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第三章 会議と選択と
第31話 出国税(無い袖は振れません)
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この追放はなるべくしてなったのだろうと、カトリーナは思っていた。
フレンヌは殿下を手にするために、結界の構造を紐解き、自分が複製して使えるようにしたのだから。大したものだと、感心するほかなかった。
「……新しい王妃様にご協力したらいかがかしら、教皇様」
「なっ‥‥‥何?」
「ですから、新国王夫妻に、協力されてはいかがかと、そう申しております。それとも、わたしが退位したとしますよね。誰か代わりに聖女を建てるおつもりですか? その代理人は一体どこに? まさか、自分の孫娘を新しい聖女にするおつもり、とか?」
「それはない! わしらに聖女様を選ぶことなど、できるわけがない。それは女神様が為されることだ。恐ろしいことを言わないでいただきたい、聖女様」
「なら‥‥‥」
何を望んで退位なんてさせたいの?
カトリーナは眉根を潜めて怪訝そうな顔をする。
こんな場所に集った本当の意味が、何も見えてこない。
ナディアやルーファスたちを見やると二人とも視線をそらしてしまう。
大神官はふてくされたまま、カトリーナに目を合わせようともしないが、それでもヒントのような一言をつぶやいた。
「……税金だ」
「税金? 何の税金ですか? 神殿の? 春の徴税はもう終わったでしょう」
「聖女様‥‥‥」
やがて教皇は苦しそうに言葉を発した。
「解放奴隷は資産なのです。しかし、金がかかる資産なのです。働かせるだけでは済まない。養う金がかかる資産なのです」
「でも領主たちは手放したがっていたのでは? だからこそ、これだけ数万もの‥‥‥王国の国民の一割を超える彼らが集まっても未だに苦情が立たないのでは?」
いいえ、と教皇は首を振る。
そこには自分の力ではもうどうしようもないという、苦悩の一端が見て取れた。
それを見て、カトリーナはこの老人もただ、神殿での勢力争いのためだけに来たのではないのだ、と分かった。
彼が聖女の退位だの、宝珠だのと言ってきたのは――本当の理由を解決できないからなのだ、と。
「国民を出国させるための税金を支払え、と。そうルディは通達してきましたか。王太子殿下はそれが支払えなければ、聖女の正式な引退と、宝珠を引き渡せとそういうお話でしょうか。わたしたちが宝珠を持ち出したという話にして、更に神殿に払えるはずのない莫大な税金を抱えさせ、期日までに支払いができなければ‥‥‥?」
教皇はそれまで見せなかった悲しい顔をして、かぶりを振った。
「期日はいつまでに? 教皇様」
「……そう長くはありません。早くて、翌週末には‥‥‥」
「翌週末? なるほど、それは時間がありませんね。早くて十日、といったところですか」
さて、要求される額はどれほどだろう。
カトリーナは思ったよりも落ち着いている自分を不思議に感じていた。危機に陥れば、陥るほど‥‥‥勇気が湧いてきて高揚感が全身を駆け巡る。炎の女神に連なる聖女は、もしかすればとても好戦的なのかもしれないと思った。
「額は?」
「大金貨千枚、と」
大金貨千枚。王国の年度予算とほぼ同額だ。
高く見積もられたものねー……そこは評価するけれど。
さて、困った。お金はないのだった。
フレンヌは殿下を手にするために、結界の構造を紐解き、自分が複製して使えるようにしたのだから。大したものだと、感心するほかなかった。
「……新しい王妃様にご協力したらいかがかしら、教皇様」
「なっ‥‥‥何?」
「ですから、新国王夫妻に、協力されてはいかがかと、そう申しております。それとも、わたしが退位したとしますよね。誰か代わりに聖女を建てるおつもりですか? その代理人は一体どこに? まさか、自分の孫娘を新しい聖女にするおつもり、とか?」
「それはない! わしらに聖女様を選ぶことなど、できるわけがない。それは女神様が為されることだ。恐ろしいことを言わないでいただきたい、聖女様」
「なら‥‥‥」
何を望んで退位なんてさせたいの?
カトリーナは眉根を潜めて怪訝そうな顔をする。
こんな場所に集った本当の意味が、何も見えてこない。
ナディアやルーファスたちを見やると二人とも視線をそらしてしまう。
大神官はふてくされたまま、カトリーナに目を合わせようともしないが、それでもヒントのような一言をつぶやいた。
「……税金だ」
「税金? 何の税金ですか? 神殿の? 春の徴税はもう終わったでしょう」
「聖女様‥‥‥」
やがて教皇は苦しそうに言葉を発した。
「解放奴隷は資産なのです。しかし、金がかかる資産なのです。働かせるだけでは済まない。養う金がかかる資産なのです」
「でも領主たちは手放したがっていたのでは? だからこそ、これだけ数万もの‥‥‥王国の国民の一割を超える彼らが集まっても未だに苦情が立たないのでは?」
いいえ、と教皇は首を振る。
そこには自分の力ではもうどうしようもないという、苦悩の一端が見て取れた。
それを見て、カトリーナはこの老人もただ、神殿での勢力争いのためだけに来たのではないのだ、と分かった。
彼が聖女の退位だの、宝珠だのと言ってきたのは――本当の理由を解決できないからなのだ、と。
「国民を出国させるための税金を支払え、と。そうルディは通達してきましたか。王太子殿下はそれが支払えなければ、聖女の正式な引退と、宝珠を引き渡せとそういうお話でしょうか。わたしたちが宝珠を持ち出したという話にして、更に神殿に払えるはずのない莫大な税金を抱えさせ、期日までに支払いができなければ‥‥‥?」
教皇はそれまで見せなかった悲しい顔をして、かぶりを振った。
「期日はいつまでに? 教皇様」
「……そう長くはありません。早くて、翌週末には‥‥‥」
「翌週末? なるほど、それは時間がありませんね。早くて十日、といったところですか」
さて、要求される額はどれほどだろう。
カトリーナは思ったよりも落ち着いている自分を不思議に感じていた。危機に陥れば、陥るほど‥‥‥勇気が湧いてきて高揚感が全身を駆け巡る。炎の女神に連なる聖女は、もしかすればとても好戦的なのかもしれないと思った。
「額は?」
「大金貨千枚、と」
大金貨千枚。王国の年度予算とほぼ同額だ。
高く見積もられたものねー……そこは評価するけれど。
さて、困った。お金はないのだった。
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