすぐに手元の本へと視線を戻した。
「っておいおいオイオイ。呼び出しといてその態度は無いんじゃあねーの?」
「…………はぁ……」
大和に聞こえるほどに大きなため息を吐く睦美。
嫌そうな表情で大和の方を見る。
「全く…人を散々待たせておいてその態度。貴方のマイペースさを私も見習うべきかもしれませんね……」
「へへッ…そんな褒めるなよ」
「皮肉ですよこの馬鹿」
再び大きなため息を吐いた睦美。
大和はいつもの事だと気にすることなく対面の席に腰かけた。
「ところで…件のモノは?」
「ほれ、この通り」
そう言って大和は、懐から昨夜手に入れた漆黒の立方体を取り出す。
「ふむ…結構、馬鹿2号としてもきっちりとこなしてきたみたいですね」
「スゲーな、きちんと仕事をして罵倒されるたァ、此処は新手のSMクラブか何かかい?…ってか誰が2号だ!?」
「貴方ですよ馬鹿」
「ちなみに1号は誰だよ?」
「貴方の知っている奴ですよ…もうすぐ来るでしょう」
ガチャ!
「ほら来た」
そこで、ドアノブが捻られ一人の男が入ってきた。
「よお睦美…来てやったぞ」
黒地のワイシャツにベスト。ネクタイに革靴というフォーマルスタイル。
サイドを短く刈り込んだ頭に金属フレームの眼鏡をかけている。
そして何よりの特徴は手にしている刀。金細工で装飾の施された鞘に納められた日本刀を一振り携えている。
放つ気配は手にしたものと同じように一見は温和そうなものだが、一度抜き放たれれば全てを斬り伏せそうな威圧感を放っている。
彼の名は長船・門司。睦美と同じく大和の仲間であり、彼もまた【星】の一人である。
「オイっす門司!」
「お久しぶりですぅ門司様」
「おう兄弟。それにチェルシーも…ご無沙汰だな…」
笑みを浮かべる門司。大和と拳を合わせるいつもの挨拶交わした。
「ようやく来ましたね…馬鹿1号」
「良い態度じゃあねぇかよ鉄仮面女」
「失礼、間違えましたね馬鹿。一人でここまで来れて…エライエライ」
「態度の対象年齢を下げろと言っているんじゃあねーよ」
青筋を立てる門司。
だが、いつもの馴れ合いのようなモノである。特に怒りは立てない。
睦美の態度に門司は大和に肩を近づけ密談を少々交わす。
「なあ大和。お前も、そこの鉄面皮女に呼ばれた口か?」
「ああ、寝ていたら昭和のバラエティよろしく、布団を爆破解体させられてな」
「鬼かよアイツ…爆破は少し見てみたいが……」
「何をヒソヒソ話をしているんです馬鹿二人……時間は有限です。サッさと座りなさい」
「へいへい」
「わかったよ」
渋々と言った体で大和と門司はそれぞれ席に着いた。
「では、現状を過去にさかのぼりつつ説明を少々……我々の【星団】。名を『創世神』はある目的を完遂する為、世界各地、領域各地に赴き、そこにある特異物【星具】の蒐集を行っております」
「おい、そこからの説明はいるか?」
「…ふむ、馬鹿が徒党を組んで目の前に座っておりますからね、必要だと思いました」
【星団】とは【星】の集団である。
手前勝手で我の強い【星】。だが彼らも常に単独でやりたいようにやっているわけではない。
各自の目的のためには徒党を組む場合もある。
その組んだ【星】の集団。それを【星団】と呼ぶのである。
次に【星具】。
こちらは【星】の物品版と知るのが一番通りが良い。
【星】と同じく人知を超えた特異性を有する物である。
「兎にも角にも…そんな我々の活動ですが、昨夜大和にはあるモノを取るために某国原子力空母に行ってもらいました……大和」
「コイツだろ、ホレ」
漆黒の立方体を机の上に置いた大和。
「コイツが例の…」
「ええ、【星具】『無にして全』そのうちの一部です」
「【星具】の中でもトップクラスの逸品。『現象を歪める』という能力を有し、規模は最特上級。同一のものが全部で7つあり全てを集めれば事実上あらゆる事が可能な代物か…」
「別称『王の器』。コレを含め【星具】を多く蒐集しカミと一戦交え、勝利し…理想郷を生み出すのが俺達の目的だからな…」
「荒唐無稽な内容ですが、事実それが我が【星団】の目標。その鍵となりうる7つの内の一つを手に入れたわけです」
事実を述べた睦美。
それに同意し肯定する様に大和と門司は笑みを浮かべた。
とその時、部屋の扉がひとりでに動き始める。
「何だ?」
「どうやら、我々の【領域】に入ってくる人がいらっしゃったみたいですねぇ」
「…ッツ!?」
領域への第三者の侵入。
それはこちらの領域の座標を知った者しか出来ない。
こちらが座標を教えていない場合それは敵対者という事であり、大和は知っている限り直近で教えたことは無かった。
得体の知れない者の領域の侵入に緊張感が高まる大和と門司。
だが、睦美のみは冷静な態度で呟いた。
「ふむ…もう来たんですね……大和に門司…出迎える準備を…」
「えっと…睦美。もしかしてお前の客か?」
「ええ、先日向こう側から打診を取られまして許可を取らせていただきました。丁度貴方達二人も都合よく集まる日でしたので」
「それを先に言ってくれよ!」
「言ったら言ったで面倒になると思ってつい…貴方がた二人は聞こうとも思わなかったので…」
「信頼感ゼロかよ俺達は!」
大和のツッコみに睦美は「テヘペロです」と無表情で頭を小突く。
「ちなみにだが鉄面皮。一体何処の誰が来るんだ?」
「来るのはとある【星団】の重鎮。その【星団】とは桜の花に勾玉と剣のエンブレム。『フツノミタマ』です」
「『フツノミタマ』って日本を拠点に日本出身の【星】を囲っている超大型【星団】じゃあねーか!日本出身なら取り敢えずそこに所属していりゃあ身の安全は確保されるっていう」
「説明どうも」
「まさか…そこから来る奴っていうのは…」
「ふむ…それは勿論。馬鹿2人とはいえ我が【星団】のトップが望むのですから当然…」
バァン!!
「よう来たぞ!愛しき我が国から生まれ出でた愛しい悪童ども!」
「『フツノミタマ』その永世頭首であります。ヒミコさんです」
勢いよく開かれたドア。そこから一人の小柄な少女が入って来た
従者のチェルシーからのモーニングコール。
鳴り響くスマートフォンのアラームを叩き伏せ、二度寝の体勢に入ろうとしていた大和は身を捩らせる。
「…………」
「お目覚め下さいましぃご主人」
「う~ん……」
言葉だけでなく揺さぶりも仕掛けるチェルシー。
その攻勢に大和は不快そうに眼を開けた。
「起きましたかぁ、おはようございますぅ」
「…………………」
ぺこりとお辞儀をしたチェルシー。
大和は何も言わずにじっと彼女の方を見つめる。
黒地のロングスカートにフリルたっぷりのエプロンドレスとロリータシューズ。そしてホワイトプリムという王道の様式へ所々に猫のような意匠を施したメイド服を身に纏う。
ショートボブの漆黒の髪と金色の目、柔和そうな表情から稀に覗く八重歯はまるで黒猫のようである。
【星】として、名が売れ始めた時にいつの間にかひょいとついて来ていた我が従者。
某ネコ型ロボットよりも圧倒的に役に立つ猫メイド。
そんな彼女の顔を少しの間見つめた後、大和は身体を縮こませる。
「悪いがあと数時間は寝かせてくれぃチェルシー。俺ァちょっと前まで仕事をしていたんだから…」
「それわかっておりますよぅ。序章で流れていましたしぃ、私も現場に居たんですからぁ」
「ならなんで?寝不足気味の俺を起こそうと?」
「睦美様の指示ですよぅ。起こす様に頼まれておりましてぇ」
「ちっ!奴かよ……」
露骨に舌打ちをする大和。
そもそも睡眠時間を削ってまで原子力空母からモノを取って来たのも彼女の指示である。
あまりにもブラックすぎるその仕打ちに軽い怒りが湧きあがる。
「まあそういうわけですよぅご主人。朝食の準備も出来ております。ささっ、取り敢えず起床の方を……」
「チェルシー。俺の方も一つ頼まれてくれるかい?」
「何で御座いましょう?」
「睦美の奴に伝言頼む。「糞喰らえこの×××」ってよ」
そう吐き捨て布団に包まった大和。
「あれまぁ」とチェルシーは肩をすくめた。
「あと数時間後に来てくれチェルシー。俺ァ二度寝に入るからよ」
『そんなこと許すわけないでしょうが…この駄人間』
急に電源が入る旧式のラジオ。
そこからそんな音声が大音量で大和の部屋内を響き渡った
「あっ睦美様、実はこんな状況でして…」
