プライベート・スペクタル

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第二章

第四節

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「どうやらたった今、チェルシーさんの方は決着がついたようです」
「そうかい。そいつはお早いこって……」
睦美からの通信にそう返した大和。
チェルシーが勝利したものだと確信し、吹き飛ばした目の前のAへと視線を戻す。
「向こうでやっていたお仲間の戦闘。どうやら終わったみたいだぜ【天使】様……結果を教えてやろうか?」
「不要だ…どうやら敗北したみたいだな……それも殺されることなく生かされたまま」
「そりゃ当然。オタク等、殺しちゃあ世界からの刷新により強くなって面倒だからな……【天使オタク等】は殺すな…【ウチ等】の定石だぜ」
「その言い方…先程のお返しって訳か……」
Aの言葉に大和は「バレた?」と笑みを浮かべる。
「まあそういうわけだから俺もオタクを殺すなんてことはしないから安心してくれぃ…それよりも足の具合はもういいかい?」
「問題ない。たった今、完治した」
自らの回復力と世界からの支援の賜物なのだろう会った時のキレイな状態に戻っていたAの足。
大和も「だろうな」と呟く。
そんな大和を無表情で見据えながらある物を懐から取り出すA。
取り出した物……それは大型の自動拳銃と筒状の何かであった。
「へぇ…オタクはBさっきのと違って武器を使うんだ」
「先程の反撃で貴様に素手は危険だと認識しただけだ…」
「成程ね…それにしちゃあ装備が貧弱すぎやしねーかぃ?拳銃ハジキはまだわかるがその筒状の奴は何?懐中電灯?」
…ブゥン!
「……遠い昔遥か彼方の銀河系でって奴ね…」
大和の問いに答える様に筒状の何かを振るうA。先端から発せられた青白い光の剣により電柱を両断する。
「回復まで待つ愚策とその嘗めた口ぶり……きっちりと後悔させてやる」
「そりゃ是非とも……行くぜッ!!」
スッと重心を落とし先程とは逆、今度は仕掛ける大和。
地面をヒビ割る程の踏み込みで身体を加速し高々速度で接近する。
初手で痛感したからか、バックステップの形で大和から距離を取ろうとするA。跳びながら大和に照準を合わせ拳銃の引き金を引き絞る。
Aの変わりに大和に向かって行く銃弾。
直感と経験でこれは【星】にも通じる弾丸だと即座に悟る大和。身を捻り躱す。
そして次の踏み込みからサイドステップと緩急を加えたジグザグ軌道に変化させる。
「フッ!」
手首のスナップにより放つ光剣の一薙ぎ。大和の首を捉える。
だが首にあたる直前、大和は姿を掻き消す様に動き即座に右の死角へと回りこむ。
と同時に鞭のようなしなりの蹴りを撃ち込んだ。
それを肘で打つように迎撃するA。
大和も弾かれた反動を利用する形で回し蹴りへと続ける。
光剣で受け止めようとするA。即座に足を引っ込める。
再びバックステップで距離を取ろうとするA。だがそれを許さないと合わせる形で大和は接近戦を仕掛けた。
無機質な機械の様に的確に拳銃と光剣を振るい命を狩ろうとするA。功夫のような洗練された体術で踊る様に光剣と銃弾を躱し受けながら的確に痛打を浴びせる大和。
まるで一つの作品のような攻防一体のやり取り。放っておけば永遠に続きそうな応酬。
だがその終焉はあまりにも早く唐突に訪れる。
攻防戦で生まれたわずかな隙…それを突いて光剣の柄を叩き落とした大和。
ほぼ同時に弾倉が空になった拳銃を捨てるA。付近で戦うBのようなボクシングスタイルの構えをとる。

【演目】『天使・戦技 天使アッパー』

衝撃波により地面が砕ける程の威力を持つ渾身のアッパーカットを放つA。
だが、大和はそれを軽々と躱すと、合わせるように腹部へと掌底を撃ち込んだ。
「ぐぶッ…!」
口から血を噴き出すA。
吹き飛ばされるような外部への派手な一撃でなく内部にジワリと染み込むような打撃。それによって内臓がしっちゃかめっちゃかにシェイクされたが為である。
【天使】特有の痛覚の鈍化ゆえにあまり感じることは無いが、第三者が判断できるなら今の打撃で内臓の2つか3つは駄目になっていた。
「…これが、【演目】『龍王りゅうおう』か……大した威力だ…」
「『龍王』じゃあなくて『龍桜りゅうおう』だぜ【天使】さま。アンタおそらく今、キングの方で呼んだろ?桜だぜ?」
「そうか…改めよう……」
主となる世界の有する情報から聞いてはいたが、実際に受けるとそれ以上に恐ろしいものだと痛感するA。
だが大和は……。
「あと一つ勘違いしているみたいだけれどよ……俺はさっきの攻防で一切【演目】を使っちゃあいねぇよ」
「………何だと?」
大和の言葉に【天使】としては珍しいとされる驚愕の表情を見せるA。
「アレは…『龍桜』ではないのか…?」
「ありゃただの体術だよ。いうならば基本的な体捌きって奴だ……『龍桜』も同じく体術が基礎となる【演目】だから困惑するだろうけれどな……」
大和から告げられた事実に一瞬足元がグラつくA。何とか耐えようと踏ん張る。
と同時にある疑問が生まれた。
「だったら【演目】を何故使わない?【演目】を使用する方が早く決着がついたはずだ?」
「……?オタクはなに言ってんだぃ?」

「オタク相手に『龍桜』をっちまったら掠っただけで殺しちまうだろが!俺ァおたくを刷新させるのは御免だぜ」

「……な………」
「だろ?」と笑みを浮かべながらそう返した大和に思わず絶句するA。
銘に違うことは無い。まるで龍が如く強さに王の如き傲慢さ…だが、否定できない。
先の戦闘で十二分に強さが証明されているから…。
(糞ッ……次は……必ず……)
そこで身体内部破壊による肉体の限界を悟るA。
「次はこの憎たらしい【星】は必ず潰す…」そう誓いながら、意識の接続が途切れたのであった。
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