プライベート・スペクタル

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第二章

第三節

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「あとから怒られそうだな、俺…」
「いえいえご主人、今からですよぉ~」
完全に破壊され【領域】との接続を切ることが出来た扉を見ながら呟いた大和に通信機を手渡すチェルシー。
渡された通信機を身に付けると…。
『師匠ッ!師匠ッ!何故ですか!!?』
凄い剣幕のエイプリルからの通信が来ていた。
「ゴメンなエイプリル。まだまだ未熟なお前を【天使】共の前に出すのは俺自身が許せなくってな……弟子可愛さでこの判断を取っちまった」
『………ですがッ……』
「歯痒い思いをさせているのはよくわかる。でもまだ待機だ…とにかく今は勉強だと思って俺達の戦いを観ておいてくれ」
『……………………』
「心配すんな…「役立たないといけない」という強迫観念なんか持たなくても…お前に頼む場面なんざ後々数え切れない程出て来る。そん時に尽くせるように、今は力を溜めておいてくれ……」
『……うぃ………』
「良い返事だ、んじゃ睦美に代わってくれ」
『……師匠、負けないで下さいよッ』
「おう、そいつは大丈夫だ」
大和の返事に少し安心したのか、納得したエイプリル。少しのノイズと共に通信相手は睦美へと切り替わった。
『……師弟の話し合いは済んだようですね…』
「エイプリルの様子は?」
『今しがた何かを決めたような表情でモニター前に座り、ハッキングしたカメラから送られてくる映像を食い入るようにじっと見つめておりますよ』
「へへっ…そいつは無様を晒せねぇな……それより…」
『ええ、先程のチェルシーさんの乱入でこちらの【領域】の座標を割り出された可能性がありますからね……かく乱をさせつつ、座標位置を変えておきます』
「わかっているならいいや」
『そちらも確実に倒しておいて下さい。追って来られることの無い様に…』
「ああ、任せとけ」
そこで通信は切れる。通信機から手を離した大和はスーツの【天使】に向き直る。
「待たせたな」
「いや、その言葉は必要ない。こちらも準備を今終えたところだからな…」
言い何やら機器を取り出す【天使】。掌サイズで中央には赤いボタン、アンテナ付きという爆弾の遠隔起爆スイッチのような物体。
それを【天使】は軽く押す。
すると先程まで騒いでいた周囲の人々が一瞬にして消滅した。

「成程な…周りの一般人を別の場所に避難するための準備ってことね…」
「そうだ、彼らは世界の営みには必要な要素の一つ。お前達のような不要な存在とはワケが違うからな…」
「言うねぇ……」
笑みを浮かべる大和。
(ご主人ご主人…彼ら2名、どちらがどう担当しますぅ?)
(でかい方をA、小さい方をBと呼ぶことにするぜ…お前B、俺Aな)
(はぁい、でしたらそのように……)
小声でそうチェルシーと交わす。
「そんじゃ、呉成・大和。推して参……」
名乗る一瞬、即座に大和に接近し蹴りを撃ち込むスーツの【天使】A。ヤクザキックの要領で放たれたソレは家屋数件ぶち抜く形で大和を吹き飛ばした。
「わざわざ名乗りに付き合うと思うか?…一対一の際何故か名乗ろうとするその瞬間を狙う。対【星】戦の定石だ……」
「…………」
「そして従者メイド、次はお前の番だ……」
「チェルシーと申しますぅ。不躾な方ゆえ今名乗らせていただきますねぇ……それよりも仮称A様。御足の方は大丈夫でございましょうかぁ?」
「なに?」
言われて蹴った方の足を見るA。
そこでようやく自らの足がズタズタになっていることに気づく。
足首と膝がそれぞれ関節部とは逆に折れ曲がり、肉から突き出している。また肉も挽肉の様に潰れていた。
「ふむ……」
おそらく蹴りを撃ち込んだ瞬間にカウンターとして破壊されたのだと冷静に分析するA。
継戦能力の為に鈍化している【天使】の痛覚故に発覚が遅れたのだろう。
「おいおいオイオイ…いきなり蹴っ飛ばすたァ…おたく等やっぱり無粋だねぇ……」
「更に打撃の瞬間、自ら後ろに跳びダメージも最小限に抑えていたか……小賢しい」
「おたく等にだけは、言われたくねぇ…やッ!」
言葉と同時に先程のAよりも速い速度でAに近づき顔面を殴りつける大和。
Aは地面にヒビを入れる様にバウンドしながら通り沿いに吹っ飛んだ。
「そいつは任せたぞチェルシー。俺ァ、アレとちょいと向こうでってくる!!」
「いってらっしゃいませぇ」
Aを追いかける大和にお辞儀をしたチェルシー。
終えるとBに向き直る。
「ではではぁ…こちらもそろそろ始めましょうか」
「そうですね」
無表情でそう言いボクシングスタイルの構えをとるB。
即座にチェルシーへと肉薄するとジャブを撃つ。
軽い衝撃波が発生する速度のジャブ。それを難なく躱すチェルシー。続く拳も涼しい表情で躱す。
「この拳を躱しますか……でしたらこちらも使わずにはいられないようですね…貴方達でいうところの【演目】。我々の『天使・戦技エンジェリック・アーツ』を…」

