殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央

文字の大きさ
14 / 53
第一章 南の塔(悪だくみはここから始まります)

第14話 死神と狼娘(狂信者がうまれます)

しおりを挟む
 見覚えのある死神たちが、彼女と彼の周囲に湧いてでていた。
 この時のフレンヌは少年が王太子だなんて知らないから、ただ素直に少年に申し訳ないことをしたと心の中で謝罪していた。
 魔導師達に手足の自由を奪われ、拘束されて運ばれていく自分はまるで昔、冬の広場で解体される豚が運ばれていくさまを連想させた。

 あの豚もまた、自分と同じように手足をぐるぐる巻きにされて動けないまま助けてくれと哀れな命乞いをする叫び声をがなり立てていたからだ。
 それならば、自分はせめて獣よりも人間として死んでやろうとおもった。
 獣人だからといって、獣のように誇りも尊厳もなく死んでいったと思われるのは癪だった。

 自分は人なのだ。
 例え獣の耳と尾を持っていたとしても、心はまぎれもない人間なのだ。

 ぶらん、ぶらんと空中に横倒しにして浮かべた杖の間に手足を魔法の縄で縛り上げられて、吊り下げられて連行されていく。
 その最中にやはり心残りだったのはあの少年のことだ。

 彼に助けを求めたことが彼にとって何かよくない結果を招いたとしたら……それは申し訳ないことをした。
 あとから自分と同年代、三歳だけ年下の五歳の少年が王太子だと教えられ、彼の命令によって仲間たちは解放され、魔導師の卵となった。

 フレンヌはガスモンの養女となり、仲間たちの尊敬を集めるよう指導者になるように命じられた。
 奴隷の身分から解放されるきっかけを作ったフレンヌは仲間たちからの信頼を浴び、それは集団の上位へと昇りつめる階段を歩き始めることを彼女に命じていた。
 王太子の側にあがり、聖女と王太子の三人は幼馴染となり、友好を深めていくきっかけにもなった。

 そんなことをしていたら十年が経過していた。

 ガスモンの後を継ぐ後継者は数十といたが、養女はフレンヌだけでその才覚も彼の魔法を受け継ぐに相応しいと周りから一目置かれるようになった。
 それだけではなく、偶然もあったのだろう。
 獣人の奴隷制は廃止され、それはいずれ側妃になるかもしれないと隠れた噂となって、フレンヌの手柄のように仲間の獣人には伝わっていた。

 王太子の気まぐれが起こしたその結果、フレンヌはいつの間にかこの王国に買われてやってきた数千人を越える獣人たちの心の拠り所となっていた。

「女神はいらない。人の国は人の手で。魔法があるならば、魔法の力を利用して人は自由あるべきだ」

 幼馴染の一人、カトリーナが病気に倒れ床に伏せるようになってから、その見舞いにいった帰りに王太子はいつもそう呟いていた。

 それならば、結界の構造を研究して同じものを作りだせばいい。
 フレンヌはそう考えるようになっていた。
 彼がそうするようにと命じたわけでもない。
 だけど、フレンヌもカトリーナを旧い記憶の中にいる彼女のように、もう一度、歩かせてやりたいとは思っていた。

 あくまでもそれは殿下のぼやきを解消したあとで、だけれども。
 まず第一は、結界の創造を女神様なしで成功させること。
 それが出来たら……カトリーナを自由にしてあげてもいいかもしれない。
 わたしから殿下を奪わないと誓うのなら、寝たきりのままなら、存在を認めてもいいかもしれない。

 でも、殿下の一番は。 
 最も愛されるべき存在になるのは。
 そのお側で寵愛を一手に引き受けるのは……。
 わたしじゃなきゃ、嫌よ。
 あんな寝たきりで殿下を楽しませることもできない女なんてお荷物だわ。
 お話でも、ゲームでも騎馬での通りのでも、舞踏会でも……殿下のために全てを捧げられるのは自分しかいない。

「殿下、女神様の結界がなくてもこの国は魔法の力で生きていけるはずですわ。わたし、頑張ります。どうしかして研究を成功させてみます。父上様にも力になって頂きます。カトリーナを解放してやりましょう!」
 
 心の無い一言。
 その中に隠された本意にルディは気づかない。
 彼はああ、そうだな、と呟いてそれを指示した。
 何よりも誰よりも、自分のためにそれを手に入れたいと願う気持ちが、たまに神の領域へと達することもある。
 カトリーナは炎の女神ラーダからの祝福を。
 フレンヌは遠く異なる大陸で祖先たちが奉っていた別の神からほんの少しだけ力を借りて……野望を達成するための第一歩を歩み始めていた。

 その神様は月を食べた黒い狼の神様で、闇を統べる神様の一柱で。
 まさか、『死神』なんて異名をもっていたなんて。
 このとき、フレンヌも誰もしることはなかった。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

処理中です...