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第8話
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それを聞いたトニーは顔を真っ青にしている。
心なしかバルバラもどこか挙動不審になっている。
「へ、陛下……それは何かの間違いじゃ? 私は横領なんてしておりません」
「ほう? それは神に誓って誠かの?」
「と、当然にございます」
「詳しい話は王宮にて聞こう。カルマ男爵夫妻を連れて行け!」
「はっ」
陛下が連れてきていた近衛兵が夫妻を連行する。
「陛下。彼らを退出させる前に少しよろしいでしょうか?」
「構わん」
「ありがとうございます」
「忘れておりましたが、先日のルシアとイアン様の婚約破棄の一件で、婚約破棄の原因の一端にもなったファニー様にも私達は慰謝料を請求する権利がございますので、後日請求させて頂きますわね。ついでに本日の度重なる私とルシアへの暴言についても名誉棄損ということで慰謝料を請求させて頂きますので悪しからず。万が一、支払いを拒否するようでしたら裁判にて訴訟を起こしますのでそのおつもりで」
「くそっ、何でこんなことに……!」
「公爵夫人になって今までこの私を見下してきた奴にマウントを取りたかったのに!」
カルマ男爵夫妻は悪態をつきながら、ホールの出入り口へと連行され、会場から退場した。
(暴言についてはお母様が対処したから、もう私の出る幕はないわ。それにしてもこの方達は、横領までしていたのね)
「お父様とお母様が横領……? 冗談でしょ?」
「ファニー嬢は横領には関わっておらんようじゃったからカルマ男爵夫妻とは違って連行はせぬ。だが、夫妻に話を聞こうとは言ったが、横領はほぼ黒じゃ。近いうち、男爵の地位は余の権限によって剥奪することになる。つまりファニー嬢も夫妻と同じく平民落ちじゃ。これ以上要らぬ騒ぎを起こさぬなら、余が働き先を斡旋するからそれまで大人しく過ごせ」
「え!? 平民!? この私が!?」
「そうじゃ。カルマ男爵家はお家取りつぶしになる。横領は重い罪で、一家連帯責任となるんじゃ」
陛下の言葉にイアンが急に慌てる。
「ちょっと待って下さい! ファニーがシャンタル公爵家令嬢になることは絶対にあり得なくて、それどころか平民になるということですか!?」
「そうじゃ」
「そんな! じゃあ俺とファニーが結婚するにはファニーをどこかの貴族の家に養子縁組してもらうか、俺も平民になるしかないということですか!?」
「そうなるじゃろうな。ただ、今日の出来事はこれから貴族社会に知れ渡ることになるじゃろうから、養子縁組は難しいじゃろうな」
「嘘だろう……! ファニーが公爵家令嬢になるから、ルシアと婚約破棄したことについては父上に許してもらえたのに!」
イアンは頭を抱える。
イアンの父は伯爵家のルシアより公爵家令嬢になるファニーの方がずっと財産があるだろうと踏んで、イアンの婚約者をルシアからファニーに乗り換えることを許可した。
だからこそサミュエルが婚約破棄の話し合いの為にバルデ伯爵家を訪れた際、慰謝料は払い、ローレル伯爵家から借りている借金は今後は利子付で返済するというサミュエルからの要求をすんなり呑んだのだ。
今後はファニーの公爵家から借金しつつ、その借金をローレル伯爵家への返済に回し、公爵家からの借金はなあなあにするつもりでいた。
イアンの父はお金目当てだから、公爵家令嬢でお金を持ってるファニーでなければイアンの婚約者として認める訳がない。
――でも、その前提が間違っていたら?
