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第一章 拠点作り
第3話 : 職人の「道具」と不揃いな獲物
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――歪な弓と、樽の中の静寂――
拠点の骨組みが形になり始めた頃、ケンタロウの胃袋は限界を迎えていた。
村の交易所でまとめ買いした干し肉は、ゴムのように硬く、味も素気もない。
職人として「食」もまた生活の質を支える重要な要素だと考える彼にとって、この食事の妥協は耐え難い苦痛になりつつあった。
「……そろそろ、新鮮な肉が要るな」
ケンタロウは、小屋の隅に立てかけてあった一張の弓を手に取った。村長から譲り受けた初期装備の『狩人の弓』。
一歩森へ踏み入り、見つけた獲物――『ホーンラビット』へ矢を番い、引き絞ったその瞬間、彼の指先に鋭い「違和感」が走った。
(……やはり軽い。それに、しなりが均一じゃないな)
職人の指は、道具の僅かな歪みを敏感に察知する。
道具がこれでは、射手の意思を正確に矢に伝えてくれない。
放たれた矢は狙いから僅か数センチ外れ、獲物の肩を貫いた。
二の矢でなんとか仕留めたものの、無駄に暴れたせいで肉は血に染まり、毛皮にも余計な傷がついている。
「……これじゃあ、いかんな。弓も自分で作るしかないな……。」
納得のいく道具があって初めて、納得のいく結果が得られる。
48歳の職人は、獲物を担ぎながら、自給自足の本質を再確認していた。
拠点へ戻ったケンタロウは、仕留めた獲物を手早く処理し、次なる工程――「鞣(なめ)し」のための準備に取り掛かった。
アイアンオークの樹皮と、森で見つけた琥珀色の樹脂。これらを使って、革を漬け込むための「鞣し樽」を製作する。
彼は銀鱗松の端材の中から、節の少ない良質な板を選び出した。
本来、水漏れを防ぐ樽作りは高度な木工技術を要するが、ケンタロウは目測だけで板の反りを計算し、手斧一つで接合面を削り出していく。
「接着剤代わりには、こいつが使えるはずだ」
採取したばかりの琥珀色の樹脂を火にかけ、粘り気が出るまで煮詰める。
工房に立ち込めるのは、樹脂特有の甘く濃厚な香りだ。それを板の継ぎ目に丁寧に塗り込み、外側を伐採した際に出た蔓(つる)で、はち切れんばかりの力で強固に締め上げた。
完成したのは、無骨ながらも一滴の水漏れも許さない、まさに職人仕様の木樽。
砕いたアイアンオークの樹皮を水と共に満たし、下処理を終えたフォレスト・ディアの原皮を沈める。
通常、現実世界では数週間から数ヶ月を要する「タンニン鞣し」だが、この世界のシステム補正により、樽の横には【完了まで:24時間】というホログラムが表示された。
「……二十四時間か。明日には、俺の『最初の革』が手に入るわけだ」
一仕事を終え、重い腰を上げたケンタロウは、ふと森の奥に視線をやった。
ガサリと草木を分けて現れたのは、再び姿を現したホーンラビットだった。
赤く光る一対の目がケンタロウを凝視している。低レベルプレイヤーなら戦慄する場面だが、今の彼の目に映っているのは、魔物の脅威ではない。
「……あの毛並み、それに薄くも丈夫そうな皮。小銭入れや、弓のグリップを巻くのにちょうど良さそうだな」
恐怖ではなく「品評」。
彼はガタの来ている弓を再び手に取った。道具への不満を抱えながらも、その指先は既に、次なる「最高の一品」を作るための素材を見定めていた。
「動くなよ。……次は、皮を傷つけずに仕留めてやる」
夕闇が完全に拠点を包み込む中、職人の静かなる「狩り」が再び始まった。
レザークラフトの世界でも、彼は道具を何より大切にしてきた。
研ぎ澄まされた包丁、重さが馴染んだ木槌、滑らかな指当たりの針。
良い道具があって初めて、素材の声が聞こえ、最高の作品が生まれる。
それは狩りにおいても、建築においても同じはずだった。
「次は……弓も、自分で作るか」
自給自足のスローライフ。
それは、生活に必要なものをただ手に入れることではない。納得のいく道具を揃え、納得のいく工程を経て、納得のいく結果を得ること。
48歳の職人は、辺境の森の中で、改めて自分の「生き方」を再確認していた。
ケンタロウは角兎を担ぎ上げると、湖畔の拠点へと戻る足取りを速めた。
その頭の中では既に、森で見かけたあのしなやかな「銀鱗松」の若木と、これから手に入れるであろう野獣の腱を組み合わせた、新しい弓の設計図が描かれ始めていた。
「肉を食ったら、まずは乾燥台の製作。それから弦の素材探しだ……」
彼のやるべきことは増えていく一方だったが、その表情には、現実の納期に追われていた頃にはなかった、晴れやかな充足感が浮かんでいた。
【ケンタロウのスキル熟練度】
• レザークラフト:Lv.15 (75/100) [+55] ※鞣し工程の開始と下処理
• 解体:Lv.10 (70/100) [+60] ※獲物の処理
• 木工:Lv.6 (75/100) [+125] Level Up! ※鞣し樽の製作
• 鍛冶:Lv.5 (30/100)
• 採取・伐採:
• 伐採:Lv.4 (20/100)
• 採取:Lv.4 (15/100)
• キャンプ:Lv.2 (10/100) [+40] Level Up!
