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番外編 クライド
01.
しおりを挟む※ 読者人気ワースト(?)クライド殿下のお話です~
頭上に落ちた衝撃にクライドは顔を歪めた。
「いっ、てえ……」
そのままその場にしゃがみ込み、殴られた頭を押さえる。
「お前は! 私に何てものを見せてくれたのか!」
そう叫ぶのは第二王子である兄のウィンガムだ。
「……クライド、人としてやっていい事と悪い事の区別くらいつけないと駄目だ」
第一王子のコンラッドは落ち着いた様子で正論らしき事を述べてはいるが、既に出会い頭に力の限り殴られている。唐突に暴力で訴えておきながら……説得力は皆無だ。
クライドは儚い印象の青年である。
その由来は自身の体調によるものであり、しかも三男末っ子。更に幼い頃から親からも、この兄たちからすら蝶よ花よと甘やかされてきた男。なので、
(──親にだって殴られた事ないのに!)
と内心で憤慨していた。
ウィンガムが怒りを見せているのは、アリサの元婚約者の不貞の目撃者、ひいては証言者となった事である。……これについて、何の因果かクライドが手を回した事がバレてしまったのだ。
そうして彼らは実弟の非人道的行為に嘆き悲しみ怒っているところ、なのだが……
肝心のクライドは二人の主張を鼻で笑った。
「へえ、では兄上は美人局にあったエイダン・ロイダーヌ伯爵令息は何も悪くない。ただ気の毒であるだけだと? そういう事ですか?」
ぴくり、と次兄ウィンガムの眉が上がる。
「……そうは言っていない」
彼は潔癖症である。
当然婚約者以外の異性に手を出す神経なんて理解できる筈はない。
「百歩譲って誘惑に負けたロイダーヌ伯爵令息に非が無いとしましょう。……ですが一夜の過ちで済まさないまま、関係を続ける彼のどこに情状の余地があるというのですか?」
「……それは」
もし彼が一夜の過ちで済ましたなら。それをアリサに謝罪したなら。彼女はきっと許したし、クライドに割り込む余地など無かったのでは。
隙を作ったのはエイダン自身ではなかろうか。
そこにつけ込んで何が悪いのだろう。
そもそも自分は婚約者を裏切っておきながら、捨てられる未来を想像できないなんて、滑稽すぎる。
僅かに身を引く次兄に、クライドは勝ち目を見て口元を歪めたが、長兄の目は誤魔化せなかった。
「話を逸らすなクライド。今はお前の行いについて話をしているんだ」
「──ちっ」
(流石コンラッド兄上)
流されてくれない。
……確かに自分の行いは道徳的とは言わないが、一体何が悪いというのか。
一夜の恋に溺れ、盲目となった男。
結果だけ見ればそんな男に嫁がずに済んで、アリサは救われた。
「……全く反省していないな」
反発するクライドの眼差しに溜息を吐き、コンラッドは残念そうに続けた。
「クライド、お前は今から当面自室で謹慎だ。我々がいいと言うまでこの部屋から出るな」
「──は? 何を言っているのです?」
思わぬ沙汰にクライドは目を丸くする。
「この件は我々からアリサ嬢に直接謝罪に行く」
「っな! 何で……何故そうなるのですか?! 余計な真似をしないで頂きたい!」
兄たちの言葉にクライドの声が上擦った。
「……流石に理解したようだな。彼女の為に醜聞にならないように務めるが、お前とアリサ嬢との婚約は解消する。……理由はお前の病状が悪化したとでもしておけばいいだろう。その頭に巣食った腹の黒い虫たちを、綺麗に掃除するまでお前は監禁だ」
──謹慎が監禁になってしまった!
ではなく。
「婚約、解消……?」
ぱくぱくと口を開閉し、クライドはその場に立ち竦んだ。
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