幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと

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62.両親の想い②

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「……そうだ、アンの人生を勝手に決めたくない。だが王宮に、あの男の傍に、なんて行かせたくない!分かるだろう、あそこはアンを壊した場所だ。
それにアンは番の感覚はなくてもアイツは違う。またアンを閉じ込め苦しめるかもしれない」


そうだ、アイツなんて信用できない。傍にいなければこの短剣であの子を守ることも出来ないんだ。

アンを尊重したい気持ちと守りたい気持ちがぶつかり合う。

いったいどうすればいいんだ…。

そんな俺の背を優しく撫でながら妻は話しを続ける。

「ねえ、アンはもう21歳だわ。頑張っているし、しっかりもしてきた。いつまでも手元に置いておくのは私達の我が儘かもしれないわ。そりゃ、あの子が心配だし出来たら一生傍に置いておきたい。
でもね、それじゃ今度は私達がアンを鳥籠に閉じ込めることになるわ。
それでアンは幸せになれるの?
それがあの子の幸せだと本当に思える?」

妻が言いたいことは十分すぎるほど分かっている。

 分かっているけど…不安なんだ。
 あの子がまた傷つかないかと。


「どうすればいいのか分からないんだ」

正直に思ったままの気持ちを妻に伝える。父親として不甲斐ないが、弱い自分こそが今の俺だ。


「そうね、私も分からないわ。5年前のあの時と同じ。だからあの時決めたことを守らない?『アンの人生はアン自身に決めさせる』。
あの子は記憶を失う前とは違うわ、…それに私達もね。そうでしょう?
失敗しても大丈夫よ、今度は私達家族がいるんですもの。
それにね、あの男が何かしたら今度こそこれを使いましょう、ふふふ」

そう言いながら妻は私の腰に差してある竜殺剣を指さして『ねっ?』て微笑んでいる。
その横顔は母親の顔だった。

可愛い娘達の逞しさはどこからと常々思っていたが…、まさか優しい妻から引き継いだものだったとは。

俺が笑いながら泣いていると妻が抱き締めてきて『信じて見守りましょう』と優しく耳元で囁いてくれた。



 

アンが決めた道を応援することを決めると夫婦で夜遅くまで話し合った。
そしてアンを王宮に送り出す為の条件を決めた。

その条件はただ一つ。
『困った事があったら一人で我慢せずに家族を頼ること』

この条件を守ることを約束させアンを王宮へと送り出すことにしたのだった。
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