• 弓:Lv.1 (85/100) [+75] ※道具の不備を補う集中力
• 短剣:Lv.1 (40/100) [+15]
• 建築:Lv.1 (80/100) [+50]
• 料理:Lv.1 (40/100)
• 追跡:Lv.1 (45/100) [+25]
• 体力向上:Lv.1 (90/100) [+20]
• 目利き:Lv.1 (85/100) [+50]
• 接着・加工(新規取得):Lv.1 (45/100) [+45]
• 道具鑑定(新規取得):Lv.1 (20/100) [+20]
【新規取得スキル】
• 接着・加工:樹脂を用いた樽の接合により発現。
• 道具鑑定:初期装備の歪みを見抜いたことで発現。
【設定資料・状況の確認】
• 拠点:本格的な「鞣し樽」が稼働開始。
• 装備:村長の弓への不満が爆発。次話以降、銀鱗松と腱を使った弓製作が目標に。
• 素材:ディアの皮を鞣し中。ホーンラビットの皮を小物用に狙っている。
拠点の骨組みが形になり始めた頃、ケンタロウの胃袋は限界を迎えていた。
村の交易所でまとめ買いした干し肉は、ゴムのように硬く、味も素気もない。
職人として「食」もまた生活の質を支える重要な要素だと考える彼にとって、この食事の妥協は耐え難い苦痛になりつつあった。
「……そろそろ、新鮮な肉が要るな」
ケンタロウは、小屋の隅に立てかけてあった一張の弓を手に取った。村長から譲り受けた初期装備の『狩人の弓』。
一歩森へ踏み入り、見つけた獲物――『ホーンラビット』へ矢を番い、引き絞ったその瞬間、彼の指先に鋭い「違和感」が走った。
(……やはり軽い。それに、しなりが均一じゃないな)
職人の指は、道具の僅かな歪みを敏感に察知する。
道具がこれでは、射手の意思を正確に矢に伝えてくれない。
放たれた矢は狙いから僅か数センチ外れ、獲物の肩を貫いた。
二の矢でなんとか仕留めたものの、無駄に暴れたせいで肉は血に染まり、毛皮にも余計な傷がついている。
「……これじゃあ、いかんな。弓も自分で作るしかないな……。」
納得のいく道具があって初めて、納得のいく結果が得られる。
48歳の職人は、獲物を担ぎながら、自給自足の本質を再確認していた。
拠点へ戻ったケンタロウは、仕留めた獲物を手早く処理し、次なる工程――「鞣(なめ)し」のための準備に取り掛かった。
アイアンオークの樹皮と、森で見つけた琥珀色の樹脂。これらを使って、革を漬け込むための「鞣し樽」を製作する。
彼は銀鱗松の端材の中から、節の少ない良質な板を選び出した。
本来、水漏れを防ぐ樽作りは高度な木工技術を要するが、ケンタロウは目測だけで板の反りを計算し、手斧一つで接合面を削り出していく。
「接着剤代わりには、こいつが使えるはずだ」
採取したばかりの琥珀色の樹脂を火にかけ、粘り気が出るまで煮詰める。
工房に立ち込めるのは、樹脂特有の甘く濃厚な香りだ。それを板の継ぎ目に丁寧に塗り込み、外側を伐採した際に出た蔓(つる)で、はち切れんばかりの力で強固に締め上げた。
完成したのは、無骨ながらも一滴の水漏れも許さない、まさに職人仕様の木樽。
砕いたアイアンオークの樹皮を水と共に満たし、下処理を終えたフォレスト・ディアの原皮を沈める。
通常、現実世界では数週間から数ヶ月を要する「タンニン鞣し」だが、この世界のシステム補正により、樽の横には【完了まで:24時間】というホログラムが表示された。
「……二十四時間か。明日には、俺の『最初の革』が手に入るわけだ」