『全く…予想をしたらズバリその通りとは………どこまで単純なんですか貴方は…』
溜息を吐く睦美と呼ばれた音声。
大和は布団から手だけを出すと中指を立てる。
「どうしますぅ睦美様?ご主人は見ての通りですけれど…」
『もういいですチェルシー。使いたくは無かったですが、こちらもきちんと考えてますから……それではスイッチ・ON』
そういうとカチリとマイク越しでも聞こえるほどの音量で何かスイッチのようなモノを入れた睦美。
すると大和の布団からモーター音が鳴り響き始める。
「んあ?何だこの音?」
『最終手段ですよ…スイッチと同時に布団の中に仕込んでいた機器が作動し、最終的には……』
ドパァン!!
「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおぉッ!!?」
『散華するんです』
まるでシュレッダーにかけたように綿と生地を裁断しながら爆ぜる布団。
大和は思わず打ちあがった魚の様に跳ねる。
「手前ぇ!なんてことしやがるこの野郎ッ!!」
『コレで寝るもクソも無くなりましたね…さっさと来て下さい』
「野郎ぅ……」
『ふむ……なら次は敷布団を、機器の出力も火薬の量も先程とは比較にならない量にしておりますので、威力も楽しめますよ』
「とんでもねぇな、お前……」
『ほら急いで、着替えと朝食をする時間は一応情けであげますから…』
「ちっ、わーったよ」
『よろしい。では支度後に……チェルシーは申し訳ないですが、片づけの方をお願いします。
「かしこまりましたぁ」
「やれやれ…」
ラジオにお辞儀をするチェルシーを他所に大きな欠伸をしながら起き上がる大和。
綺麗に畳まれて置かれていたいつもの衣装。
ウサちゃんイラストのTシャツ。レッドラインいりの黒地ジャケットにジーンズ。
トレードマークにしている鱗紋様の鉢巻型バンダナに着替える。
「これで良し」
鏡でいつも通りだと確認する大和。私室隣の食卓へと向かう。
食卓にはすでに朝食の準備が出来ていた。
色とりどりの野菜サラダに座布団サイズのステーキ肉。シリアルにミックスジュース等色々なメニューが並んでいる。
「んじゃ、いただきます」
早速サラダから喰らいつく大和。醤油ベースのチェルシー特性ドレッシングが見事に野菜の良さを引き立てる。
続いてかぶりつくステーキも大和お好みの焼き加減である肉汁滴る程のレアである。
シリアルには牛乳でなく豆乳、さっぱりとした味わいとミックスジュースの濃厚の味わいは絶妙な調和を醸し出す。
「ご馳走さん」
「お粗末様でしたぁ」
美味しくあっという間に胃袋に納めた大和。手を合わせ終わると同じぐらいに掃除を終えたチェルシーがやって来た。
「チェルシーも終わったか?」
「はい、終わりましたよぉ」
「よし、なら行くか」
食器を片づけハイカットスニーカーを履き自宅アパートを出た大和。
そのまま外に向かうのではなく、足を向けたのは何とアパート共同トイレであった。
懐を弄りあるモノを取り出す大和。取り出したモノ、それは鍵である。
それをドアノブへと差し込む。
どう見ても鍵穴と合わないとわかる単純そうな作りをした鍵。
だが、吸い込まれる様に差し込めたのである。
ガチャリと何かが開いた音。大和は気にすることなく扉を開ける。
アパート共同トイレの扉の先、
そこは明らかにトイレではない。
そこはまるで一昔前の軍隊の指令室のような様相であった。
多数の書類ファイルが壁一面に納められ、計算用の機器は電子音を奏でながら休むことなく動き続けている。
部屋の中央には大きな机。上には盤上の様に世界地図と駒が置かれている。
席は10席。均等な感覚でその大きな机を囲うように並べられていた。
トイレから司令部のような部屋。
まるで瞬間移動か舞台の場面転換のような出来事。
だが大和達【星】にとってこれは日常である。
超人【星】は異空間を利用する。
通常一般人類が普段認識し生活する空間。そこには裏と呼ばれるものが存在する。
時間や距離に限りが無い全容を認識するには困難な無限。
その無限を彼ら【星】は異空間として認識。
そして己が拠点や移動の為の【領域】を創り上げて利用するのである。
