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63.許されぬ想い
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「竜王様、あのお方が王宮で侍女として働くことになりました。数日後には彼の地から王都に来る予定になっております」
その報告は予期せぬものだった。
宰相がいつものように連絡事項を報告していると最後にそのことが伝えられたのだ。
私の反応を窺うようにこちらを見る宰相の表情はいつもと違う、暗くはない。
アンが侍女に応募していると事前に聞いていたが、家族がアンが王宮に来ることを許さないと思っていた。来ることはないだろうと。
だからこの報告を聞いた時はまさかという気持ちだった。
どうしてだ……?
アンを大切にしている彼らが侍女になることをなぜ許した?
ここには私がいる、アンを壊した元凶が…。
私を許すはずはないし、憎んでいるはず。
私が微かに眉を顰めたのを見て、宰相は私の考えを察したのだろう。私が訊ねる前に聞きたいことを告げてくる。
「あのお方が王宮侍女になることをご家族は了承しております。あの方の意思を尊重しているようです。しかし竜王様が番としてあの方に近づく事があれば…、許さないと言っておられました。
あのお方はなにも知らないままなので、くれぐれも『5年前のこと』や『番として生きてきた10年間』を知られないようにして、ただの新入り王宮侍女として扱って欲しいと連絡が来ております」
宰相の言葉が耳に入ってくるが、現実だと思えない。
二度と会えないと思っていた。
私は会うことも見守ることも許されないことをアンにしてしまったから。
そう…アンの心を壊した、そして記憶を奪った。
いま私が心を殺して生きているのは贖罪であり、当然の報いでもあった。
殺してではない…か。
…何も感じなくなっただけだ。
あるのは『無』だけだった。
宰相から聞いたアンの存在を感じられる言葉に凍っていた心が軋みだす。
もう二度と番として求めないと誓った。
番を求めてやまない心を押さえ込み、アンに会わないと約束した。
‥‥破るつもりはない。
だが気配を感じられるほどアンが近くにくると思うと封印していた感情が甦ってくる。
……いいのだろうか。
罪を背負って生きなければならないのに、喜ぶ心を取り戻して…。
番として求めないと誓える。
…もう傷つけたくないから。
だがその存在を感じて生きる糧にしていいのだろうか…。
罪を犯した私にそれが許されるか…。
心を捨てたつもりだった。
…でもそうではなかった。
番を手離した喪失感と求める想いが入り混じり無だった心に感情が揺らぎ始める。
「…アンのことをよろしく頼む。くれぐれもあの事を知られないようにしてくれ。
家族に言われなくても、もう自分からアンに近づくことはしない」
「はい承知いたしました、竜王様」
いつもと違い宰相の声はどこか嬉しそうだった。
どうやら私がアンの存在によってまた感情を取り戻したことを喜んでいるようだ。
確かにアンによって私はまた心を持った。
それが果たして良いことなのか…。
アンの存在を感じられるそれだけでいい。
‥‥嘘ではない、だが…。
手が届くのに手を伸ばせない。
そんな状況に喪失感は増すだろう。
耐えがたい想いに駆られ、どうなる?
その先に何があるというのか‥。
ああ、これは私への新たな罰なのか。
それとも……。
馬鹿なことを一瞬でも考えた愚かな自分に『やめろ、同じ過ちを犯すなっ』と心のなかで罵声を浴びせる。
そうだ、これはアンの人生であって私にはもう関係がない。
竜王と侍女それ以上でも以下でもない。
‥‥もうアンの未来に番はいない。
部屋から出て行こうとする宰相の背に向け声を掛ける。
「新入りを決して竜王に近づけるな。私の傍で働く者に新入りは要らない」
「……はい、竜王様」
それだけ告げるとまた書類を手に取り仕事に取り掛かる。なにも変わらない、このまま一生私はただの王でしかないのだ。
……これが私が選んだ人生だ。
その報告は予期せぬものだった。
宰相がいつものように連絡事項を報告していると最後にそのことが伝えられたのだ。
私の反応を窺うようにこちらを見る宰相の表情はいつもと違う、暗くはない。
アンが侍女に応募していると事前に聞いていたが、家族がアンが王宮に来ることを許さないと思っていた。来ることはないだろうと。
だからこの報告を聞いた時はまさかという気持ちだった。
どうしてだ……?
アンを大切にしている彼らが侍女になることをなぜ許した?
ここには私がいる、アンを壊した元凶が…。
私を許すはずはないし、憎んでいるはず。
私が微かに眉を顰めたのを見て、宰相は私の考えを察したのだろう。私が訊ねる前に聞きたいことを告げてくる。
「あのお方が王宮侍女になることをご家族は了承しております。あの方の意思を尊重しているようです。しかし竜王様が番としてあの方に近づく事があれば…、許さないと言っておられました。
あのお方はなにも知らないままなので、くれぐれも『5年前のこと』や『番として生きてきた10年間』を知られないようにして、ただの新入り王宮侍女として扱って欲しいと連絡が来ております」
宰相の言葉が耳に入ってくるが、現実だと思えない。
二度と会えないと思っていた。
私は会うことも見守ることも許されないことをアンにしてしまったから。
そう…アンの心を壊した、そして記憶を奪った。
いま私が心を殺して生きているのは贖罪であり、当然の報いでもあった。
殺してではない…か。
…何も感じなくなっただけだ。
あるのは『無』だけだった。
宰相から聞いたアンの存在を感じられる言葉に凍っていた心が軋みだす。
もう二度と番として求めないと誓った。
番を求めてやまない心を押さえ込み、アンに会わないと約束した。
‥‥破るつもりはない。
だが気配を感じられるほどアンが近くにくると思うと封印していた感情が甦ってくる。
……いいのだろうか。
罪を背負って生きなければならないのに、喜ぶ心を取り戻して…。
番として求めないと誓える。
…もう傷つけたくないから。
だがその存在を感じて生きる糧にしていいのだろうか…。
罪を犯した私にそれが許されるか…。
心を捨てたつもりだった。
…でもそうではなかった。
番を手離した喪失感と求める想いが入り混じり無だった心に感情が揺らぎ始める。
「…アンのことをよろしく頼む。くれぐれもあの事を知られないようにしてくれ。
家族に言われなくても、もう自分からアンに近づくことはしない」
「はい承知いたしました、竜王様」
いつもと違い宰相の声はどこか嬉しそうだった。
どうやら私がアンの存在によってまた感情を取り戻したことを喜んでいるようだ。
確かにアンによって私はまた心を持った。
それが果たして良いことなのか…。
アンの存在を感じられるそれだけでいい。
‥‥嘘ではない、だが…。
手が届くのに手を伸ばせない。
そんな状況に喪失感は増すだろう。
耐えがたい想いに駆られ、どうなる?
その先に何があるというのか‥。
ああ、これは私への新たな罰なのか。
それとも……。
馬鹿なことを一瞬でも考えた愚かな自分に『やめろ、同じ過ちを犯すなっ』と心のなかで罵声を浴びせる。
そうだ、これはアンの人生であって私にはもう関係がない。
竜王と侍女それ以上でも以下でもない。
‥‥もうアンの未来に番はいない。
部屋から出て行こうとする宰相の背に向け声を掛ける。
「新入りを決して竜王に近づけるな。私の傍で働く者に新入りは要らない」
「……はい、竜王様」
それだけ告げるとまた書類を手に取り仕事に取り掛かる。なにも変わらない、このまま一生私はただの王でしかないのだ。
……これが私が選んだ人生だ。
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