プライベート・スペクタル

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第一章

第二節

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着物の十二単とセーラー服を混ぜたような独特の衣装。
腰よりも長い漆黒の髪を花飾りの様に結い上げ、目元には花の紋様のペイントを施している。
見る限りでは美少女。だが纏っている雰囲気は何千年もその場に佇む巨木のような底知れなさを感じる。
少女の名前はヒミコ。【星団】『フツノミタマ』の創設者であり、創設時から今日まで頭首をしている【星】である。
「お待ちしておりましたヒミコ様。歓迎いたします」
「ああ歓迎しな盛大にね!……ん?何だいその間抜けな表情は?そんな顔で私の前に臨むとは…喰われても知らんぞ?」
大和と門司の顔を覗き込んだ後、そう言って笑みを浮かべるヒミコ。
その笑みは見た目相応の少女の無垢で可愛らしい笑みではなく、年老いた辣腕の女官のような笑みである。
「すまない…少々面喰っていた。まさかアンタが直々に来るとは思わなくてな…」
「ってか…そもそも来ること自体知らねぇ状況だったからな」
「何だい睦美、言っていなかったのかいこいつ等に?…まあ言ったら言ったで大変なことになるのは目に見えてるからね……アンタも大変だね」
「ありがとうございます」
そう言って、連れてきたお付きの2名を扉の側に控えさせ部屋の中に進むヒミコ。
そのまま大和達とは少し離れた席へと腰掛ける。
「さて…【星】として、そして【星団】のトップとして礼儀で一応名乗っておくよ。私の名はヒミコ。【星団】『フツノミタマ』。その頭首をやらせてもらっている女さ…」
「そして『国狂こくきょう』と呼ばれる【銘付きネームド】の一人。日本という国の為なら何でもする愛国狂。日本出身でアンタを知らない【星】なんてよっぽどの世間知らずか馬鹿だけだぜ…」

銘付きネームド】。それは【星】の格付けの一つである。
【星】はある一定の実力まで達すると称号のようなモノが付けられることがある。その称号を付けられた【星】を【銘付き】と呼ぶのである。
【星】にとってはある種の箔でありステータス。
【銘付き】というだけで仲間からは賞賛を敵からは畏怖を持たれるようになるのである。

「はっ、同じ【銘付き】であるアンタ等に言われてもただ鬱陶しいだけだよ…なあ『龍王りゅうおう』呉成・大和。『鬼神きしん』長船・門司」
「「………………………」」
何も答えない大和と門司。そんな二人に満足したヒミコ「まあいいさ」と仕切り直す。
「このまま無駄話はせずに本題に入らせてもらおうかね…今回私がアンタ等のような悪童に会いに来たのは他でもない。あるお願いを2つほどしたくってね…」
「お願い?」
「なぁに簡単なモノさ…一つはある物をある場所から盗って来てもらいたい。ただそれだけだよ」
「盗って来て欲しいって…俺達に頼むってことは…そいつはもしかして…」
「察しが良いね…そう、アンタ等が蒐集している物品【星具】だよ…」
「「「………ッ…」」」
その言葉で空気が一変する大和達。ヒミコは構わずに続ける。
「とある連中がある【星具】を保有。それを悪用する情報が入ってね…防ぐためにそいつ等から奪い取って来て欲しい…頼めるかい?」
「ああ良いぜ、やってやるよ」
「即決かい」
「【星具】と聞いた以上、やらないわけなーからな…分かっているくせに意地が悪いぜ」
「ヒヒ…ありがたいね」
「だが一つだけ聞かせてくれや……アンタ一体何を企んでやがる?」
「何のことだい?」
「何で俺達のような外部に頼むんだ?アンタには率いている【星団】がある。部下であるそいつらに任せず、外部の連中である俺達に直接頼み込むなんて、こっちとしちゃあ何か企んでいるんじゃあないか?…と勘繰らせずにはいられないだろう?」
「成程、気持ちはわからんでもないね」
「だろ?」
「だけどそこまで考えれるならもう少し考えな悪童共。私はヒミコ。『国狂』と呼ばれている女だよ。そんな私が、そんな玩具おもちゃに興味があると思うかい?」
「玩具ときたか…でも【星具】の能力は使いようによっては有用だぜ、てっきり愛すべき日本の発展の為に欲しがると思ったんだが…」
「いらないさ、そんな繁栄なんて何になるんだい。手前等の力で魂削って積み上げていくのが繁栄ってもんさ」
「手厳しいねぇ」
呟く大和。
まるで思春期の子供を持つ母親のようなヒミコの言葉。幼い見た目でそう言っている部分は滑稽なように感じるが大和達は一切茶化したりはしない。
なぜなら幼い見た目をしている彼女だが、年齢は【星】達の中でも長寿の部類。
日本史初期に登場する某女王と同一人物だからである。
そんな彼女にとって、日本国民の全てが我が子のようなモノなのだろう。
「それに【星具】を集めるという事は目の前の化物を少なくとも敵に回さないといけなくなる。いらないモノで私の可愛い【】達を危険に合わせるなんてゴメンだからね」
「それでその目の前の化物の俺達に情報だけを渡しに来たという訳か…」
「ああ、モノは必要ない…だが、悪用は止めて欲しい。だからアンタ等を指名したわけだよ。理由としてはコレで不満かい?」
「いや…満足だ。引き受けるぜ婆さん」
「決まりだね」
ある程度の筋が通っており納得する大和達。
ヒミコもその答えに笑みを浮かべる。
「さて今のが一つ目。続く二つ目も聞いてもらおうかね」
「何だよ?」
「二つ目は簡単さ…ちょっと迷い子を拾ってね、アンタ等に面倒を見て欲しいんだよ」
「こっちに来な」というヒミコの言葉で扉に控えていた者の一人がやって来る。
そして羽織っていた外套を脱ぎ捨てる。
出て来たのは一人の少女であった。
「この子の名はエイプリル。最近ウチが拾った娘さ」
紹介するヒミコよりも更に幼い見た目。
十字の意匠が部分部分に施された学生服のような衣装。
肩程の長さの燃えるような赤髪に十字の髪飾り。首元にも巨大な十字架を下げている。
手にはゲームの魔法使いのような金属製の杖を手にしている。
どこか小動物のような可愛さ、だがその裏に獰猛な肉食獣のような気配が隠し切れず存在する一筋縄ではいかないような雰囲気を放っている少女であった。
「どうも…エイプリルで御座います。よろしくお願います」
「おぅ、よろしくなエイプリル」
「今聞くのは名前だけにしておいてくれよ…なんせその娘。数週間以前の記憶が無いんだからね」
「数週間以前の記憶が?」
「うぃ…無いですね……自己を認識できたのが数週間前、それ以前の記憶はきれいサッパリ抜け落ちております」
「…それは大変ですね……名前の方もですか?」
「そう名前すらもさ、今の名前も見つけた時に初めて喋った単語だよ、名無しの花子ちゃんじゃあ可哀そうだからね…」
「うぃ…」
ヒミコの補助を得てたどたどしいながらも説明したエイプリル。