先程の大和。あれも単純に大和とその仲間達が創り上げた【領域】へ持っている鍵で空間を繋げたに過ぎなかった。
「お邪魔」
領域内に入る二人。
司令部の10ある席のうちの一つ。
そこには一人の少女が座っていた。
かっちりとした軍服のような上着とスカート。膝までの丈のロングコンバットブーツ。
きっちりと揃えられた肩程の長さの空色の髪の上には紋章付きのベレー帽をかぶり、右目には片眼鏡をかけている。
鉄仮面のように表情の少なさと不愛想な眼光により氷のような印象を他人に与える。
彼女の名前は春日・睦美。大和の仲間の一人であり参謀役。
そして同じ【星】であり先程のラジオ音声その人である。
「オイっす!俺が来たぜ!」
「…ふむ、ようやく…ですか……」
大和の言葉で彼の顔を一瞥する睦美。だがすぐに手元の本へと視線を戻した。
「っておいおいオイオイ。呼び出しといてその態度は無いんじゃあねーの?」
「…………はぁ……」
大和に聞こえるほどに大きなため息を吐く睦美。
嫌そうな表情で大和の方を見る。
「全く…人を散々待たせておいてその態度。貴方のマイペースさを私も見習うべきかもしれませんね……」
「へへッ…そんな褒めるなよ」
「皮肉ですよこの馬鹿」
再び大きなため息を吐いた睦美。
大和はいつもの事だと気にすることなく対面の席に腰かけた。
「ところで…件のモノは?」
「ほれ、この通り」
そう言って大和は、懐から昨夜手に入れた漆黒の立方体を取り出す。
「ふむ…結構、馬鹿2号としてもきっちりとこなしてきたみたいですね」
「スゲーな、きちんと仕事をして罵倒されるたァ、此処は新手のSMクラブか何かかい?…ってか誰が2号だ!?」
「貴方ですよ馬鹿」
「ちなみに1号は誰だよ?」
「貴方の知っている奴ですよ…もうすぐ来るでしょう」
ガチャ!
「ほら来た」
そこで、ドアノブが捻られ一人の男が入ってきた。
「よお睦美…来てやったぞ」
黒地のワイシャツにベスト。ネクタイに革靴というフォーマルスタイル。
サイドを短く刈り込んだ頭に金属フレームの眼鏡をかけている。
そして何よりの特徴は手にしている刀。金細工で装飾の施された鞘に納められた日本刀を一振り携えている。
放つ気配は手にしたものと同じように一見は温和そうなものだが、一度抜き放たれれば全てを斬り伏せそうな威圧感を放っている。
彼の名は長船・門司。睦美と同じく大和の仲間であり、彼もまた【星】の一人である。
「オイっす門司!」
「お久しぶりですぅ門司様」
「おう兄弟。それにチェルシーも…ご無沙汰だな…」
笑みを浮かべる門司。大和と拳を合わせるいつもの挨拶交わした。
「ようやく来ましたね…馬鹿1号」
「良い態度じゃあねぇかよ鉄仮面女」
「失礼、間違えましたね馬鹿。一人でここまで来れて…エライエライ」
「態度の対象年齢を下げろと言っているんじゃあねーよ」
青筋を立てる門司。
だが、いつもの馴れ合いのようなモノである。特に怒りは立てない。
睦美の態度に門司は大和に肩を近づけ密談を少々交わす。
「なあ大和。お前も、そこの鉄面皮女に呼ばれた口か?」
「ああ、寝ていたら昭和のバラエティよろしく、布団を爆破解体させられてな」
「鬼かよアイツ…爆破は少し見てみたいが……」
「何をヒソヒソ話をしているんです馬鹿二人……時間は有限です。サッさと座りなさい」
「へいへい」
「わかったよ」
渋々と言った体で大和と門司はそれぞれ席に着いた。
「では、現状を過去にさかのぼりつつ説明を少々……我々の【星団】。名を『創世神』はある目的を完遂する為、世界各地、領域各地に赴き、そこにある特異物【星具】の蒐集を行っております」
「おい、そこからの説明はいるか?」
「…ふむ、馬鹿が徒党を組んで目の前に座っておりますからね、必要だと思いました」
【星団】とは【星】の集団である。
手前勝手で我の強い【星】。だが彼らも常に単独でやりたいようにやっているわけではない。
各自の目的のためには徒党を組む場合もある。
その組んだ【星】の集団。それを【星団】と呼ぶのである。
次に【星具】。
こちらは【星】の物品版と知るのが一番通りが良い。
