41 / 85
41.家族の後悔~兄視点~③
しおりを挟む
皆に祝福されアンと竜王様の婚姻の儀が粛々と進んで行く。
それを俺は複雑な気持ちで見つめている。
……完全に手が届かない存在になった妹。
祝福はしていた、それは本当だ。
けれどもアンとの絆を取り戻せなかったことが心に暗い影を落とし、笑顔にはなれない。
父さんとミンは俺と同じ表情を浮かべている。
母さんだけは必死で笑おうとしているようだけど、ちゃんと笑えてはいなかった。
そんななか目の前で、幸せな花嫁であるアンが自ら喉を切り裂いた。大量な血が飛び散り一瞬で辺り一面が深紅で覆われていく。
…えっ、おかしいだろうがっ!
さっきまで幸せそうに微笑んでいたのに。
ど…どうしてなんだ、アンーーー!
何が起こったの目の前で見ていたのに、心がそれを理解するのを拒否する。
頭の中が真っ白になり何も考えられない、考えたくない。
……これは、なんなんだ。
『アンーーーー!』
絶叫が耳に突き刺さり我に返る、…それは自分の口から出た叫びだった。
祝福の雰囲気に包まれていた大広間が一瞬で地獄へと変わる。
至る所から叫び声が上がり、混乱に拍車がかかる。
訳が分からずその場から逃げようとする人、押し寄せる人、惨劇に耐えられず倒れる人…冷静でいる人なんて誰もいない。
まさに無秩序がこの場を支配していた。
飛び散った大量の血に塗れたアンと竜王様が人々の隙間から見えた。
「アン、アンっー。どけ、お願いだ通してくれ!
私の娘が、アンが、そこで倒れているんだ!
頼む、通してくれ!アンの傍に行かせてくれっ!」
「あああーー、なんでなの…。
アン、アン、アン………。
いやーー。どうして…なのよ…」
両親は必死になって娘の名を呼びながら首から血を流し倒れているアンに近づこうとする。
しかし周囲の人が邪魔で近づくことが出来ない。
俺とミンも『アンーー!!』『アンお姉ちゃんっ』と必死で叫びながら両親に続こうとする。
すぐ傍にいるのに近づけない、もどかしくて仕方がない。
早く、早く、アンのところに…。
血を止めないと。
早く、助けてやらないと!
ちび、待ってろっ。
絶対に兄ちゃんが助けてやるからーーー。
人を無理矢理押しのけなんとかアンに近づけそうになった。
まさにその時…、竜王様の怒声と共に俺の記憶が途切れた。
『……ア…ン………まって‥ろ…』
そして堅い床の上で目を覚ました時には…もうアンの姿は大広間になかった。
あれは夢だったのかと思いたかったが、血を拭った生々しい跡がそれ否定してくる。
どうやら俺は竜王様の覇気によって気を失っていたらしい。そんな人達が周りには大勢いた、まだ多くの人は気を失ったままだ。
俺はまだふらつく頭で両親とミンの姿を探した。
ミンはすぐ近くで倒れていたので、慌てて呼吸を確かめる。呼吸は安定していて、気を失っているだけなのが分かり安心していると、少し離れたところから両親が誰かと言い争っている声が聞こえた。
「アンはどこにいるんだっ。
なぜ会わせないんだ。娘は酷い怪我をしているんだ、傍についていてやらなくては…。
今すぐに娘のところに案内してくれ!」
若い文官を怒鳴りつけている父さんは周りの目なんかもう気にしていなかった。
「申し訳ございません。何も分からない今は誰も番様に会わせることは出来ないのです」
「私達はアンの家族なのよ。なのに会えないって…、どういうことなの?娘を心配する親も会えないの?
そんなのおかしいでしょう!」
文官の言葉に母さんが目を吊り上げて抗議している。
いつでも穏やかな両親のあんな姿は初めてだった。
それほど必死だったのだ。
大切な娘があんなことになって冷静でなんかいられない。当然だった、親として…アンが受け入れてくれなくてもアンに対する想いは変わる事なんてないのだから。
「番様がどうしてこんなことになったか判明するまでは、例え家族であろうと会うことは出来ません。
無関係だと判断されましたらこちらから連絡を致します。
どうかそれまでご自宅でお待ちください」
「それは親である私達が今回のことに関与していると言っているんですか!何を言ってるんだっ、そんなこ、」
「そう思って頂いても結構です」
無情な言葉が家族をさらに打ちのめしていく。
結局何を言ってもアンには会わせてもらえず、王宮から追い出されるようにして家に帰ることになった。
項垂れたまま家に帰りつく、身も心も疲れ切っていたが誰も休むことなんて考えなかった。
深夜遅くまで家族で話し合いを続ける。
『どうしたらアンに会えるのか』
『なぜアンはあんなことを…』
どんなに話し合っても答えは見つからない。
王宮という権力に立ち向かう術がない俺達家族は結局、王宮からの連絡をひたすら待つしかなかった。
悔しいが…それしかアンと会える方法はなかった。
一日千秋の思いで過ごす日々に、家族は憔悴していく。
そしてあの婚姻の儀から六日目についに王宮から連絡がやって来た。俺達は着の身着のままで王宮のアンのもとへと急いだ。
それを俺は複雑な気持ちで見つめている。
……完全に手が届かない存在になった妹。
祝福はしていた、それは本当だ。
けれどもアンとの絆を取り戻せなかったことが心に暗い影を落とし、笑顔にはなれない。
父さんとミンは俺と同じ表情を浮かべている。
母さんだけは必死で笑おうとしているようだけど、ちゃんと笑えてはいなかった。
そんななか目の前で、幸せな花嫁であるアンが自ら喉を切り裂いた。大量な血が飛び散り一瞬で辺り一面が深紅で覆われていく。
…えっ、おかしいだろうがっ!
