存在しないことにされていた管理ギフトの少女、王宮で真の家族に出会う 〜冷遇された日々は、王宮での溺愛で上書きします〜

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お仕事編

14 ゾンビのような母

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ヤコブの調査によると──

「皮肉なことに、先日のオルランド侯爵とお前たちのトラブルで、オルランド元侯爵夫人、ああ、もうリアランス夫人でいいな。その夫人が気の毒だと社交界では噂が上がっている」

それを聞くだけで大体の予想がつくわね。
お母様のことだもの。
素直に夫を取られて、引き下がり、震えるタイプじゃないことはもう、私にだってわかるようになった。

「可哀想な妻を演じたってことですね」

「まあ、そうだ。今までの不貞も、シルビアに流された虚言だと。馬丁が防いでくれたが、かつてシルビアからオペラの招待を受けようとしたら、馬車に細工がされてて殺されかけたと震えて泣いてみせたそうだよ」

「全てが嘘じゃないというところが憎たらしいな」
グレイお兄様も歯ぎしりしながらも、母の逞しさに呆れている。

「実際、シルビアが流した噂もあるらしいから信憑性が高くなる。だが、それでどうして第五王妃の侍女の話に繋がるんだ」

ゲオルクはそこが納得いかないらしい。
第五王妃は三大公爵家出身で、王家の侍女となれば簡単には出入りできないはずだ。

「離婚したあと、君を船に投げ込み、リアランス夫人は実家のビオトープ伯爵家に戻った。
だが、当主は、身分が自分より上の侯爵と離婚した妹の扱いに困った。だからどこか貴族の教育係として身を置ける場を探していた。」

当たり前だけど、存在を隠されていたから、母の実家のことや叔父にあたる方のことは何も知らない。
でも、離婚しただけで持て余されるほど、貴族女性の立場はもろい。

あんな目にはあったけど、実際わたしを抱えながら生きていけないのは本当だったんだわ。
それがわかっていて私を放り出した父を、あんな「ざまあ」で納得するしかないのが腹立たしくなる。

「お母様の作法や、社交界のコネや采配は流石だもの。ほしがる家があるのはおかしくないわ。それに侯爵夫人だったのだし...」

「うーん......そうはいかなかったんだよね。なんせ.....リアランス夫人は社交界の蝶と呼ばれるほど美しく妖艶だしさ」

「妖艶!!え?淑女の見本の間違いじゃないの?」

目を丸くする私の顔がおかしかったのか?
ヤコブは苦笑いしながらも、そばにあった紅茶を一口飲んで何か考えている。

「あの、私や兄への気遣いならいらないわ。ズバッと言っていただけないかしら?」

外見が妖艶と言われるのはイメージと異なるが、中身も私の抱いていた母とは違うことを私はもう知っている。

「そうだね。見た目や、ちょっとしたやり取りは、いわゆる貞淑な淑女なんだけど、彼女の目に留まった人は、ほぼ全員生け捕りじゃないかな。落とされた人間は、その昼間とのギャップに.....って、まあ、言わなくてもわかってもらえるだろ」

まあっ!なんだか、自分のお母様の話ということもあるけどわ艶めかしすぎるわ。
両手で頬を押さえて想像してしまう自分の頬を押さえる。

「ヤコブ! リリアは今どきない天然記念物レベルの純粋さなんだからね。
どこまでその純粋さがもつのか楽しみにしてるのに、目の前から手折らないでくれないかな?」

ゲオルクがつまらなそうにヤコブを睨む。

「おい、俺の母親でもあるんだ。俺の純粋さも手折らないでほしいよ。流石に想像したくない」

グレイは如何にも嫌そうな顔をして、わざとらしく私に抱きつき、俺たちは弱い兄妹ですというフリをする。

「俺はいつかグレイの腹黒さを手折ってやりたいがね。」
ふっと、ヤコブは笑いつつもやがて、遠い思い出を語るように、話し始めた。

「わたしはリアランス夫人と同世代だが、デビュッタントの彼女は、みんなの話題を独占した。
可憐さと小悪魔さが混じって...まさにグレイとリリアーナを足して割ったような雰囲気だった。同年代だけじゃなく、独り身の枯れた貴族までなんとか自分のものにできないかと競い合ったもんだよ」

そういって、ヤコブは懐かしそうな顔をするが、お母様って、物語に出てきそうな人と思っていたけど、そこまでの人気だったのねと目をぱちぱちしてしまう。
なにせ基準が母しかいない。
よって母より上も下もない。

「だが、そんな魅力的な彼女が、あちこちで浮き名を流した挙句フリーになったんだ。家に教育係として入れたがる奥方がどれほどいると思う?どの夫人たちも、かつて社交界では彼女に話題をさらわれて煮湯を飲まされた。その方達が各屋敷の権力者となっているわけだからね」

「それが、この度の騒動で気の毒に夫と愛人に手折られた侯爵夫人になったわけか。さすがに王室なら今更、王のお手つきになる可能性は低いし、侯爵夫人だったわけだから教育者としては最適。顔も広いよな」

「はぁー、父上がざまぁになったと思ったら、母上がゾンビのような復活か。やっぱり女は怖い」

グレイはぶるっとしながら、自身を両手を抱き抱える真似をする。
お兄様は、年齢的にもそろそろ身を固めても良い歳だけど、結婚しないのは母の本性を知っているからかもしれない。

「第一王妃のお茶会となると、私一人の参戦でしょう。ついてくるメイドすらいないわ」
私は、不安になる。

だってお母様からどんな刃が飛んでくるかわからない。
どんなに知識を詰め込んでも、社交界で実践してきたのは母。
さらにいうなら、私を作り上げたのも母だ。

「第五王妃とお近づきになったらなったで、母上との接触は避けられない。いっそ、リリアとゲオルクはここで破局させて退場した方がいいんじゃないか?」

グレイお兄様が私のことを気にしてくれる言葉はこそばゆい。
多分、今までの虚像の優しさとは違い、本当に心配してくれているからだわ。
失ったものもあったけど、良くなる関係だってあるのよね。

そんな私たちの様子を見ながら、ゲオルクも気になることを言ってきた。

「確かにな。俺の母は、第一王妃のお茶会で突然体調を崩して亡くなっている。
俺がいたぐらいで、第一や第二の子供の立場が危うくなるとは思わない。それでも、第三夫人の母は第一王妃に殺されたと俺は思ってる。」

その突然のゲオルクの発言に、部屋がシーンと静まり返る。

「王子としての俺は、母が踊り子だし立場は弱かった。それでも執拗に母を攻撃してきたわけだからな。
第五王妃に、何か仕掛けてくる可能性はあるし、リリアに何か仕掛けてくる可能性も否定できない」


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