記憶を失う。それは【星】の中では特別珍しい事ではない。
【星】は人類とは完全に違う存在ではない。稀に適正ある人間が【星】に覚醒する場合も存在する。
だが、肉体構造すら変化する覚醒はかなり強力な出来事であり、本人の心身へ強い衝撃を伴う。
その衝撃によって記憶等の何らかが欠落する事があるのだ。
これは死を経験しての覚醒やその他の匹敵する出来事と同時に起こることで起こりやすいとも言われている。

つまるところ、自己の全ての記憶を失っているこの娘は元人間で覚醒の際に相当な出来事があったのではないかと大和は推測した。
「まあ自己の記憶すら失ってしまったこの娘だけれど、潜在的なモノは結構有るだろうと私は睨んでいる。人員がこの場に居る全員という極少【星団】のアンタ等としては、戦力の増強という意味でも悪くないと思うがね…どうだい?」
「らしいぜ皆の衆、どうする?俺ァこの娘の加入は賛成だぜ」
「右に同じだ。出自の得体は知れないが、それで拒んでいては誰も信用できない事と同じだからな……それにぶっちゃけると戦力は未熟でも欲しいぐらいだからな」
「…ふむ、私としては少しだけ引っかかりはしますけれど…トップである御二人が決めた事ですからね…従いますよ」
「こちらも決まりだね」
「ああ、そういうわけだエイプリル。よろしくな」
「うぃ…よろしくお願い致します」
笑顔で手を差し伸べる大和。
エイプリルは恥ずかしそうに俯きながらも少し嬉しそうな表情でその手を取った。
「さて、頼みは聞いてもらえることになったし…そろそろお暇させてもらおうかね…」
「ちょっと待て婆さん。【星具】の件、あんな大雑把な情報だけでやれと?もっと詳細な情報を寄こせ情報を…」
「それは現在鋭意収集中さ…こちらはまずはアンタ等の協力を取り付けたかったからね、情報はまだこちらも用意できちゃあいないのさ……裏がきちんと取れた情報はすぐにそこの参謀宛てに送らせてもらうよ」
「…ふむ、それでいいですよ」
深く頷く睦美。
「それじゃあ、日本が誇る悪童共。さっきの件、任せたよ」
「ああ、任せな婆さん!」
そう言い残して去ろうとするヒミコ。
大和は笑みを浮かべサムズアップで応じた。
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