さっきまで幸せそうに微笑んでいたのに。
ど…どうしてなんだ、アンーーー!
何が起こったの目の前で見ていたのに、心がそれを理解するのを拒否する。
頭の中が真っ白になり何も考えられない、考えたくない。
……これは、なんなんだ。
『アンーーーー!』
絶叫が耳に突き刺さり我に返る、…それは自分の口から出た叫びだった。
祝福の雰囲気に包まれていた大広間が一瞬で地獄へと変わる。
至る所から叫び声が上がり、混乱に拍車がかかる。
訳が分からずその場から逃げようとする人、押し寄せる人、惨劇に耐えられず倒れる人…冷静でいる人なんて誰もいない。
まさに無秩序がこの場を支配していた。
飛び散った大量の血に塗れたアンと竜王様が人々の隙間から見えた。
「アン、アンっー。どけ、お願いだ通してくれ!
私の娘が、アンが、そこで倒れているんだ!
頼む、通してくれ!アンの傍に行かせてくれっ!」
「あああーー、なんでなの…。
アン、アン、アン………。
いやーー。どうして…なのよ…」
両親は必死になって娘の名を呼びながら首から血を流し倒れているアンに近づこうとする。
しかし周囲の人が邪魔で近づくことが出来ない。
俺とミンも『アンーー!!』『アンお姉ちゃんっ』と必死で叫びながら両親に続こうとする。
すぐ傍にいるのに近づけない、もどかしくて仕方がない。
早く、早く、アンのところに…。
血を止めないと。
早く、助けてやらないと!
ちび、待ってろっ。
絶対に兄ちゃんが助けてやるからーーー。
人を無理矢理押しのけなんとかアンに近づけそうになった。
まさにその時…、竜王様の怒声と共に俺の記憶が途切れた。
『……ア…ン………まって‥ろ…』
そして堅い床の上で目を覚ました時には…もうアンの姿は大広間になかった。
あれは夢だったのかと思いたかったが、血を拭った生々しい跡がそれ否定してくる。
どうやら俺は竜王様の覇気によって気を失っていたらしい。そんな人達が周りには大勢いた、まだ多くの人は気を失ったままだ。
俺はまだふらつく頭で両親とミンの姿を探した。
ミンはすぐ近くで倒れていたので、慌てて呼吸を確かめる。呼吸は安定していて、気を失っているだけなのが分かり安心していると、少し離れたところから両親が誰かと言い争っている声が聞こえた。
「アンはどこにいるんだっ。
なぜ会わせないんだ。娘は酷い怪我をしているんだ、傍についていてやらなくては…。
今すぐに娘のところに案内してくれ!」
若い文官を怒鳴りつけている父さんは周りの目なんかもう気にしていなかった。
「申し訳ございません。何も分からない今は誰も番様に会わせることは出来ないのです」
「私達はアンの家族なのよ。なのに会えないって…、どういうことなの?娘を心配する親も会えないの?
そんなのおかしいでしょう!」
文官の言葉に母さんが目を吊り上げて抗議している。
いつでも穏やかな両親のあんな姿は初めてだった。
それほど必死だったのだ。
大切な娘があんなことになって冷静でなんかいられない。当然だった、親として…アンが受け入れてくれなくてもアンに対する想いは変わる事なんてないのだから。
「番様がどうしてこんなことになったか判明するまでは、例え家族であろうと会うことは出来ません。
無関係だと判断されましたらこちらから連絡を致します。
どうかそれまでご自宅でお待ちください」
「それは親である私達が今回のことに関与していると言っているんですか!何を言ってるんだっ、そんなこ、」
「そう思って頂いても結構です」
無情な言葉が家族をさらに打ちのめしていく。
結局何を言ってもアンには会わせてもらえず、王宮から追い出されるようにして家に帰ることになった。
項垂れたまま家に帰りつく、身も心も疲れ切っていたが誰も休むことなんて考えなかった。
深夜遅くまで家族で話し合いを続ける。
『どうしたらアンに会えるのか』
『なぜアンはあんなことを…』
どんなに話し合っても答えは見つからない。
王宮という権力に立ち向かう術がない俺達家族は結局、王宮からの連絡をひたすら待つしかなかった。
悔しいが…それしかアンと会える方法はなかった。
一日千秋の思いで過ごす日々に、家族は憔悴していく。
そしてあの婚姻の儀から六日目についに王宮から連絡がやって来た。俺達は着の身着のままで王宮のアンのもとへと急いだ。
283
あなたにおすすめの小説
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
好きでした、婚約破棄を受け入れます
たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……?
※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
さようなら、私の愛したあなた。
希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。
ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。
「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」
ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。
ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。
「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」
凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。
なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。
「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」
こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
陛下を捨てた理由
甘糖むい
恋愛
美しく才能あふれる侯爵令嬢ジェニエルは、幼い頃から王子セオドールの婚約者として約束され、完璧な王妃教育を受けてきた。20歳で結婚した二人だったが、3年経っても子供に恵まれず、彼女には「問題がある」という噂が広がりはじめる始末。
そんな中、セオドールが「オリヴィア」という女性を王宮に連れてきたことで、夫婦の関係は一変し始める。
※改定、追加や修正を予告なくする場合がございます。ご了承ください。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる