愚か者は幸せを捨てた

矢野りと

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10.愚かな策略

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目の前で横たわっている子供の寝顔は安らかなものではなかった、明らかに薬を使われぐったりとしている様子だった。俺は慌てて子供に近寄って呼吸と脈を確かめてみる、意識はないが安定していた。ホッとすると同時に両親のした事に怒りが込み上げてきた。

「なんてことをしたんです。サラの許可を取って連れて来たんじゃないですよね!誘拐は犯罪ですよ」
「なに心配は要らん。あと少しでこの子の親戚はいなくなる。そうなれば、これは誘拐ではなく可哀想な子供を保護しているに過ぎん」
「なっ、どういう意味ですか…」
「だから何も心配する事はないの。これからマキタはこの子と新しい嫁と新たな生活を楽しめるのよ。楽しみね、フフフ」

両親が何を言っているのか理解が出来なかった。俺は近くで控えている公爵家の執事の胸倉を掴み『これはどういう事だ、さっさと説明しろ』と言うと、顔色の悪い執事は良心の呵責に苦しんでいたのだろう、あっさりと事の顚末を話し始めた。

「公爵様は人を雇いマキタ様のお子様を攫って来ました。子爵家には火を放ちサラ様とご両親を亡き者にする予定です」
「なんで止めなかったんだ。こんな事間違っているだろう」
「私達は公爵様に仕える身です、止めることなど出来ません」
「ちっ、俺はこれから子爵家に行く。お前はあの子をしっかり見ていろ、何かあったら許さんからな」
「…はい、分かりました」

俺はあの子を両親の元に残すのは後ろ髪を引かれる思いだった、だが今はサラを助けるために子爵家に行くのを優先しなくてはいけない。公爵の暴走を止められなかった執事だが、長年公爵家に仕えていたのでその人柄は知っている。彼に子供を託し公爵邸を飛び出した。



子爵家に着くとすでに屋敷には火の手が上がっていた。周囲の人々が水を掛けて消火に当たっているが、炎はすぐに屋敷全体を覆ってしまった。

「サラーーー!」

俺は水を頭から掛けると燃え盛る屋敷に入っていった。婚姻期間中に何度も訪問していたので子爵家の間取りは知っている、サラの部屋へと迷うことなく進んでいった。サラの部屋はまだ燃えてなかったが、煙が充満した部屋の真ん中でサラは倒れていた。

『今助けてやる。サラ頑張ってくれ』

俺は意識がないサラを抱き上げ炎を掻い潜り、無事に外へと出ることが出来た。それと同時に屋敷はサラの両親を中に残したまま崩れ落ちた。

「ゲッホ、ゲッホ…。マキタ、どうしてこ、ッゲッホ…」

サラは微かに目を開け俺の顔を見て話し掛けてきた。だが煙を吸ったのでまだちゃんと話が出来ないようだ。
俺はサラに何も言えず、黙ってサラを優しく抱き締め続けた。

『サラ生きていてくれて良かった。俺のせいですまない。でも手放せないんだ、許してくれ』



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