ローレル伯爵家への借金が返せなくて、バルデ伯爵家は没落の道を辿るしかない。
イアンもイアンの父も婚約相手の調査をきちんとしなかったという点では似た者親子である。
もっとちゃんと調べておけば。
そう思っても過去に戻れる訳ではない。
頭を抱えていたイアンにある一つの考えが思い浮かぶ。
――そうだ、今ここでファニーと婚約破棄して、ルシアにもう一度婚約者になってもらおう。
そうすればこの状況を打開出来る。
この時のイアンは何の根拠もなく、それがうまくいき、全て元通りになると本気で思っていた。
心なしかバルバラもどこか挙動不審になっている。
「へ、陛下……それは何かの間違いじゃ? 私は横領なんてしておりません」
「ほう? それは神に誓って誠かの?」
「と、当然にございます」
「詳しい話は王宮にて聞こう。カルマ男爵夫妻を連れて行け!」
「はっ」
陛下が連れてきていた近衛兵が夫妻を連行する。
「陛下。彼らを退出させる前に少しよろしいでしょうか?」
「構わん」
「ありがとうございます」
「忘れておりましたが、先日のルシアとイアン様の婚約破棄の一件で、婚約破棄の原因の一端にもなったファニー様にも私達は慰謝料を請求する権利がございますので、後日請求させて頂きますわね。ついでに本日の度重なる私とルシアへの暴言についても名誉棄損ということで慰謝料を請求させて頂きますので悪しからず。万が一、支払いを拒否するようでしたら裁判にて訴訟を起こしますのでそのおつもりで」
「くそっ、何でこんなことに……!」
「公爵夫人になって今までこの私を見下してきた奴にマウントを取りたかったのに!」
カルマ男爵夫妻は悪態をつきながら、ホールの出入り口へと連行され、会場から退場した。
(暴言についてはお母様が対処したから、もう私の出る幕はないわ。それにしてもこの方達は、横領までしていたのね)
「お父様とお母様が横領……? 冗談でしょ?」
「ファニー嬢は横領には関わっておらんようじゃったからカルマ男爵夫妻とは違って連行はせぬ。だが、夫妻に話を聞こうとは言ったが、横領はほぼ黒じゃ。近いうち、男爵の地位は余の権限によって剥奪することになる。つまりファニー嬢も夫妻と同じく平民落ちじゃ。これ以上要らぬ騒ぎを起こさぬなら、余が働き先を斡旋するからそれまで大人しく過ごせ」
「え!? 平民!? この私が!?」
「そうじゃ。カルマ男爵家はお家取りつぶしになる。横領は重い罪で、一家連帯責任となるんじゃ」
陛下の言葉にイアンが急に慌てる。
「ちょっと待って下さい! ファニーがシャンタル公爵家令嬢になることは絶対にあり得なくて、それどころか平民になるということですか!?」
「そうじゃ」
「そんな! じゃあ俺とファニーが結婚するにはファニーをどこかの貴族の家に養子縁組してもらうか、俺も平民になるしかないということですか!?」
「そうなるじゃろうな。ただ、今日の出来事はこれから貴族社会に知れ渡ることになるじゃろうから、養子縁組は難しいじゃろうな」
「嘘だろう……! ファニーが公爵家令嬢になるから、ルシアと婚約破棄したことについては父上に許してもらえたのに!」
イアンは頭を抱える。
イアンの父は伯爵家のルシアより公爵家令嬢になるファニーの方がずっと財産があるだろうと踏んで、イアンの婚約者をルシアからファニーに乗り換えることを許可した。
だからこそサミュエルが婚約破棄の話し合いの為にバルデ伯爵家を訪れた際、慰謝料は払い、ローレル伯爵家から借りている借金は今後は利子付で返済するというサミュエルからの要求をすんなり呑んだのだ。
今後はファニーの公爵家から借金しつつ、その借金をローレル伯爵家への返済に回し、公爵家からの借金はなあなあにするつもりでいた。
イアンの父はお金目当てだから、公爵家令嬢でお金を持ってるファニーでなければイアンの婚約者として認める訳がない。
――でも、その前提が間違っていたら?
ローレル伯爵家への借金が返せなくて、バルデ伯爵家は没落の道を辿るしかない。
イアンもイアンの父も婚約相手の調査をきちんとしなかったという点では似た者親子である。
もっとちゃんと調べておけば。
そう思っても過去に戻れる訳ではない。
頭を抱えていたイアンにある一つの考えが思い浮かぶ。
――そうだ、今ここでファニーと婚約破棄して、ルシアにもう一度婚約者になってもらおう。
そうすればこの状況を打開出来る。
この時のイアンは何の根拠もなく、それがうまくいき、全て元通りになると本気で思っていた。
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