【演目】『天使・戦技 天使ストレート』

とある構えを取った瞬間に放たれたBの【演目】否『天使・戦技』。
あまりの速度により空気が爆ぜ、拳が消えたと錯覚する程の突き。
ソレを直感によりチェルシーは何とか躱す。
代わりに受けた背後のコンクリート壁は人間大程の大穴が穿たれる。
「中々の威力ですねぇ」
「まだまだこれからですよ」
間髪入れずに放たれ続けるジャブ。躱し続けるチェルシー。
スイッチを切り替える様に再びBは構えを作る。

【演目】『天使・戦技 天使ストレート』

再び放たれた戦車の砲撃並みの一撃。今度は躱すことが出来なかったチェルシーは腕を十字にして受ける。
とんでもない音と共に吹き飛ばされるチェルシー。そのまま壁に叩きつけられた。
「申し訳ありませんが、女性でも【星】である以上一切容赦は致しませんので…」
追撃する為にチェルシーへと近づいたB。とどめを見舞うために三度目の構えを作った。
「終わりです」
放たれようとする三度目のストレート。
だがその拳はチェルシーの身体へと触れる直前急に動きを止めた。
「何です?」
手心を加えるなんて考えは毛頭無い。
それなのに止まった拳に疑問を抱くB。自らの腕に目をやる。
そこでBは自らの腕が無数の棘の様なモノに刺し貫かれていることを理解した。
「コレは…」
ボールペン程の太さで拳から肩にかけて刺さっている棘。
どころではない…。
【天使】の鈍化した痛覚の所為でわからなかったが、全身をよく見ると首筋、左肩、脇腹、踏み込んだ右足に至るまで全身が貫かれていた。
「一体どういう…?」
発生元を探る為、棘を目でなぞるB。
なぞった先、そこにあったのは無数の箱であった。
指輪箱を思われる大きさと開口部。瓦礫に混じる様に置かれたそこから金属のような光沢を放つ棘が伸びBの肉体を貫いていた。
「……これは貴方の仕業ですね…」
どこからどう見てもあり得ない異様な光景に目の前のチェルシーに問いかけるB。
目の前の従者は柔和な笑みを浮かべながら「はぁい」と首肯した。

【演目】『どこにもいない/いるシュレティンガー 一幕 パンドラ 悲劇』

「こちらはビックリ箱。中から色々なモノが飛び出す魔訶不思議な箱。私は貴方の拳を避ける際や受ける際、これらをスカートからばら撒かせてもらいましたぁ…ほぉらこのように…」
スカートをひらりと翻すチェルシー。するとその裾から同じような箱がポロポロと落ちて来た。
「お分かりですかぁ?」
「……こんなわかりやすい物を戦闘中に見落とすなんて……ありえない」
「視線の誘導は手品の基本…で御座いますよぅ」
言葉に応じることなく動こうと試みるB。全身をがっちりと縫い付けられている状況で無理やりにでも動こうとする。
それにより傷口は広がり、血が噴き出し、肉が引き千切られるが、Bは気にするどころか一切の声を上げることなくBは抜け出る。
「己が肉体すら鑑みないその行為…本当に自己というモノが欠片も存在しないのですねぇ……」
無味無臭でありながら狂気的なその行為に若干引いた様な表情のチェルシー。何も答えないままBは千切れそうな四肢と腹部を抑える。
すると傷口から煙が発し始める。
血が止まり、逆再生の様に肉が接合し始め、傷口が塞がる。
そしてあっという間に肉体は戦闘開始時まで元に戻った。
「【天使】自体が持つ【星】に匹敵するほどの回復力に世界からの支援ですかぁ…これだから面倒だと言われるのですよぉ貴方がたは…」
口を開くことなく再び構えをとるB。
だがチェルシーはそれに応じることなく後ろを向いた。
「?」
「「何故後ろを向く?まだ戦いは終わっていない」みたいな表情……いえいぇ、もぅ終わりで御座いますよぅ」
もはや何も語らず拳を振るい跳びかかるB。その時に懐から何かがこぼれ出る。
そこでBは自らの懐に箱がいくつも収められていることに気づいた。
「………ッツ!!?」
「ええプレゼントですよぅ。手土産も何も持たせずお帰り頂くのは従者として失格ですからぁ」
おそらく保険として仕込んでいたのであろう箱。
お辞儀と共にチェルシーはそれらを一斉に解き放つ。
内側から咲いた無数の棘の華にBは命以外の全てを縫い留められたのであった。
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