42 / 85
42.家族の後悔~兄視点~④
しおりを挟む
目の前には青白い顔でベットに横たわっているアンがいる。首には真っ白な包帯が巻かれていて、あの日のことが現実だったと思い知らされる。
医師からは『容体は安定しています。あとは目覚めるのを待つばかりです』と告げられたが、もう六日が経過しているのに一度も目を覚まさないなんて明らかにおかしいだろう。
理由を聞いても『…申し訳ありませんが、分かりません』と暗い表情で言うだけだった。
「早く目を覚まして。みんな待っているわ、アンのことを。ごめんね、母親なのになんにも分かっていなくって…。
起きたらいっぱい話しをしましょう。アンの本当の気持ちを聞かせて。
一体何から逃げたかったの…?
うっ、ううう…。
本当にごめんなさい、あなたに聞かなければ何も分からない母親で…」
母さんはそっとアンの額に10年振りに口づけを落とした。10年前までは毎晩アンが寝る前に『良い夢を見るおまじないよ、アン』と言いながら母さんは優しくアンに口づけをしていた。
幼い頃のアンは『くすぐったーい』と笑っていたが、今は静かに眠ったままだ。
「なあアン、父さんは間違っていたな。
お前が甘えん坊で泣き虫だって分かっていたのに手離してしまった。自分達では守れないと思ったけど……それは勝手な言い訳だった。
アンの気持ちを聞かずに勝手に決めて、ごめんな…。
不甲斐ない親でごめんな、アン。父さんが無力なばかりに…こんなことになったんだよな。
アン、早く目を覚ませ。そして家に帰ろう。
今度は間違えない、絶対に守って見せるから」
アンの髪をそっと撫でながら涙を流している父さんの横顔からは、固い決意を読み取ることが出来た。
「おい、ちび。本当にお前って奴は仕方がないな…。泣き虫のくせに無理して笑っていたのか?
兄ちゃんの前では、昔みたいにびーびー泣いて怒って良かったんだぞ。
だって妹なんだからさ、お前に番が見つかっても俺は生涯お前の兄なんだから…。
これ大事なことだぞ…、ずっと言い続けるからな、『もう聞き飽きたよ』って言われ…も、い、うか…らな」
「ヒック、ヒック……。アンお姉ちゃん、家に帰ったら一緒に…寝てね。私、すっごく寝相が悪いけど…がんばってまっすぐ寝るから…」
眠ったままのアンを囲み代わる代わる話し続けた。周りの目も気にせず、思ったままを言葉にして伝える。そうしたらアンが早く目覚めるような気がしたから。
最初は『面会は短時間でお願い致します』と言われていたが、俺達家族に『そろそろお時間が…』と声が掛かることはなかった。
数時間が経過した頃、年配の侍女から声が掛かった。
「ご面会の後、竜王様が皆様にお会いしたいと待っております。もしご都合が宜しいようなら帰られる前にお会い頂けないでしょうか」
正直驚いた。竜王様は俺達に合わせてずっと待っていたとは…。いつも王宮の都合ばかり押し付けられて俺達の存在なんて軽く見られていたのに。
…きっとアンがこんなことになったことが関係しているのだろう。
父さんが『分かりました』と言葉少なに答えると、家族はアンに『また来るから』と告げてから案内する侍女について行った。
竜王様がいる執務室に通される。
そこで待っていた竜王様は全くの別人と言っていいほど変わっていた。頬はこけ、目の下は隈で覆われ、苦悶の表情を浮かべている。
番であるアンが目の前で死を選ぼうとしたのだから、この姿にも納得できた。
きっと竜王様もどうしてこうなったか訳が分からずに悩んでいるのだろうなと思っていた。
今この時までは……。
だが竜王様が口を開き、今回の調査で知り得た情報とアンが今まで置かれていた状況を告げられ、そんな考えは吹き飛んだ。
この野郎っ!どうしてだ!
番が見つかったらお互いに幸せになるんじゃないのか?
ぐっぐぅ、、、なんでアンをそんな目に合わせてたんだっ!
込み上げる怒りに我を忘れて殴りかかろうとするが、俺が殴る前に誰かが竜王を殴りつけた。
それは温厚な父さんだった。
「お前ーーー!大事な娘をよくもっ。
なんでだ、大切な番じゃなかったのか!」
バッキ、ボキッ、ガッツン………………。
何度も何度も竜王を拳で殴りつける。
父さんはただの薬師で力は弱いし、人を殴るなんてしたことはない。
当然堅強な竜王を殴りつけてもダメージを負わせることは叶わず、代わりに父さんの拳が裂け、父さんの血で竜王が染まっていく。
母さんは『あなた…もうやめて』と父の身を案じ止めようと声を掛ける。
けれども父さんは止めずに殴り続ける。『お前なんかにアンを任せるんじゃなかった…』と叫びながら泣いていた。
竜王側の人も止めようとしたが殴られ続ける竜王に『手を出すな』と命じられ動けない。
両の拳が血で染まり、両腕が上げられなくなって父さんはやっと止まった。
「お前だけは…許さない。絶対に…だ」
そう吐き捨てると父さんはふらつきながら俺達を連れて部屋を出ていく。
周りの人達にも一切咎められることはなく、みな俺達に向かって頭を下げてくる。
竜王は項垂れたまま『…すまない』と呟いていた。
医師からは『容体は安定しています。あとは目覚めるのを待つばかりです』と告げられたが、もう六日が経過しているのに一度も目を覚まさないなんて明らかにおかしいだろう。
理由を聞いても『…申し訳ありませんが、分かりません』と暗い表情で言うだけだった。
「早く目を覚まして。みんな待っているわ、アンのことを。ごめんね、母親なのになんにも分かっていなくって…。
起きたらいっぱい話しをしましょう。アンの本当の気持ちを聞かせて。
一体何から逃げたかったの…?
