愚か者は幸せを捨てた

矢野りと

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9.求め続ける

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サラからはっきりと拒絶されたが、俺はそれを受け入れることなど出来なかった。

『まだ間に合う。何としてもサラと我が子を取り戻し、もう一度幸せな日々を手に入れてみせる』

俺は出来ることをしようと、がむしゃらに働いた。もともと宰相補佐として王宮で働いていたがあの一件により俺の評価は下がっていた。また以前と同じ信頼を周囲から勝ち取り、サラに認めてもらおうと考えていたのだ。
今の俺に出来ることは、それしかなかった。子供への養育費を送っても受け取ってもらえず、繋がりを完全に拒否されていたから。

そんな仕事漬けの毎日を送っていると、その努力が徐々に認められ宰相補佐の仕事に戻ることが出来た。以前と同じ仕事に戻れたことで、俺はサラに少し近づけた気がしていた。

『サラ、待っていてくれ。必ず君に再び認めてもらえる男になるから』

俺はただサラを取り戻すために一生懸命に働いていたのだが、公爵家の両親はそうは思わなかった。俺がサラを諦め公爵家の跡取りとして心を入れ替えたと考え、熱心に縁談を勧めてくるようになった。
俺がいくら縁談を断り、サラと再び婚姻を結びたいのだと訴えても両親は聞く耳を持たなかった。この人達には何を言っても無駄だと感じ、彼らからの呼び出しを無視し訪問を拒絶するようになった。

サラ以外のものに時間を割かれるのが許せなかったし、あの両親は放っておけばいつか諦めると安易に考えていた。



ある日両親からプレゼントがあるからと見に来いと強引に公爵家に呼び出された。最初行く気はなかったが、執事が『公爵家の使いの者の様子がいつもと違っていました。何かあるのかもしれません』と思い詰めた表情で言っていたので、とりあえず久しぶりに公爵邸に行くことにした。

両親は不機嫌な俺の態度を咎める事もなく訪問を歓迎し、気持ち悪いほどにこにこしていた。もしかして縁談の令嬢でも待機させ強引に見合いをさせられるのかと危惧したがそうではなかった。


「マキタ、お前の望むものを用意してやったぞ。最初は反対だったが、この子の容姿を確認して気が変わった。この子には公爵家の血が色濃く流れているからな」
「本当にマキタにそっくりで可愛い子だわ。あの女の血なんて一滴も流れていないみたいね。ホッホッホ、サラも最後にいい仕事をしたという事ね」

何のことを言っているんだと俺が訝しんでいると、母がソファに横たわっているものに掛けてある布を得意げにどかして見せた。

そこには俺の幼少期に瓜二つな子供が横たわっていた…。

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