一仕事を終え、重い腰を上げたケンタロウは、ふと森の奥に視線をやった。
ガサリと草木を分けて現れたのは、再び姿を現したホーンラビットだった。
赤く光る一対の目がケンタロウを凝視している。低レベルプレイヤーなら戦慄する場面だが、今の彼の目に映っているのは、魔物の脅威ではない。
「……あの毛並み、それに薄くも丈夫そうな皮。小銭入れや、弓のグリップを巻くのにちょうど良さそうだな」
恐怖ではなく「品評」。
彼はガタの来ている弓を再び手に取った。道具への不満を抱えながらも、その指先は既に、次なる「最高の一品」を作るための素材を見定めていた。
「動くなよ。……次は、皮を傷つけずに仕留めてやる」
夕闇が完全に拠点を包み込む中、職人の静かなる「狩り」が再び始まった。
レザークラフトの世界でも、彼は道具を何より大切にしてきた。
研ぎ澄まされた包丁、重さが馴染んだ木槌、滑らかな指当たりの針。
良い道具があって初めて、素材の声が聞こえ、最高の作品が生まれる。
それは狩りにおいても、建築においても同じはずだった。
「次は……弓も、自分で作るか」
自給自足のスローライフ。
それは、生活に必要なものをただ手に入れることではない。納得のいく道具を揃え、納得のいく工程を経て、納得のいく結果を得ること。
48歳の職人は、辺境の森の中で、改めて自分の「生き方」を再確認していた。
ケンタロウは角兎を担ぎ上げると、湖畔の拠点へと戻る足取りを速めた。
その頭の中では既に、森で見かけたあのしなやかな「銀鱗松」の若木と、これから手に入れるであろう野獣の腱を組み合わせた、新しい弓の設計図が描かれ始めていた。
「肉を食ったら、まずは乾燥台の製作。それから弦の素材探しだ……」
彼のやるべきことは増えていく一方だったが、その表情には、現実の納期に追われていた頃にはなかった、晴れやかな充足感が浮かんでいた。
【ケンタロウのスキル熟練度】
• レザークラフト:Lv.15 (75/100) [+55] ※鞣し工程の開始と下処理
• 解体:Lv.10 (70/100) [+60] ※獲物の処理
• 木工:Lv.6 (75/100) [+125] Level Up! ※鞣し樽の製作
• 鍛冶:Lv.5 (30/100)
• 採取・伐採:
• 伐採:Lv.4 (20/100)
• 採取:Lv.4 (15/100)
• キャンプ:Lv.2 (10/100) [+40] Level Up!
• 弓:Lv.1 (85/100) [+75] ※道具の不備を補う集中力
• 短剣:Lv.1 (40/100) [+15]
• 建築:Lv.1 (80/100) [+50]
• 料理:Lv.1 (40/100)
• 追跡:Lv.1 (45/100) [+25]
• 体力向上:Lv.1 (90/100) [+20]
• 目利き:Lv.1 (85/100) [+50]
• 接着・加工(新規取得):Lv.1 (45/100) [+45]
• 道具鑑定(新規取得):Lv.1 (20/100) [+20]
【新規取得スキル】
• 接着・加工:樹脂を用いた樽の接合により発現。
• 道具鑑定:初期装備の歪みを見抜いたことで発現。
【設定資料・状況の確認】
• 拠点:本格的な「鞣し樽」が稼働開始。
• 装備:村長の弓への不満が爆発。次話以降、銀鱗松と腱を使った弓製作が目標に。
• 素材:ディアの皮を鞣し中。ホーンラビットの皮を小物用に狙っている。
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