【星】と同じく人知を超えた特異性を有する物である。
「兎にも角にも…そんな我々の活動ですが、昨夜大和にはあるモノを取るために某国原子力空母に行ってもらいました……大和」
「コイツだろ、ホレ」
漆黒の立方体を机の上に置いた大和。
「コイツが例の…」
「ええ、【星具】『無にして全』そのうちの一部です」
「【星具】の中でもトップクラスの逸品。『現象を歪める』という能力を有し、規模は最特上級。同一のものが全部で7つあり全てを集めれば事実上あらゆる事が可能な代物か…」
「別称『王の器』。コレを含め【星具】を多く蒐集しカミと一戦交え、勝利し…理想郷を生み出すのが俺達の目的だからな…」
「荒唐無稽な内容ですが、事実それが我が【星団】の目標。その鍵となりうる7つの内の一つを手に入れたわけです」
事実を述べた睦美。
それに同意し肯定する様に大和と門司は笑みを浮かべた。
とその時、部屋の扉がひとりでに動き始める。
「何だ?」
「どうやら、我々の【領域】に入ってくる人がいらっしゃったみたいですねぇ」
「…ッツ!?」
領域への第三者の侵入。
それはこちらの領域の座標を知った者しか出来ない。
こちらが座標を教えていない場合それは敵対者という事であり、大和は知っている限り直近で教えたことは無かった。
得体の知れない者の領域の侵入に緊張感が高まる大和と門司。
だが、睦美のみは冷静な態度で呟いた。
「ふむ…もう来たんですね……大和に門司…出迎える準備を…」
「えっと…睦美。もしかしてお前の客か?」
「ええ、先日向こう側から打診を取られまして許可を取らせていただきました。丁度貴方達二人も都合よく集まる日でしたので」
「それを先に言ってくれよ!」
「言ったら言ったで面倒になると思ってつい…貴方がた二人は聞こうとも思わなかったので…」
「信頼感ゼロかよ俺達は!」
大和のツッコみに睦美は「テヘペロです」と無表情で頭を小突く。
「ちなみにだが鉄面皮。一体何処の誰が来るんだ?」
「来るのはとある【星団】の重鎮。その【星団】とは桜の花に勾玉と剣のエンブレム。『フツノミタマ』です」
「『フツノミタマ』って日本を拠点に日本出身の【星】を囲っている超大型【星団】じゃあねーか!日本出身なら取り敢えずそこに所属していりゃあ身の安全は確保されるっていう」
「説明どうも」
「まさか…そこから来る奴っていうのは…」
「ふむ…それは勿論。馬鹿2人とはいえ我が【星団】のトップが望むのですから当然…」
バァン!!
「よう来たぞ!愛しき我が国から生まれ出でた愛しい悪童ども!」
「『フツノミタマ』その永世頭首であります。ヒミコさんです」
勢いよく開かれたドア。そこから一人の小柄な少女が入って来た
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その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
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1話1話は短いです。ぜひどうぞ!
このお話の中には生活用品で魔物と戦うシーンが含まれますが、その行為を推奨するものではありません。良い子も悪い子も真似しないようお願い致します。
主人公ヒロキ……17才。
現実世界でつまづき、ある理由によって異世界に呼ばれたヒロキは、その世界で優しさと強さを手に入れる——。
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甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
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【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
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