うっ、ううう…。
本当にごめんなさい、あなたに聞かなければ何も分からない母親で…」
母さんはそっとアンの額に10年振りに口づけを落とした。10年前までは毎晩アンが寝る前に『良い夢を見るおまじないよ、アン』と言いながら母さんは優しくアンに口づけをしていた。
幼い頃のアンは『くすぐったーい』と笑っていたが、今は静かに眠ったままだ。
「なあアン、父さんは間違っていたな。
お前が甘えん坊で泣き虫だって分かっていたのに手離してしまった。自分達では守れないと思ったけど……それは勝手な言い訳だった。
アンの気持ちを聞かずに勝手に決めて、ごめんな…。
不甲斐ない親でごめんな、アン。父さんが無力なばかりに…こんなことになったんだよな。
アン、早く目を覚ませ。そして家に帰ろう。
今度は間違えない、絶対に守って見せるから」
アンの髪をそっと撫でながら涙を流している父さんの横顔からは、固い決意を読み取ることが出来た。
「おい、ちび。本当にお前って奴は仕方がないな…。泣き虫のくせに無理して笑っていたのか?
兄ちゃんの前では、昔みたいにびーびー泣いて怒って良かったんだぞ。
だって妹なんだからさ、お前に番が見つかっても俺は生涯お前の兄なんだから…。
これ大事なことだぞ…、ずっと言い続けるからな、『もう聞き飽きたよ』って言われ…も、い、うか…らな」
「ヒック、ヒック……。アンお姉ちゃん、家に帰ったら一緒に…寝てね。私、すっごく寝相が悪いけど…がんばってまっすぐ寝るから…」
眠ったままのアンを囲み代わる代わる話し続けた。周りの目も気にせず、思ったままを言葉にして伝える。そうしたらアンが早く目覚めるような気がしたから。
最初は『面会は短時間でお願い致します』と言われていたが、俺達家族に『そろそろお時間が…』と声が掛かることはなかった。
数時間が経過した頃、年配の侍女から声が掛かった。
「ご面会の後、竜王様が皆様にお会いしたいと待っております。もしご都合が宜しいようなら帰られる前にお会い頂けないでしょうか」
正直驚いた。竜王様は俺達に合わせてずっと待っていたとは…。いつも王宮の都合ばかり押し付けられて俺達の存在なんて軽く見られていたのに。
…きっとアンがこんなことになったことが関係しているのだろう。
父さんが『分かりました』と言葉少なに答えると、家族はアンに『また来るから』と告げてから案内する侍女について行った。
竜王様がいる執務室に通される。
そこで待っていた竜王様は全くの別人と言っていいほど変わっていた。頬はこけ、目の下は隈で覆われ、苦悶の表情を浮かべている。
番であるアンが目の前で死を選ぼうとしたのだから、この姿にも納得できた。
きっと竜王様もどうしてこうなったか訳が分からずに悩んでいるのだろうなと思っていた。
今この時までは……。
だが竜王様が口を開き、今回の調査で知り得た情報とアンが今まで置かれていた状況を告げられ、そんな考えは吹き飛んだ。
この野郎っ!どうしてだ!
番が見つかったらお互いに幸せになるんじゃないのか?
ぐっぐぅ、、、なんでアンをそんな目に合わせてたんだっ!
込み上げる怒りに我を忘れて殴りかかろうとするが、俺が殴る前に誰かが竜王を殴りつけた。
それは温厚な父さんだった。
「お前ーーー!大事な娘をよくもっ。
なんでだ、大切な番じゃなかったのか!」
バッキ、ボキッ、ガッツン………………。
何度も何度も竜王を拳で殴りつける。
父さんはただの薬師で力は弱いし、人を殴るなんてしたことはない。
当然堅強な竜王を殴りつけてもダメージを負わせることは叶わず、代わりに父さんの拳が裂け、父さんの血で竜王が染まっていく。
母さんは『あなた…もうやめて』と父の身を案じ止めようと声を掛ける。
けれども父さんは止めずに殴り続ける。『お前なんかにアンを任せるんじゃなかった…』と叫びながら泣いていた。
竜王側の人も止めようとしたが殴られ続ける竜王に『手を出すな』と命じられ動けない。
両の拳が血で染まり、両腕が上げられなくなって父さんはやっと止まった。
「お前だけは…許さない。絶対に…だ」
そう吐き捨てると父さんはふらつきながら俺達を連れて部屋を出ていく。
周りの人達にも一切咎められることはなく、みな俺達に向かって頭を下げてくる。
竜王は項垂れたまま『…すまない』と呟いていた。
311
あなたにおすすめの小説
婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました
Blue
恋愛
幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。
ふまさ
恋愛
──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。
彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。
ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。
だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。
※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。
【完結】消えた姉の婚約者と結婚しました。愛し愛されたかったけどどうやら無理みたいです
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベアトリーチェは消えた姉の代わりに、姉の婚約者だった公爵家の子息ランスロットと結婚した。
夫とは愛し愛されたいと夢みていたベアトリーチェだったが、夫を見ていてやっぱり無理かもと思いはじめている。
ベアトリーチェはランスロットと愛し愛される夫婦になることを諦め、楽しい次期公爵夫人生活を過ごそうと決めた。
一方夫のランスロットは……。
作者の頭の中の異世界が舞台の緩い設定のお話です。
ご都合主義です。
以前公開していた『政略結婚して次期侯爵夫人になりました。愛し愛されたかったのにどうやら無理みたいです』の改訂版です。少し内容を変更して書き直しています。前のを読んだ方にも楽しんでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる